英語学習の今「オンラインスピーキング」の学び方

学ぶ内容、学び方、さまざまな「学びのかたち」が大きく変わろうとしている今。

教育に携わる方々が、今、教育に何を求め、何が大事だと考えているのか、これからの時代に必要な学びのあり方について、お考えを伺っていきます。

「英語4技能」のうち、これまで身につけにくいと考えられていた「スピーキング」の学習が、オンラインスピーキングという学習法の登場により、容易に行えるようになりました。まさに英語学習の最先端とも言える「オンラインスピーキング」にどう向き合えばよいのか、東京学芸大学の高山芳樹先生に伺います。

高山 芳樹先生

(東京学芸大学 教育学部 外国語・外国文化研究講座 英語科教育学分野 教授)

青森県出身。(株)イーオン勤務後、学習院高等科教諭、立教大学専任講師などを経て、現職。専門は英語教育学。通訳案内士国家資格取得。著書に『発音できれば聞き取れる! リスニング×スピーキングのトレーニング 基礎編/演習編』(Z会、監修)、『語順が決め手! 鬼の英文組み立てトレーニング』(アルク)など。中学校、高等学校の検定教科書編集にも携わる。2014 年度NHKラジオ「エンジョイ・シンプル・イングリッシュ」を監修。2015 年度よりNHK Eテレ「エイエイGO!」、2020 年度より「おもてなし即レス英会話」、「もっと伝わる!即レス英会話」の講師として出演中。

「聞く」「話す」「読む」「書く」4技能が求められる英語学習

英語に関して、「4技能」という言葉を見聞きする機会が増えました。大学入試でも4技能のテストをしますよと謳う学校が増えましたから、みなさんも耳にしたことがあるでしょう。ですが、本来、「聞く」「話す」「読む」「書く」という力は、言葉を使ううえで必要不可欠な能力で、学習する際に必要ないものなどありません。英語にしろ日本語にしろ、言語を使ったコミュニケーションでは、4 つの技能はそれぞれが分かれているということはなく、すべてが有機的につながっているものです。

しかし、日本の英語学習の歴史を振り返ると英語の学び方は「読む」、それも英文の意味内容を正確に把握するための訳読が中心でした。そもそも外国人を国内で見ることのない時代に英語を身につけようとするなら、書物から学ぶしかありません。英語を学ぼうとする人たちにとって、話し言葉としての英語は身近なものではなく、書き言葉の英語の方がはるかに手に入れやすかったのです。その後、戦後の日本ではラジオ講座などが開設され、一般の人でも英語を音声で聞く機会は増えていきましたが、英語を母語としない日本人教師が英語を教えるという時代がかなり続きました。

ところが、今はどうでしょう? みなさんの学校にも ALT の先生がいらっしゃるでしょうし、街中で外国人を目にすることは特別なことではなくなりました。テレビやインターネットでは、簡単に外国の映画やドラマを見ることができますし、「オンラインで外国の人を交えて会議をした」なんていうお父さんやお母さんの話を聞いた人もいるかもしれません。今は、ネットを通して世界中のあらゆる国の人々とコミュニケーションが取れる時代です。「英語ができない」ということに、言い訳のできない時代がやってきたのです。

言語のデータベースを増やしていく

とは言え、外国人とコミュニケーションの機会が増えたからといって、急に英語ができるようになるというものでもありません。人間は時間をかけて言語のデータベースを自分の中に蓄積しています。みなさんも日本語であれば、「聞く」「話す」「読む」「書く」という4技能を問題なく使いこなすことができるでしょう。

生まれてから現在まで母語である日本語のシャワーを大量に浴び、日本語で学校教育を受けたみなさんであれば、「聞く」はできるけれど、「話す」ができない。「話す」ことはできるけれど、「書く」ことはできない。そんなことはありえません。そう考えると、みなさんがすでに獲得している日本語のデータベースに比べると、英語のデータベースはいささか心もとないな、というのも実感できるのではないでしょうか。

では、「英語のデータベースを増やす」ために、何が必要か考えてみましょう。たとえば、「英語を話す」。英語を話すためには、英語で発音された音を聞いて理解し、その音を自分で出せるようになる必要があります。英語と日本語にはそれぞれにない音というものがありますが、それらをマスターすることが必要となります。そして、聞いた音は、瞬時にどんな意味なのかを理解しなければいけません。相手が何を言っているのかがわかったら、それに対して返事をしますが、これまた瞬時に相手に伝わるように英単語を使って文を組み立て、それを相手に伝わる発音で話します。これでやっと会話は成立します。

