ときどき10分間だけ漢字テストの練習をしてもらうときがあります。一学期に一回とか二回とか。ふだんから皆さんきちんと自宅で練習してきてくださるので、いい点をとらせるためではなく10分間でどれだけのことができるか実感してもらうためです。それと私自身が彼らの心の状態を見たいということもあります。そういうとき、姿勢の差が出てきます。

今年、最上位の私立高校を受験して見事に合格した男子生徒がいました。その子は毎回漢字テストは満点をとっていました。8割でも9割でもなく満点です。満点でないと気持ちが悪いのでしょう。
そういう子ですから厳密に言えば教室での練習時間はまったく必要ありません。つまり10分間何も書かなくても――いつもと同じですから――100点をとるでしょう。

与えられた10分間、その生徒はどうしたと思いますか?
ひたすら練習し続けました。書いて覚える習慣がついているうえに、今回も完璧に準備してきたからでしょう。書くスピードはものすごくはやい。どんどん書いていって普通はむりなのですが、マス目をすべて埋め尽くしてしまいました。それぞれ三回ずつ書いて120のマス目ぜんぶです。

それでも1〜2分余りました。びっくりしたのはここからです。
彼はさらに欄外に練習をしはじめました! 一心不乱に書いている。そして時間が来てテストを受け、もちろん満点をとりました。
中にはずーっとテキストを見ているだけという生徒もいた。私は「やってあると思うから必要なところだけ練習して補強しなさい」とは言いました。

見ているだけ、あるいは熱心に書いていなかった子も合格点はとれています。しかし、やはり何かが違う。作業量だけではない何か。精神面というか向き合う気持ちというか。もはや100点をとるためなどという浅薄な理由だけではなくなっているのですよ。練習する用紙が与えられ時間が与えられできるようになりたい自分がいる。素直な生徒が、やはり伸びるように思います。

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著者プロフィール

長野正毅先生

Z会進学教室渋谷教室長。
80年代より小・中・高校生(大学受験生)の学習指導に携わり、
97年よりZ会の教室に講師として勤務。担当は国語。
受験国語にとどまらない確かな指導は、生徒はもちろん、保護者からの絶大な支持を集める。

30余年にわたる指導において先生が目撃してきた
できる子の学習法
できる子を育てる家庭の秘訣
について綴ったブログが大人気(日本ブログ村「高校受験」カテゴリーで1位)。
2015年にはブログの記事を集めた書籍「励ます力」を出版。