リーダーのための

コミュニケーションスタディ

相手に納得してもらうコミュニケーション

このコーナーでは、中高生の日々の生活で見られる問題や悩みを取り上げ、仲間を引っ張る立場として、どのように対応すべきかを紹介します。

イラスト:根岸麻衣子

高校2年生のヒロアキは、この秋からラグビー部の新キャプテンになりました。規模を縮小しながらも行われた今年の夏の大会は、残念ながら早々に敗退してしまいましたが、来年こそは大会で少しでも多くの試合をしようと、部員たちの士気も上がっています。部活をずっと一緒にがんばってきた親友のモトキとの帰り道。今後の部活動について、どうチームを盛り上げるべきか、ヒロアキは意欲満々で話し始めましたが…。

参考図書『自分らしく生きるための人間関係講座』(大和書房)

シーン1 突然の告白に衝撃を受ける

来年はすべての大会が予定どおりにやるかもしれないし、練習に本腰を入れようと思っているんだ。いつでも本気で練習することが大事だって、オリンピックを見ていて思ったし。練習そのものに価値があるんだよな。モトキも、そう思わない?

練習が大事で、練習にこそ価値があると思えば、周りの状況に振り回されないよね。僕もそう思うよ。同感だな。でも、言いにくいんだけど、僕ラグビー、やめようと思ってるんだ。

えーっ!!うそでしょ?ダメだよ、そんなの。モトキが一緒だから、キャプテンを引き受けたのに。何で?急に?

ヒロアキは、新キャプテンとしての真剣な意気込みをモトキに話していたときにモトキから思いもよらぬ言葉を聞き、大きな抵抗と反発を示します。以前からこの話をしようと考えていたモトキは、ヒロアキが納得せず、場合によっては二人の関係が変化してしまうかもしれないと思い、後日じっくり時間をとって丁寧に話をしたいと提案します。

シーン2 時間をとってしっかり話し合う

この間は、びっくりしたよね。ゴメン。

本当だよ。ゴメンじゃすまないよ。ひどいよ。突然、何でなの?

実はさ、医学部に進学しようかと思い始めてるんだ。

何でまた急に?

僕のなかでは急にってことでもないんだよね。おじいちゃんが医者だから昔からなんとなく意識していたし、この感染症の流行でちょっと考えることもあってね。

そうか…。でも、このタイミングで、「ラグビーやめる」はひどいよ。

ぼくたちの学年が引っ張らないといけない「これから!」ってときに、何で?って思った?

そう!意味わかんないよ。それに、これまで何かあるといつもモトキに相談しながらやってきたから、モトキのいない部活なんて想像できないよ!

そうか。怒ってる?

そりゃ怒ってるよ!…いや、違うな。怒ってるというか、とにかくびっくりしたんだ‼

前から言わなきゃとは思ってたんだけど、言い出すタイミングがつかめなかったんだ。それに、時間が経つとどんどん言いづらくなっちゃって。ごめん。

そうか。僕は今はラグビーのことしか考えてないからな。チームワークづくりとか、上級生・下級生の関係とか、部の雰囲気づくりとか、キャプテンになったから、じっくり考えなければとも思ってたし、モトキに相談したかったんだよ。モトキは下級生に人気があるからさ。

えっ?そんなことを思ってたの? いやいや、ラグビーのスキルと意欲の高さで、みんなが信頼しているのはやっぱりヒロアキだと思うよ。

今回のポイント

モトキは、ヒロアキと時間をとって丁寧に話す機会を設け、ヒロアキの「反発」にしっかり向き合い寄り添って話を聞きました。他方、ヒロアキは、自分の言ったことがモトキに理解されると、「怒っている」と思っていた気持ちが、実は「びっくりした」というものだったと気づきます。モトキの対応で自分自身の気持ちが明確になり、ヒロアキは落ち着きを取り戻したようです。

相手と自分が異なる考え方をしている際の話し合いでは、相手の話を丁寧に聞き、自分と相手の価値観の違いがどこにあるのかを正確に理解することがまず必要です。モトキは自分の考えをはっきりと自己表現しています。しかし、ヒロアキの言い分も丁寧に聞いています。このことで、怒りではなく驚きであったと、ヒロアキは自分の感情に気づき、冷静に二人で話し合う雰囲気が生まれたのです。互いに落ち着いた状態になれば、お互いを理解しやすくなります。話し合うなかで、ヒロアキはモトキの意志が固いことも知りました。そして、改めてなぜモトキが部員に人気があるのか、自分が親友と思って信頼してきたのか、その理由もわかっていきました。

モトキは、相手の話を決して否定せずによく聞き、自分の言いたいことは決して押しつけないうえに、自分について、とても正直に話しています。そして、モトキは自分だけでなく、先輩にも後輩にも同級生にも先生にも、誰に対しても平等にこのように接しているということにヒロアキは思い至りました。

このあとの話し合いは次のページに続きますが、モトキの話をきっかけに、ヒロアキも自分の将来について考え始めます。最初、二人の間には衝突が起きるかと思えましたが、話し合いによりヒロアキはモトキから多くの影響を受け、その考えを認め、より友情を深めていきます。

自分の考えを相手に認めてもらうためには、話し合いに適した環境を作ること、真摯に相手に向き合うことがまず最初の条件なのです。