このように、英語を話す技能一つをとって考えてみても、英語の語彙、英語の音を理解するリスニング力、相手に通じる発音、正しく文を組み立てられる文法の力が必要だということがわかります。つまり、英単語を覚え、リスニング試験の対策をし、文法を身につけ、それを声に出して発音するという、これまでみなさんが受けてきた英語の授業で身につけてきた力一つひとつがすべて欠かすことなく必要なのです。みなさんが普段から取り組んでいる定期テストや大学入試に向けた英語の勉強も、英語が話せるようになるためのデータベースを増やす手段となっているのです。 しかし、だからといって実際に英語を「話す」という活動をしなければ、これまで身につけたこれらの力を総動員して使いこなす場がないわけですから、いつまでたっても英語のスピーキング力は向上していきません。そして、実際に相手と英語で「話す」場に自分をおいてみることが、相手との英語でのやりとりを通して自然な英語コミュニケーションで特に必要となる英語のデータベースを取り込むための絶好の機会となるのです。

オンラインレッスンの学び方

学校の勉強を大切にしながら、「スピーキング力」の向上も目指したい場合、オンラインスピーキングのレッスンはとくにおすすめです。普段の学習が8~9割のところに、スピーキングの実践練習をちょっとプラスする、そのくらいのバランスが最初のうちはちょうどいいのではないかと思います。

外国人の先生を独り占めして話す機会というのは、インターネットのない時代には考えられなかったぜいたくな時間です。みなさんにはその機会があるのですから、ぜひ積極的にオンラインスピーキングのレッスンを利用していきましょう。

それでは、実際にオンラインスピーキングのレッスンをどのように受ければよいのか、考えてみましょう。普段の授業の効果を高めるために予習・復習が必要なように、オンラインスピーキングにも、もちろんその効果を高めるレッスンの受け方というものがあります。

オンラインのレッスンには、教材があらかじめ決まっているものと決まっていないものがあります。教材が決まっていて、その日のレッスンの学習範囲がわかっている場合は、ぜひ予習をして、レッスンの準備をしておくことをおすすめします。まずは、その教材に目を通しておきましょう。そして、わからないところには線を引いておきます。教材を見れば、だいたいどんなことを質問されるかが想像できると思いますので、その質問を見越した「リハーサル」をしてみましょう。「今日は何を聞かれるかな?」「このことを聞かれたら、こうやって答えてみよう」というのを、レッスンの前にモゴモゴと口の中で話してみましょう。外国語である英語を使って限られた時間の中で先生とやりとりするのは当然ながら大変です。でも、こうやってレッスンのイメージを事前にできるだけ具体的に描いてリハーサルをしておくことで、英語での受け答えが格段にスムーズにできるようになっていきます。

オンラインのスピーキングレッスンは、たいていが1回25分の講座です。この25分は日本にいながら英語の世界にどっぷり浸れるぜいたくな時間です。スピーキングの力は、実際に「話す」場数を踏まないと伸ばせないものですので、この時間を最大限に使い、積極的に先生と英語でやり取りをしましょう。

そして、レッスンが終わったら必ず復習します。とくに、決まった教材がなく、予習ができないタイプのレッスンを受講している人は、復習を大事にしてください。ここで一つ、復習のコツをお教えしましょう。それは、オンラインスピーキングのレッスン時間を25分ではなく、始めから35分とっておくということです。「先生とのオンラインの25分+自分一人での振り返りの10分で1回のレッスン」と考えて、最初からそのつもりで学習時間を設定しておくのです。オンラインでの25分が終わって、「終わった~!」と言ってすぐに机から離れ、おやつの時間にするのは、あまりにももったいない。レッスン直後に振り返ることで、英語で話せるようになるための「英語のデータベースの取込み」が加速されるのです。

