成績がふるわない理由があまりの過保護さにあるというケースをいくつも見ています。成績がふるわないのでますます過保護になる。つまり「他のことは一切何もしなくていいからとにかく勉強だけしていなさい」という形になる。実際勉強に時間を割くのですが、地に足がついた物の見方ができないのでなかなか成果があらわれません。
勉強そのものも大切ですが、もっともっと人生の深みに気づかせる必要がありそうです。

おつかいに出してみてください。細かい指示は出しすぎない。ぶり大根を作るからいいぶりと大根を買ってきてとおっしゃってみてください。「いいぶりと大根って?」ご本人は当惑するでしょう。お店の人に質問してみなさいでけっこうです。さらに「自分でも調べてごらん」とおっしゃればいい。そうやって社会の中で揉まれるように工夫するのです。
別の日はカレーを作るから何百円以内で材料買ってきて、でけっこうです。材料って何だろう? 困惑するかもしれませんが、苦労が器を作ります。

私はご家族(主に高齢の方)のさまざまな身体的な世話をされていた生徒を何人か知っています。そんなこといちいち表明するものでもありませんから、何かのタイミングでおうちの方にうかがう。「へええ、そんな感心なお手伝いをされているのですか」と偶然知りました。
みんな大人びたしっかりした子たちばかりでした。お世話の時間も勉強をしていればもっともっと成績がよかったかというと必ずしもそんなことはない。苦労が人を磨く。大人にするのです。

何かしら生活に密着したお手伝いをしていると、人間そのものが磨かれてくる。トイレ掃除でも食器洗いでも何でもいいですよ。昔食器洗いの手順を通して勉強のコツをつかんだと言っていた女子生徒がいました。洗ったら拭く、拭いたら片づける。当然のことですね。その子は洗い物の作業中、いままでの自分の勉強は洗うだけで終わりだったと気づいたとおっしゃっていた。生活全体からアプローチしてみてください。

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著者プロフィール

長野正毅先生

Z会進学教室渋谷教室長。
80年代より小・中・高校生(大学受験生)の学習指導に携わり、
97年よりZ会の教室に講師として勤務。担当は国語。
受験国語にとどまらない確かな指導は、生徒はもちろん、保護者からの絶大な支持を集める。

30余年にわたる指導において先生が目撃してきた
できる子の学習法
できる子を育てる家庭の秘訣
について綴ったブログが大人気(日本ブログ村「高校受験」カテゴリーで1位)。
2015年にはブログの記事を集めた書籍「励ます力」を出版。