知的好奇心は刺激に対する反応とはべつのものです。ですから知的好奇心を涵養していくためには、それなりの時間的余裕が必要になってきます。すぐに反応するのではなく、じわじわと(考えてみればおもしろい話だなあ・・・)と自分の中で育てていかなければいけない要素がたぶんにある。
ところが現代の子どもは忙しすぎて、なかなか「じわじわ」という時間の余裕が持てません。そのあたりにとても大きな問題があるように思います。

1つの勉強をしますね。その内容についてしばらく考える時間が本当は必要なのです。勉強が終わった時点ですぱっと切ってしまうと、熟成していくものが何もありません。教科書やテキストは素材にすぎず、それが個々人の中でどのように羽を伸ばしていくかということがじつは大切なのです。
同じ先生に同じ教材で学び、それなのに著しく差が出てくるのは「熟成化」の違いにあると言えるでしょう。

復習しましょうという表現がありますね。復習はもちろん大切ですが、この「熟成化」は復習以上のものです。じつに面白いじゃないかという感想が持てるかどうか。そのためには学んだことをぼんやり思い返せる時間的空間的余裕が必要でしょう。
勉強が終わるや否や刺激の強い遊びに興じてしまう。そこまでひどくなくても復習は形だけですぐ刺激的な遊びに移行してしまう。するとどうしても熟成が甘くなります。残念ながら、他の強い刺激を加えることで霧散してしまう恐れがあるのです。

ですからある程度、静かに時間的な余裕を持てる生活を心がけてください。自分が教えている生徒でも、たとえばある作家を学んだあとでその作家の作品をあれこれ読み比べたりしている生徒がいます。そして「はじめはつまらなかったのに少し面白さがわかってきた」などと言う。こういうのを本当の「勉強」と呼ぶのであって、相当の余裕がないと不可能ですね。ただこうした経験が間違いなくご本人の中で熟成していろいろなものを残してくれることは、彼らの成績が証明しています。

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著者プロフィール

長野正毅先生

Z会進学教室渋谷教室長。
80年代より小・中・高校生(大学受験生)の学習指導に携わり、
97年よりZ会の教室に講師として勤務。担当は国語。
受験国語にとどまらない確かな指導は、生徒はもちろん、保護者からの絶大な支持を集める。

30余年にわたる指導において先生が目撃してきた
できる子の学習法
できる子を育てる家庭の秘訣
について綴ったブログが大人気(日本ブログ村「高校受験」カテゴリーで1位)。
2015年にはブログの記事を集めた書籍「励ます力」を出版。