将棋に瀬川晶司先生というプロ棋士がいらっしゃいます。一度はプロの道を断念されたもののアマチュア界で大活躍され、特例でプロ入りを許可された実力者です。アマチュアから特別な試験制度で合格された棋士は大昔の花村先生とこの瀬川先生、それについ最近棋士になられた今泉先生の三人だけです。
その瀬川先生が最新号の「将棋世界」に面白い記事を書かれていました。

雑談のときある棋士がこうおっしゃった。自分は記憶力がよくないから、ひたすら毎日反復する以外に勉強方法がない。ところがこの発言をされた先生はいわゆるトップ棋士で、はた目には記憶力も抜群に見えるのだそうです。
瀬川先生は、こんなにすごい棋士が日々の反復が足りないとおっしゃるのであれば、ご自身も結局もっともっと反復の努力をするしかない、調子が悪いなどというのは、単なる努力不足にすぎないと反省されたと書いていらっしゃった。

世間では頭がいい悪いと簡単に済ませてしまいがちですが、頭がいいと思われている人が日々どれほど繰り返しの努力をしているか周囲は気づかないだけだと思います。逆に覚えられなかったりわからなかったりする人は、単純に日々の反復が足りないということでしょう。
ときどき「あいつはけっこうすらすら覚えるのに自分はなかなか覚えられない」と嘆く人がいますが、それは回路がまだできていない証拠です。回路がしっかりしてくると早くなっていきますから安心してください。

算数の九九と同じですね。はじめは暗誦するのにとてつもなく時間がかかった。だんだんはやくなってくる。回路ができてくるからです。回路を作る以前に「自分にはどうせ才能はない」と投げてしまったら、九九でさえいつまでたってもできないですよ。
英単語を覚えるのも計算が上手になるのも活字を読むスピードをつけるのも何でもそうです。「毎日」と「反復」という二つの言葉が鍵になります。調子が悪いときは、そのどちらかが欠けている。漠然と嘆かずに冷静に受け止めてください。

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著者プロフィール

長野正毅先生

Z会進学教室渋谷教室長。
80年代より小・中・高校生(大学受験生)の学習指導に携わり、
97年よりZ会の教室に講師として勤務。担当は国語。
受験国語にとどまらない確かな指導は、生徒はもちろん、保護者からの絶大な支持を集める。

30余年にわたる指導において先生が目撃してきた
できる子の学習法
できる子を育てる家庭の秘訣
について綴ったブログが大人気(日本ブログ村「高校受験」カテゴリーで1位)。
2015年にはブログの記事を集めた書籍「励ます力」を出版。