リーダーのための

コミュニケーションスタディ

相手に納得してもらうコミュニケーション

シーン3 思っていることをぶつけ合う

子どものころからおじいちゃんは好きだし尊敬もしているから、昔からおじいちゃんみたいな医者になりたいと思っていたんだ。でも、医学部に入るのはすごく難しいじゃない。だから、「早く言わなきゃ」と前から思ってたけど、なかなか言い出せなかったんだ。ずっと試合もなかったし、今辞めるって言うと、コロナのせいにして逃げるみたいだし…。

そうか。でも、医学部を今から目指すのは難しいよね。

そうなんだよ。実際、勉強の時間が全然足りないんだ。

それでも受験するんだ?

コロナのことで、自分の考えがはっきりしたと思う。今って、こんなに世界中の人が困っているのに、「これが絶対」という打開策がなかなか見つからない。僕は予防医学に興味があって、病気にならない体づくりや生活習慣について勉強したいんだ。おじいちゃんの影響もあるんだけれどね。

ふーん。初めて聞いたな。

ヒロアキとはいつもラグビーの話ばっかりだったからね。一緒にいた割に、まじめな話はしてこなかったから、まだお互い知らないこともあるのかもしれないな。

本当だね。でも僕は相変わらずラグビーばっかりだよ。将来のこともまだ全然考えていないし。そうか。ラグビーが仕事になればいいかもな…。

好きなことを仕事にできれば、楽しいよね。うちのラグビー部は伝統だけはあるけど、強豪校じゃないから、ヒロアキには物足りないんじゃないの?

まあね。でも、強豪校のようにやれないというのもわかってる。だから、できる範囲で強くなるにはどうしたらいいんだろう?何ができるんだろうっていつも考えているんだ。でも、これまでスポーツって試合で勝つことが目標だと思っていたんだけど、試合ができない状況も体験したら、スポーツって何のためにあるのかな、なんて思ったりしてさ。

試合は一つの目標だったけど、それだけじゃないかもって思ったのか。ヒロアキらしいな。僕ももっと早くから将来について考えていたら、計画的に勉強できたし、部活も続けられたかもしれない。こんなことになって本当に悪かったと思っているけど、ラグビーが楽しいから、つい先延ばしにしちゃったんだ。部活は辞めるけど、ラグビー部の応援は続けるから。

うん。ありがとう。僕もモトキの夢を応援しないとな。予防医学なんて初めて聞いたし、考えたことがなかったよ。モトキも応援してくれるっていうし、ラグビー部もがんばらないとな。僕は僕にやれることを、しっかりやっていくよ。

そういえば、ヒロアキはなんでラグビーを始めたの?

え? なんだっけ? ああ、いとこのお兄ちゃんがラグビーをやっててさ。それを見てカッコいいなって憧れたんだっけ…。

今回のポイント

この話に至る前、二人の間には大きな衝突がありました。しかし、このようにじっくり話し合ったことで、ヒロアキはモトキからたくさんの影響を受け、より友情を深めることになりました。衝突をチャンスに変えたのです

モトキの将来の夢を聞くとモトキの考えがよく理解できましたし、同じ年齢とは思えないほどの視野の広さも感じました。また、自分もモトキのように将来について真剣に考えなければと思い始めています。

ヒロアキは、モトキと彼の祖父の関係から、人はほかの人の行動や考え方などからも影響を受けることに思い至り、自分の部活に取り組む姿勢が、周りの部員に影響を与えるのではないかと考えるようになりました。そういえば、モトキは部活でも、「ちゃんと練習しよう!」「もっとがんばれ!」というようなことを直接言わないのに、周りに影響を与える人でした。

改めてヒロアキはモトキを、とても大切な友だちだと気づき、これからはラグビーが一緒にできないということにも納得し、モトキの夢を応援する気持ちになっています。
最初は「大きな衝突」と思ったことも、お互いの思いをしっかりと分かち合うことで、「モトキのような友だちがもてたことは本当に幸せだ」とヒロアキは気づきました。そして、モトキとのこの会話が「将来について真剣に考えるきっかけ」として、ヒロアキに大きく影響を与えました。モトキの言葉や考え方もですが、モトキの日常の行動からも、ヒロアキは改めて学んだのです。

文:今井 真理子

(暮らしとコミュニケーション研究所代表・親業訓練協会シニアインストラクター)
http://www.happy-communications.com

参考図書『自分らしく生きるための人間関係講座』(大和書房)