都立グループ作成入試問題 国語の対策編

前回は日比谷、国立、西などの進学指導重点校で出題された、「言語論」がテーマの論説文と、その読解に基づいた作文の問題を紹介した。
http://www.zkai.co.jp/home/jareainfo/tokyo_b/20160726.html
それをふまえて今回は、いかに言語論を読みこなし、その読解をもとに自分の考えを引き出していくかについて考えていこう。

●言語論を攻略するためには
当たり前のことだが、言語論を問題文に取り扱った読解問題に数多く取り組んでいこう。過去の入試問題でもよいし、もちろん「Z会高校受験コース」国語の読解問題でも、言語論を取り上げている。言語論特有の主題や論の展開(具体例と抽象的事例の横断、二項対立的な展開など)に慣れてほしい。ちなみに言語論にもさまざまな分野がある。代表的な分野と主題を紹介しておこう。

■コミュニケーション論……言葉を通して他者と関わり合うことで、社会や文化を作り上げていく、ということを主題とする論。今回取り上げた日比谷の問題がまさにこれである。

■メディア論……文字と言葉の関係、音声と言葉の関係など、言葉の意味を伝達する際にはどのような媒体(メディア)があるか、媒体によって伝達にどのような変化が生じるのか、といったことを主題とする内容。

■イメージ論……言葉はどのようにして言葉以外のものごとを表現するのか、表現するもの(言葉=記号)と表現されるもの(イメージ=意味)との関係はどのようなものかを主題とする内容。今回取り上げた西の問題がまさにこれである。

読み慣れていくうちに、言語論に関する予備知識・語彙(ごい)も増えていくと思う。ここで意識してほしいのは、問題文を読んで知らない語句が出てきたらすぐに辞書を引く習慣をつけておくこと。これが基本である。
なお用語集を買うのであれば、Z会の『現代文キーワード読解[改訂版]』をお勧めする。語句はランダムに覚えるのではなく、テーマに関連づけて覚えていくほうが効果的だ。『現代文キーワード読解[改訂版]』では、テーマごとに関連する語句を取り上げ(「言語論」であれば「レトリック」「メタファー」「コンテクスト」など)解説していく。大学受験用のテキストなのですべてを読みこむ必要はないが、「言語論」や「科学論」などは難関高入試でよく出題されるので参考になると思う。
国語を得意教科にしたい、ちょっと背伸びをした国語に取り組みたい、という人にぜひ使ってほしい。

●作文力をつける「積極的な読み」
「言語論」をはじめ、抽象的な内容を論じる論説文では、「例えば」と具体的な事例を取り上げて説明することが多い。
この事例を通して「なるほど、こういうことを言いたいのか」と読み手は納得する。
通常の読解問題であれば、この事例と主題との結びつきがわかれば十分である。
だが、ここで「他に同じような事例はないか?」と考えを進めてみよう。問題文にあった事例はAだが、自分がこれまで見聞きしたり体験したりすることで言えば、Bがそれにあたるな、というように考えてほしいのだ。
場合によっては、問題文にあげられている事例がピンとこないこともあるだろう。「えっ、そんなふうに考えるの?」「いや、それはちょっと違うと思うけど」といった違和感や反論は通常の国語の読解問題では不要なものだが、このように自分の経験や知識に基づいて筆者と「対話」をするように問題文を読むことが「積極的な読み」なのだ。
もちろん、対話をする上でのマナーとして相手(筆者)の言うことを正しく理解することは大前提である。
その上で、「積極的な読み」を通して、問題文にはない他の事例や、あるいは違和感、反論を引き出すこと。
これが作文で「自分の意見」を作りだすプロセスである。結局、自分の意見を述べること(書くこと)の基本は他人の意見をしっかり聞くこと(読むこと)なのだ。
なお、Z会では国語の教材の中の「クリティカル・シンキングにトライ!」というコーナーや、作文の教材などで、こうした「積極的な読み」をサポートしている。
ぜひチャレンジしてほしい。

いま話題になっている大学入試改革では、「思考力」「表現力」を試す入試の導入が大きなテーマになっている。
これは、従来のように正解を導き出すだけではなく、自分の問題意識を提示して、多面的な視点から解決する能力を試すような要素を入試に取り入れていこうという大きな変化だ。
今回紹介した進学指導重点校の出題には、そうした大学入試の変化に先駆けて、「思考力」「表現力」を試そうとする意図が見えるように思えるがどうだろうか。
「言語論」への取り組みにせよ、「積極的な読み」にせよ、一朝一夕で身につくものではなく、速効性がある対策ではない。だが長期的な視点に立って、地道に取り組んでいけば、今後変化する大学入試に対応できるだけでなく、一生モノの「思考力」「表現力」が身につくと思う。倦(う)まず弛(たゆ)まず前進していこう。




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