そして、効果的に振り返りをするために、レッスン中は気づいたことを書き留めておきましょう。具体的には、「言いたかったけれど、実際には言えなかった表現」「先生が言って『へぇ』と思った言い回し」「これを言えるようになろうと思った表現」などです。先生と会話を重ねていくと、「こう言おう」と思った言い回しは、意外に決まり文句が多いということに気づくと思います。 あとは、その日の学習で気づいたことも書いておくといいですね。「今日の授業はどうだった?」「楽しくできた?」「易しすぎた?」「難しすぎた?」「先生の説明はわかりやすかった?」、こういうこともきちんと振り返っておきましょう。というのも、オンラインスピーキングのレッスンは、自分で先生を選ぶことができるものが多いのです。自分がリラックスして話すことができる、相性のよい先生と集中的にレッスンをして、話すことに慣れるという方法はとくにオンラインでのレッスンを始めたばかりのころにおすすめです。お気に入りの先生リストを作成していくうえでも振り返りメモは役立ちます。また、反対にあえて特定の先生を決めずに、さまざまな人とレッスンをすることを選べば、それだけいろいろな人の英語にふれる貴重な機会になります。スピーキングの力を伸ばすには、なんと言っても場数を踏むことが大切です。どのようなレッスンであれば、自分がやる気になり、勉強を継続的に、かつ、効率的に進めていけそうか、自分で考えてコントロールしていく力も必要なのです。

レッスンを録音し、自分の成長を確かめる

実際のレッスンはスマートフォンの録音アプリやICレコーダーなどで録音をしておき、それをときどき聞き返すことをおすすめします。レッスン中の自分の録音を聞き返し、客観的に見てみると、自分はどんな表現を多用しているのか、自分がどんなふうに勘違いして答えてしまっているのか、自分の苦手な応答のパターンがあるのかなど、さまざまな気づきがあると思います。直していきたいことや、自分のレッスン中の積極性なども確認できますので、次回のレッスンの目標も立てやすくなります。

また、これらの音声は1度聞いたからといって、絶対に消去しないでください。3カ月経って、半年経って、1年経って、自分がどれほど話せるようになっているのかを定期的に確認し、聞き比べることでその効果を実感する機会をもつことはモチベーションを保つうえでも非常によいことです。「スピーキングは場数が大事」と言いましたが、レッスンをきちんと続けていれば、1年後には今より絶対に話せるようになっています。少しずつ進歩している力は自分では案外気づきにくいものですから、始めたばかりのころの自分の英語のやり取りの音声とその後の自分の音声を聞き比べ、学習の効果を実感しましょう。

また、レッスンが進み、ある程度話すことができるようになると自分の問題点に気づきにくくなってしまいます。使える語彙は増えているのか、表現の幅は広がっているのかなど、「自分の壁」を確認し、さらに上を目指せるような学習目標を設定しましょう。

自分の話している音声を聞くというのは、ちょっと恥ずかしさもありますね。ですが、そこをぐっとこらえてやってみてください。「相手にどう伝わっているか」ということに正面から向き合わない限り、コミュニケーションの力を伸ばすことはできないと思います。

さあ、オンラインスピーキングを始めよう!

オンラインスピーキングのレッスンはいつ始めるといいのでしょうか。基本的に、私はいつから始めていただいてもよいと思っています。英語を習い始めたばかりの小学生や中学生なら、学校で学んだ英語を実際に会話で使ってみる実践練習の機会とするとよいでしょう。高校生の方々は、すでに中学時代までに蓄えた英語のデータベースをある程度の量、持っているわけですから、すぐにも始めていただきたいですね。言語のデータベースは、身体に貯め込んでいるだけでなく、実際にコミュニケーションの場面で何度も取り出して使うことで生きてくるものです。

また、スピーキングのレッスンは、可能であれば週に1~ 2回の頻度で行うと、効果的です。というのも、異なる言語を使おうとするときは、母語と外国語とのデータベースを切り替える作業が必要ですが、その作業をしばらく行わないと、データベースの切り替えが鈍くなり、瞬時に外国語の言葉を取り出すということが難しくなるからです。

スピーキングのレッスンは、「英語を話す」1回限りの一大イベントではなく、英語でコミュニケーションをする力を身につけるためにコツコツと日々積み上げていく基礎トレーニングなのです。言葉のキャッチボールがスムーズになっているか、言葉のやりとりがきちんと機能しているか、自然に話すことができているか、このあたりを目標にレッスンを進めていきましょう。

最初のうちは、「英語で話す」ということに注力してしまうかと思いますが、徐々に相手との「話の内容」に意識を向けていきましょう。英語を話すことで、世界中の人といろいろな話題でのおしゃべりができ、一気に世界が広がります。

語学を身につけるコツはどんな言語でも同じです。英語を話すことに慣れたと感じたら、ぜひほかの言語にもチャレンジしてみてください。もっともっと世界が広がっていきますよ。