都立グループ作成入試問題 珠玉の1題_国語編

「論説文」の読解とそれに絡めて出題される「作文」は、読解力と記述力の双方が試される、まさに「珠玉の一問」。とくに日比谷、国立、西などの進学指導重点校では、独自のハイレベルな問題を出題している。他の出題が他校と同じ問題を用いているので、差がつくのはこの一問だと言ってもよい。
それでは、この一問を通して各校が受験生に何を考えさせ、どのような力を見たいのかを考えてみよう。


●日比谷
出典:若林幹夫『社会学入門一歩前』
■課題文の要旨:
人間には言葉によるコミュニケーションの基盤として、身体によるコミュニケーションがあり、それは通常意識されず身体化され、他者との間で共有されている。こうした身体的な振る舞いの上に声や言葉が乗っている点から考えると、言語とは身体的所作が社会的に分節された形式である。私たちは、そうした言語の使用も含んだ身体技術を身につけることで、他者と状況を共有したり意味を伝達したりして社会を生きているのである。
■作文の設問:
文中にある「抱擁するように話す」「肩に手をかけるように話す」「頬を打つように話す」とはどういうことか、いずれか一つを取り上げ、筆者の意見を踏まえて250字以内で書く。
       
●国立
出典:高田明典『正しさとは何か』   
■課題文の要旨:
正しさとは対話と合意によって形成されるものであり、私たちは可謬主義(かびゅうしゅぎ)に基づきながら、「より正しい」状態へと変化し続けることができる。その際に必要なのは、個別に正しさや幸福を求める「意味の生成」と、それらを調整して合意に至る「意味の調整」の二つをあわせ持つ「意味の生成と調整」である。正しさとは個人内部での生成と調整、また個人と社会の間の調整の過程で生成される概念であり、私たちが正しくなるためにはその生成と調整を不断に繰り返すことが必要である。
■作文の設問:
「話し合い」について筆者の主張を踏まえて、二段落構成で自分の考えを書く。(1)第一段落では、これまでの学校生活等での「話し合い」のあり方について具体的な体験を挙げて振り返ること、(2)第二段落では、筆者が述べている「正しくなる」ために必要な条件を踏まえて、今後の自分の「話し合い」のあり方について書くこと、(3)二つの段落が論理的につながり、一つの文章として完結するように書くこと。   

●西
出典:今井むつみ『ことばと思考』   
■課題文の要旨:
人間は言語を持つことで、まったく異なるモノや出来事を「同じモノ」「同じ事柄」と認識し、イメージを共有し、伝達し合うことができる。子どもがことばの意味を学習するときに、規則性を抽出して学習を加速させ知識を深めるが、これは人間と動物とを隔てる大きな特徴である。見かけの類似性を超えた「同じ」という認識を与えることばは、この規則性の抽出に大きな役割を果たしている。
■作文の設問:
この文章に書かれていることを参考に「ことばの力」に関して自分が考えたことを200字以内で書くとともに、その文章にふさわしい題名を書く。   



紙面の都合と著作権の問題で課題文をそのまま紹介できないのが残念だが、要旨から抽象度の高い内容であることがうかがえると思う。以下、それぞれの出題に共通するポイントを分析していこう。まずは課題文の内容から。

●論説文といえば定番のこのテーマ
いずれも「話す」「話し合い」「ことば」といった言語に関するテーマを取り上げているのに気づいただろうか。いわゆる「言語論」なのだが、これは入試論説文には頻出のテーマである。なぜ「言語論」が好んで取り上げられるのか?

それは、このテーマが受験生の〈抽象的な事象に対する理解力〉を測るのに最も適しているからである。言語そのものはいつも私たちが使っているので、説明不要なほど自明のもの。だが、私たちは言語なしにはイメージをふくらませたり、他者と意思を通じ合わせたり、文化をつくりだしたりすることができない(そもそも「考える自分」をつくりだせるのも言葉があるおかげだ)。
このように言語はごく身近なものだが奥行きが深い。だからこそ論説文でよく取り上げられるテーマなのである。

また言語論は “二項対立的な論の進め方”とも相性がよい。例えば、今回の課題文でも、
「意思的/無意識的」「論理/感情」「普遍/個別」
といった対立軸が見受けられる。こうした軸にそって論理の展開(AはBの事例、CはBの反対意見、だからCはAと…)を読み解く力が論説文では試される。「言語論」を扱う文章の多くは、抽象的な事象と具体的な現象(日常的なコミュニケーションの例など)とを交互に説明しながら展開する内容が多いので、論理的な理解力を試すにはうってつけである。こうした点も論説文で言語論が取り上げられる大きな理由である。

●上手に書くためには正確に読むことが必要
次に作文について考えよう。
作文についてよくある勘違いは、「なにより文章力」という考え方だ。もちろん最低限の文章力は必要なのだが、論説文についている作文の場合、なにより必要なのはむしろ「読解力」である。
論より証拠、日比谷の設問に注目しよう。求められているのは課題文で取り上げられている表現の意味を、筆者の主張にもとづいて具体的に説明することである。また、国立の設問の細かい条件に注目すれば、これも課題文で述べられている「話し合い」の技法の、具体的な実践方法である。いずれの出題も、課題文の内容をどれだけ理解しているかが試されているのだ。



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