1. 生徒や先生一人一人がセルラー(LTE)タイプのiPadを「学びの武器」として日々活用している

 日本大学三島高等学校・中学校は、中高合わせて6学年、2,000名以上の生徒が通学する、静岡県の中でも屈指の大規模校です。その2,000名超の生徒と専任の教職員全員が一人1台、自分専用の iPad を持っています。しかも、無線LANの電波が飛んでいるところだけで使えるWi-Fiモデルではなく、スマートフォンと同じようにどこでも利用できる「セルラータイプ」を採用。学校、校庭、体育館など校内はもちろん、通学中、自宅などあらゆる場所で使えます。
 
 特に高等学校では iPad の利用制限も比較的ゆるい運用がなされており、生徒たちは自分たちで効果的なアプリをインストールできます。そのためか、生徒たちは日常の授業、学校のイベントでごく自然に「当たり前のもの」としてiPadを活用するリテラシーを備えています。これが、コラボレーションをする上での重要な要素の一つでした。
 実証実験では、「ICT」と「人の力」の両輪で学びの選択肢を拡張することを模索します。そのためには、ICTを「空気のようなもの」として、主体的に学ぶための「当然の手段」として活用できることが理想でした。しかも、同校は全学年が iPad という共通の武器を持つことで、先生・先輩・後輩を問わずに、お互いの工夫やノウハウを共有できる(そして、この学校には良い意味で先生や先輩・後輩の間の距離が近く、それが行われている)のです。
 

2. 「本気のPBL」を実践している

 同校では、「自由と規律」という校訓のもとで、特に「生徒の自主性」を重んじた人材育成に注力しています。非常に大規模な学校なのですが、規模の大きさによる意思決定の鈍さを全く感じさせないほど、エネルギッシュに物事を動かしています。
 
 その事例を2つ挙げたいと思います。
 

【事例1】1,500人の高校1-2年生全員が参加する「生徒総会」で、「ICTに関する校則の改定」を全て生徒が主導して実現した

  先ほど、同校では比較的「iPad の機能制限がゆるい」と書きましたが、その制限の中には従来「SNSの利用にあたっての制限事項」というものがありました。具体的には、「顔写真の掲載禁止」「制服の掲載禁止」「学校名の掲載禁止」「校内写真の掲載禁止」といった、SNSで学校や個人を特定されうる投稿を禁じるという制約です。これについて、生徒と教員の間では相当な議論があったようですが、最終的に「生徒総会の場で、生徒全員による直接投票で決議する」という場が設けられました。
 
 この生徒総会は学校公開日に合わせて実施され、同校の保護者や関係者だけでなく、他の学校の教職員や一般来場者も広く募り、300名以上の来校者が見守る中で行われました。しかも、意見発表、集計、採決など、運営は全て生徒が実施。途中、なかなか生徒が静まらないなどの場面もありましたが、教職員は最後まで口出しをせず、1,500名の生徒全員の投票を集計し、結果をその場で発表、採決を終えるまでを見守っていました。
 
 当然、手作業で1,500名規模の票を取りまとめるのは困難なので、iPadの授業支援ソフトである「ロイロノート・スクール(授業支援ソフトと呼ばれる、グループ討議や意見の可視化を可能にする学校向けの定番ソフト」を活用し、各グループ(4-5名)ごとに賛成・反対意見の取りまとめ、続けて一人一人の賛否をクラスごとに集計した賛成・反対票をその場で「G Suite(Googleの提供する、クラウド上で動作するオフィス系ソフトウエア)」を活用してグラフ化する、などICTを効果的に活用。
 こうしたアイデアは、全生徒や来場者が一斉に通信をすることで通信速度が遅くなるかもしれない、限られた時間でその場で結果を出すにはどうすれば良いか、どんなアプリをどう使えば、来場者にも、生徒にもわかりやすく結果を見せられるか、と生徒たち自身が考え、時には大人にアドバイスを受けながら、多くの課題を乗り越えて実現させたのです。
 
