中井浩一『大学入試の戦後史』(中公新書ラクレ)を読む。
 
タイトルとは直接関わらないが、おもしろい箇所があったので引用しておく。
 
 
《私が、今回の未履修問題で一番笑ってしまったのは、未履修の対応策を協議する際に、マスコミも、文科省や教育委員会などの行政側も、政治家たちも、「不公平」を口にしたことだ。》(p40)
 
 
そういや、ありましたねえ、世界史の未履修問題。
 
 
《甘い措置をしたら世界史を履修した生徒が「損をする」。不心得者が「得をする」。そうしたことがないようにすべきだ。それが「公平・公正」だ。/しかし、こうした「損・得」で考える思考こそ、学歴社会の中で「ゆがんだ」学習をしてきた人間の発想だろう。本来は「得」をしたのは世界史を学習できた高校生ではないのか。》(p40)
 
 
なるほど。
 
「未履修は悪い→未履修の背景にあるのは、受験偏重の現場で、すなわち受験偏重が悪い」というのと、「世界史履修は損→受験で不利になるから」というのは、後者も結局受験偏重という価値観の下にあるという意味で、同じ人の口から出てくるとしたら、矛盾しているかもしれませんね。
 
また、ここで口にされた「公平」が、同じ学年か、(浪人生がいるとして)せいぜい数年の幅の中での「公平」であることも、受験偏重の価値観がベースにあることの表れでしょう。
 
現行の学習指導要領では、ゆとり教育が見直され、学習内容が増えた。
現行の指導要領で学ぶ世代は、ゆとり教育で育った世代を「得した」と見ているのか、「損したな」と見ているのか、あるいは無関心なのか。
……たぶん、無関心なんだろうな。
 
ちなみにぼくは、一番詰め込まれた最後の世代です。「得した」と思ってますけどね。

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著者プロフィール

川渕 健二(かわふち けんじ)

おかしいものはおかしいと口に出して言えること、
他者と協同してそれを是正していける人が増えることを願う、
Z会の中高一貫コース「総合」担当者。釣りをこよなく愛する。