このコーナーでは、中高生の日々の生活で見られる問題や悩みを取り上げ、仲間を引っ張る立場として、どのように対応すべきかを紹介します。
リーダーのための
コミュニケーションスタディ
相手によりそうコミュニケーション
中学2年生のマリと小学5年生のガクの家では、両親がリモートワークのため、家にいることが多くなりました。そのため、両親それぞれが、今まで家では見せたことのないような緊張した表情や、余裕のなさを見せることもあります。ガクは事情は理解しているものの、今までの休日や、平日の夜の家族の関わり方との違いが大きくて、戸惑いや不満を感じているようです。夏休みになり、両親も自分も家にいるために、小言を言われることも増え、それにも嫌気がさしています。
参考図書『自分らしく生きるための人間関係講座』(大和書房)
プロローグ ある夏休みの平日

玄関のドアをバターン!と閉めてガクは外に出ていきました。

シーン① 話を聞いて、気持ちを受け止める

衝突が多くていやなのかな。


そうだよ。最初は父さんも母さんもうちにいて毎日日曜日みたいでうれしかったけど、会社に行っていた時の方が全然いいよ。
そうか、ガクもイライラしてるんだね。


クソッタレ。もう、嫌になってきた!
そうか、そうか。でもさ、ガクが「クソッタレ」って言うのを聞くとさ、私、結構、傷つくんだよね。


別に姉ちゃんのことじゃないよ。口ぐせだよ
シーン② 本当の気持ちを引き出す
口ぐせか。大人たちも大変だろうけど、私たち子どもにもストレスあるよね。私もそう感じるときがあるよ。
でもさ、私に言われてるんじゃなくても「クソッタレ」って聞くと、心に刺さる感じがしてしんどいんだよ。


ふーん。


そうか。本当は父さんとサッカーしたいけど、気まずくてできないのかな。


そう、毎日けんかしちゃってるからさ。父さん最近、いつも機嫌が悪いし。
うんうん。


でも、多分、僕が宿題や手伝いをちゃんとすれば、父さんも母さんも怒らなくて済むんだよね。父さんも母さんも仕事でカリカリしているのに、僕のことで、もっとイラついてるんだと思う。
そうか。


これって誰かが悪いんじゃなくて、今、みんなが困ってるから、しかたないって言えばしかたないんだけど。何か大人も子どももカリカリしてるよね。
そうだよね。私は両親がイライラしているときに、自分までイラつかないこと にしているんだよ。自分が巻き込まれる 感じがして、そのほうがいやなんだ。

今回のポイント
マリに気持ちを十分に聞いてもらったガクは、今の状況は誰かが悪いわけではなく、世の中の事情によるものであること、親のイライラの原因の一端を自分がつくっていることなどに思考が向いていきました。
マリの会話には実は秘訣があります。
まず、弟が飛び出した時に放っておかず探しにいき、「ガクが心配で追いかけてきた」と自分の思いを語る「自己表現」をしています。そしてその後は、弟の気持ちをそのまま理解しようとしています。マリが意見を言わずに弟の気持ちを聞いたことで、弟自身が冷静に今の状況や親たちの思いを考えやすくなっていきました。
その一方、弟の「クソッタレ」という言葉遣いには、「聞いている自分が傷ついている」と、再び正直に「自己表現」をしています。姉の思いを聞いた後には弟も自分の気持ちを正直に話し出しました。こうしたマリの「聞き方」と「伝え方」で、姉弟が正直にそれぞれの気持ちを理解しあうことができました。 最後に、話を長引かせずに、さっとこの話題をひきあげて、爽やかに話を終えています。
- 相手を心配していることや気になることは自己表現で伝えること。
- 自分の「考え」については、「今、何を大切にしたいのか」の「理由や根拠」があれば、それも明確にスッキリと自己表現」すること。
- 決して押しつけないこと。
マリのように、こういう点に気をつけた会話をすると、相手に理解されやすくなるようです。そして自分の思いが相手に伝わり、相手も心を開き、相手によりそったコミュニケーションが始まるのです。
さて、この公園でのやり取りのあと、家への帰り道でも2人の会話は続きます。そのガクとマリの会話に、今度はガクの行動を変えていくヒントがあります。どのようなやり取りなのでしょうか。