G・ブルース・ネクト『銀むつクライシス 「カネを生む魚」の乱獲と壊れゆく海』(早川書房)を読む。
 
銀むつ、いわゆる海苔弁の上にのっているフライの、白身魚のこと。本書の中では、マゼランアイナメと呼ばれています。そのマゼランアイナメの密漁船を追跡するお話です。
 
海の豊饒さを知っている者からすると、密漁船の漁師のボスの感覚(「おれたちが取ったぐらいで、魚がいなくなるわけない」)も、わからなくもない。
 
結局、人間が増えすぎたんだなあ、地球上に、と思う。
 
技術の発達も、水産資源の乱獲につながっているとは思うが、いくら簡単に大量に取れるとしても、買ってくれる人がいなければ、つまり取った魚を消費するだけの人間がいなければ、取ろうとは思わないだろう。徒労になるからね。
 
脇筋から、一箇所引用。
 
《「セミクジラの大きな背中を見た新大陸の入植者たちは、優雅で美しい生き物ではなく、動く製油工場だと思った――さらに挑発的な言い方をすれば、自分たちで維持管理する必要がない動く製油工場だと思った」》(p232)
 
そんなことを考えていた連中が、捕鯨禁止、しかも「クジラはキュートだから捕鯨禁止」だと?……という話は置いといて、でも、現在、捕鯨に激しく反対している人たちは、クジラを保護した結果、他に悪影響を及ぼすくらいクジラがやたら増えたとしても、クジラを食べないだろう。
 
牛や豚がいなくなったとしても、海にあふれるクジラは食べないだろう。
 
牛と豚と鳥がいなくなったとしても、海にあふれるクジラは食べないだろう。
 
牛や豚や鳥や、その他の陸上の動物性タンパク源がすべていなくなったとしても、海にあふれるクジラは食べないだろう……か。
 
牛や豚や鳥や、その他の陸上の動物性タンパク源、および魚介類、さらにクジラを除く海棲哺乳類がすべていなくなったとしても、海にあふれるクジラ、食べないのかなあ。まあ、そうなってしまったら、クジラ自体も生存は難しいと思うが。
 
これはつまり、地球上に存在する動物性タンパク源が、人間とクジラだけになってしまった事態を想定しているのだが、それでもクジラを保護し続けるのだろうか、ということである。
 
という極端なケースはともかく、よっぽどのことがなければ、保護するところのクジラを食べるつもりはなさそうである。ここで保護されているのは、間違いなくクジラである。
 
しかし、マゼランアイナメの「保護」のほうは、というと。
 
「こんなに美味な魚を絶滅させてはいけない、この魚をずっと食い続けるために保護しよう」である。
 
これって、マゼランアイナメの「保護」なのか?
 
マゼランアイナメを食い続けたい人間の「保護」、のように思われなくもないが。

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著者プロフィール

川渕 健二(かわふち けんじ)

おかしいものはおかしいと口に出して言えること、
他者と協同してそれを是正していける人が増えることを願う、
Z会の中高一貫コース「総合」担当者。釣りをこよなく愛する。