インプット・アウトプットの力

学習は一生続く。今はその土台づくりをしよう

変化のスピードが速い時代を生きる私たちは、中学、高校、大学時代だけでなく、生涯、学び続けることで、変化に対応していくことになります。その力は、どうすれば培うことができるのでしょうか? 中高生のうちに身につけるべき「インプット・アウトプットの必要性」という観点から、4回にわたって考えていきます。

第1回の今回は、生涯学び続けるための土台づくりとして、日々の勉強への取り組み方を、地球科学を専門としながら、勉強法に関する書籍も複数著していらっしゃる京都大学名誉教授・鎌田浩毅先生にうかがいました。

文:浅田夕香

鎌田 浩毅先生

(京都大学 名誉教授、京都大学 レジリエンス実践ユニット 特任教授)

1955年生まれ。筑波大学附属駒場高等学校、東京大学理学部地学科卒業。通商産業省(現・経済産業省)主任研究官、米国内務省カスケード火山観測所上級研究員を経て、1997年より京都大学大学院人間・環境学研究科教授。2020年度で退官し、2021年4月より現職。「京大人気No.1教授」の「科学の伝道師」。理学博士。専門は地球科学・火山学・科学コミュニケーション。近著に『武器としての教養』(MdN新書)、『100年無敵の勉強法』(筑摩書房)、『富士山噴火と南海トラフ』(講談社ブルーバックス)、『地球の歴史』(上・中・下、中公新書)など。

鎌田浩毅先生ホームページ

勉強にはノウハウがある―そのスタイルが学び続ける力の土台になる

――鎌田先生は、中高生のうちにどのような学び方を身につけるのがよいとお考えでしょうか?

中高生の皆さんは、勉強することを通じて「学び方」を身につけている段階にいると思うのですが、まず知っておいてほしいのは、勉強には最適のノウハウ(やり方)があるということです。そして、そのノウハウを知ったうえで、学習を進めるべきだということをまずお伝えしたい。そうすることで、無駄を抑えて効率的に学力を伸ばすことができます。

私は、学力は「コンテンツ学力」と「ノウハウ学力」に分けられると考えています。

「コンテンツ学力」とは、英単語や物理の公式、化学式、歴史、物理や数学の概念など、個々のコンテンツ=教科に関する知識を学ぶことです。学校で先生が授業で解説されるような内容ですね。

一方、「ノウハウ学力」とは、勉強時間が1時間あるなら、どういう配分で学習しようか、受験当日までの学習スケジュールはどうやって立てようか、どの文房具を使って勉強するとやりやすいか、ノートをどう取ろうか、というような、学習する際のノウハウを考える力です。

ノウハウがないまま(やみ)(くも)に勉強しても、しんどくて勉強が嫌いになってしまうでしょう。しかし、世の中には、さまざまな勉強法や読書術、時間活用術があふれていますから、まずはそういったノウハウを知り、実際に試してみましょう。そして、自分に合わないものはバッサリ捨て、合うものだけを選び、必要に応じてカスタマイズ(自分だけの取捨選択)するのです。

そうやって自分に合った勉強法を身につけてからコンテンツを学んでいくと、楽に、ストレス少なく勉強できるようになります。楽に楽しく勉強できると成果も上がりますし、成果が上がればますます勉強したくなりますよね。

――ノウハウを知って自分に合うようにカスタマイズしたうえでコンテンツを学ぶという方法を学ぶことが、なぜよいのでしょうか?

大学生や社会人になっても、就職試験や資格試験など、勉強が必要な機会はありますし、自分や周りを幸せにするために何かを生み出したり、成功するビジネスのかたちをつくったりする必要はあります。「学び方」が必要なのは、学生時代だけではないのです。また、「世間のよいものを取り入れて実際に使ってみる→ダメなものは捨ててよいものだけを残す」ということを繰り返し、よいものを自分の中に貯めていくというやり方を鍛えるには、勉強はもっともよい訓練になると私は考えています。

――ノウハウは、どのようにして身につけるとよいでしょうか?

学校の先生、友達、塾、Z会など、今はいろいろなところで情報を手に入れることができます。先人に習うのがいちばんです。一から自分で編み出すのは難しいし時間がかかりますから。私も、いくつか勉強のやり方に関する著書を出しています(笑)。

1つコツをお伝えすると、教えてもらったやり方を実践する際には、質のよい教材を使いましょう。昔、江戸時代には、よく商人の間で偽物の小判が出回っていたようです。そこで、ある大店の主人は、偽物が出回った時にすぐに気づけるよう、(でっ)()の人たちには普段から本物の小判しか触らせなかったそうです。勉強も同じで、一番よいもの=本物を使って勉強するのが、最も効率がいい。

学校の先生や先輩から「これがおすすめ」「この一冊をやるといい」と言われた問題集や参考書の中から1冊を決めたら、少なくとも半年ないし1年はそれに集中しましょう。すると、本物がわかってよい直感がはたらくようになり、偽物の勉強法を排除できるようにもなります。もちろん、どうしても合わないときは別のものに変えてかまいません。大切なのは「自分に合うようにカスタマイズする力」ですから。

――そのカスタマイズのやり方ですが、どのようなタイミングで勉強法を見直せばよいのでしょうか?

