岩瀬彰『「月給百円」サラリーマン』(講談社現代新書)を読む。

副題が「戦前日本の「平和」な生活」。だから「月給百円」。昭和ヒトケタ時代は、月給百円、というか、世帯収入が月百円あれば、一家四人ぐらいなら普通に暮らせた、というお話。

当時の百円は、現在の価値に直すと20万円。

換算年収240万円で一家四人はちょっとキツイように思えるが、現在とは、まあいろいろ条件が異なるわけで、たとえば家賃や不動産価格は当時の二千倍どころか、四千倍以上になっているように思われる。

また、生活がシンプルというのもあった。家電製品なんてほとんどないし、もちろん携帯電話なんてないしね。

幸せの総量というか収支計算で言うと、当時と今と、どっちが上なんだろう、と思わなくもない。

もちろん、現在の我々が昭和初期の時代へ行ったら不便に感じるだろうし、当時の人が現在に来るとその逆、というのはあるだろう。そういうのではなくて、その時代に生きていた人がその時代の中で感じていた幸せ、という意味で。

よく考えると、これ、一人の人間の人生においてもあてはまるかもしれない。

みなさん、これまでの人生の中で、もっとも幸福に感じた経験は、いつのことだったでしょう。

つい最近、という人は、案外少ないんじゃないかな、という気がする。少なくとも、大人に関しては。
 

連載バックナンバー

著者プロフィール

川渕 健二(かわふち けんじ)

おかしいものはおかしいと口に出して言えること、
他者と協同してそれを是正していける人が増えることを願う、
Z会の中高一貫コース「総合」担当者。釣りをこよなく愛する。