模擬試験が見直しのチャンスでしょう。模擬試験を受けた後には、どの問題ができなかったか確認しますよね? 自分にはどの部分のコンテンツ学力が不足しているのか、どんな方法で勉強したからダメだったのかといったことが、テストを見直すことでわかるわけです。それを受けて、足りない知識を勉強し直したり、勉強法もより自分に合ったものに見直すとよいでしょう。

たとえば、大学受験まであと半年しかない状況で日本史は古代と近現代が得点できていないことがわかったとする。残りの期間を考慮すると、一番配点が高い近現代の勉強に注力して古代は捨てる、という戦略を立てることもできるでしょう。これも、ノウハウ学力がなければ判断できないことです。

基礎学力を身につけるのは大前提。 残りの時間で地頭力を鍛えよう

――コンテンツ学力の身につけ方としては、知識をインプットし、それをアウトプットすることによって学力がついていくと思います。インプットとアウトプットはどのくらいの比率ですればよいというのはありますか?

インプットとアウトプットの比率というより、インプットしたら必ずアウトプットする、ということを行ってほしいですね。ある単元を勉強したら必ず問題集を解くなどして、単元が終わるたびにチェックするのです。すると、できなかった部分から、「その単元で何を学んだのか」「単元の本質は何か」ということがわかります。

あえて比率で言うのなら、インプット:アウトプット=7:3くらいかな。インプットに偏って新しい知識ばかりをどんどん入れても、入れたそばから消えていきます。でも、勉強にかける時間や労力のうち3割くらいをアウトプットに割いていけば、入れた知識は長期記憶になって残りやすくなります。

――近年の入試では、コンテンツ学力を身につけただけでは対応できないような、複数の単元が組み合わさっていたり、一見、どの単元をもとに出題されているのかがわからないような問題はどう対策すればいいのでしょうか?

入試問題に限らず、社会の諸問題を解決するには、教科の基礎知識に加えて()(あたま)を鍛えることが重要だという話をさせてください。

ここで、勘違いしていただきたくないのは、単元ごとの内容や知識が入っていて、その教科の問題に取り組むうえで必要な基本が身についているというのは大前提です。そのうえで、いわゆる融合問題や総合問題を解くときに必要になるのが、地頭だということです。

地頭とは何かというと、世の中の情勢や構造、歴史や文化などについて知り、考えていること、いわば教養です。今この世界はどのような歴史を経て成り立っているのか、コロナの流行、経済の動き、戦争などに対して各国はどう対処・解決しようとしているのかといったことについて、読書やドキュメンタリー番組の視聴などを通してふれて、考える。そうやって地頭を鍛えていけば、融合問題や総合問題にも対処できる力につながっていきます。

私は、勉強は教科書と問題集を使った単元学習だけで十分だと思っています。中高生なら、スポーツや恋愛、友達づきあい、遊び、ゲーム、おいしいものを食べるといったこともしたいでしょう? 勉強時間ばかりを増やして、この時期にしかできないことをおろそかにするのはもったいない。

時間や労力の6割を勉強に割くとしたら、残りの4割は、楽しみながら、遊びながら、読書などを通して知的な世界にもふれてほしい。その4割の時間に経験したことの積み重ねが、融合問題や総合問題、あるいは、社会に起こる正解のないまったく新しい問題に対して立ち向かい、解決法を思いつくような頭の回転に結びつくのです。
そのために必要なのは「活きた勉強」をすることです。今は大学の講義もインターネット上に公開されているので、それらも活用してほしいと思います。私の「京都大学最終講義」もこちら(https://ocw.kyoto-u.ac.jp/course/971/)で見られます。

――ちなみに、正解がわからない問題に直面したとき、先生はどのようなお気持ちでその問題に(たい)()されますか?

「ラッキー!」と思うでしょうね。だって、正解がない問題って、周りも同時にスタートラインに立っているわけなので、自分にも勝つチャンスがあるんですよ。研究課題だってそうで、まったく新しい研究課題に対しては、教授も学生も、みんな同じスタートラインから始める。すると、往々にして若い人が勝つんですよね。

「わからない」ということは恐怖でも困ったことでもなくて、「ここから自分は何ができるか?」という未知の世界が広がっていると考えるんです。入試でも、まったく新しい傾向の問題や、想定外の問題が出たら「ここで自分が挑戦してがんばれば絶対に合格できる」「この問題でこそ実力を発揮できる」と思ったら楽しく答案が書けますよ。僕らもそれを期待して作問しています。

「おもしろい」「わかる」が学ぶ原動力になる

――「活きた勉強」について、もう少し詳しく教えていただけますか?

勉強には、活きた勉強と死んだ勉強があります。活きた勉強というのは、自分にとって「おもしろい」「納得する」が積み重なる勉強。一方、死んだ勉強というのは、先生や先輩、同級生に言われるままに、納得感や達成感がなくやって全然できなくて劣等感だけが生まれるなど、基準が外にある勉強です。基準が自分にないと、勉強はおもしろくありません。

だから最初は、自分が理解し、納得しながら進められていれば、勉強量は少なくてもいいのです。周りから見ると全然勉強していないように見えるかもしれませんが、一つひとつしっかり理解していくと、必ず勉強がおもしろくなりますから。そのおもしろさを知ることがまずポイントです。

そのためには、教科書や参考書の納得できた箇所に線を引いたり、わかったことを書き込んだり、理解したことをノートに要約したりして、「この内容は理解した」「おもしろかった」ということを目に見えるかたちで残しましょう。

――ただ、そうすると、科目によって好き嫌いや得意不得意ができてしまいませんか?

それでいいんです。最終的に大学入試は総合点で判断されることがほとんどです。英語が得意で数学が苦手なら、数学はギリギリでも、得意な英語ではどんな問題が出ても得点できるくらい力をつけておけば、数学の分はカバーできますよね。要は入試を突破するためにできることを考えればいいのです。

それに、社会に出れば自分の得意なことを生かして仕事をするでしょう? 仕事を選ぶときには、自分が好きで知識を蓄積していて、これで勝負できると思う分野を探すでしょうし、皆、自分の得意なことで力を発揮して、世の中に貢献するべきです。

そのためにも、「おもしろい」と思える科目は、どんどん勉強してその力を伸ばしましょう。

僕自身、高校時代にZ会を受講していたのですが、取り上げる素材は非常によいものでした。たとえば、英語の課題文で哲学者のバートランド・ラッセルに関する論考や第二次世界大戦期のイギリス首相、ウィンストン・チャーチルの演説などはいまだに記憶に残っていますね。世界の本質をついていて、未来に向けた非常に格調高い文章に感動し、当時はラッセルの翻訳全集を買い込んだりしました。その後、米国の留学中には古本屋で英語の初版本を見つけて小躍りしたのです。

国語で出てきた評論家・亀井勝一郎の『青春論』や作家・谷崎潤一郎の『陰翳礼賛』もそうです。どれも僕の教養を高めてくれたし、人生の方向を決めてくれました。

勉強で出合う何気ない問題の中にも、自分の一生を決める、道を拓くコンテンツがある。世の中にはこんな文章や事象がある、人がいる、ということに気づくと、勉強もおもしろくなりますよ。

――ありがとうございました。

「ノウハウ学力」をつける鎌田先生の本

『100年無敵の勉強法 ―何のために学ぶのか?

鎌田 浩毅 著 筑摩書房

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「死んだ勉強」を「活きた勉強」に変えていくための戦略と戦術を伝授。中高生のうちに身に着けておきたいさまざまな「ノウハウ」が惜しみなく公開されています。

『新版 一生モノの勉強法 ―理系的「知的生産戦略」のすべて

鎌田 浩毅 著 ちくま文庫

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もう一度学びなおしたいと考える大人に向けた「勉強法」。2009年に出版された書籍が、20年経ってアップデートされました。とはいえ、身につけるべき力は普遍のもの。大人になる前に、大人になっても必要な勉強の力をチェックしておきましょう。

『理系的アタマの使い方』

鎌田 浩毅 著 PHP文庫

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限られた時間のなかで、よりよい成果を出すにはどうすればよいのか―。学習と切っても切れない「時間」の問題をどう解決すればよいのか、先生のアタマの使い方をもとに時間の戦略をわかりやすく解説してくれます。

ご意見大募集

鎌田先生のお話を読んで気づいたこと、感想を教えてください。

「インプット・アウトプットの力」の最終回に、皆さんからいただいた声とともに考察します。

あなたの今の学習のインプットとアウトプットの割合はどのくらいですか? 先生のお話を読んで、気づいたこと・考えたことを次のアンケートフォームから教えてください。 【回答締切】2022年3月31日(木)