 当然、来場者からは、これだけの規模を、生徒だけの運営で、しかも大人顔負けのICTを活用しつつ、最後まで完遂したことに驚きの声が多く上がったのはいうまでもありません。

【事例2】地域をものすごい勢いで巻き込んだ「ギネス記録の樹立」

 同校は2018年の6月に開催した文化祭「桜陵祭」にて、あるギネス記録を樹立しました。これは、同校の3年生による「日大三島で世界一をつくりたい」というアイデアが発端で、そのアイデアの原型も3年生が1年生だった時に行われた学級対抗の「プレゼンバトル」で生まれたものでした。
 
 様々な検討を経て考え出されたのが、地元三島のB級グルメ「みしまコロッケ」を、15秒間の制限時間の間に同時に「食べさせあう」ことに成功したペア数にチャレンジするというもの。目標は、5,000人(2,500ペア)という、ギネス記録の規定上「ここまで行ったら抜かれない(殿堂入り)」を目指すというものでした。
 
 しかし、同校の教職員が「まさに日々、PBL(プロジェクト型学習/Project Based Learning。特定のプロジェクトの完遂をめざし、直面した課題に自力で挑み突破しながら学びを深めていく方法)そのものだ」と話すように、多くの課題に生徒・教職員は直面します
 
 大規模校だからそれだけでギネス記録に有利ではないか、と思うかもしれませんが、まず、目標の「5,000人(2,500ペア)」には日大三島の全校生徒を集めても、まだ3,000人たりません。それ以上に大きな課題として立ちはだかったのが、ギネス認定に必要な「監視員」を100名集める、というミッション。ギネス認定にはその成功を見届けるために、記録に挑戦する人とは別の「監視員」が必ず必要で、今回の場合は50名あたり1名の監視員、つまり100人が必要です。
 
 しかもこの監視員の要件は非常に厳しく、学校の教職員、学校の取引先、在校生の保護者や家族、学校の卒業生、同校の教職員の知り合いなど、学校と直接の接点を持っている人はNGなのです。このため、同校では生徒が駅前で協力を呼びかけるチラシを配布したり、SNSを活用して情報の拡散を試みたり、さらには市役所や地元の小学校のPTAを動かすなど、あらゆる手段を使って監視員の募集を行いました。「いかに学校に接点のない人の協力を得るのが大変なのか、よくわかった」という声が生徒からも聞こえてきたように、「地域社会とつながる学校」の実現が一筋縄ではいかないことを生徒・教職員共に痛感したのです。
 
 しかし、地元のニュースや新聞にも協力を仰ぎ、総力戦で挑んだ結果、無事に監視員があつまり、結果として5,000ペアには届かなかったものの、1,980ペア(3,960人)の「食べさせあい」に成功し、新記録を樹立。記録確定のアナウンスに、場内にいた多くの参加者から歓声があがりました。企画を主導してきた生徒や教職員の中には、うれし涙を浮かべる人も多数。生徒のアイデアを、学校が一体になって実現させた瞬間でした。
 

ギネス認定証を手に喜ぶ生徒会長・田之倉さん

  このように、生徒の発案や生徒の想いを教職員が「一つでも実現させよう」と必死になり、しかしながら、あくまで主役は生徒で、事を成すという指導が行き届いている、そんな文化が、今回、実証校を一緒に進めていくための大きな原動力の一つになったのです。

3. 教職員の強烈な変革マインド

今回の実証事業を主導する1人、家庭科の長坂先生

  上記のICT導入、学校を挙げたPBLなどからもわかるように、同校には非常にチャレンジングで、常に周囲の変化を意識しながら活動をされている先生方がいます。ICTの導入についても最初は躊躇していた先生方も、公開授業を経るごとに自然な活用に「進化」しています。
 そして、学習指導要領の改定や子供を取り巻く環境の変化、さらには社会の変化による課題を意識しており、学校長である渡邊武一郎先生をはじめ、強烈な課題意識をもって学校を「変革」しようと日々、奮闘しています。それが、時々学校を訪問して、先生方と打ち合わせをする私たち「学校の外部の業者」にも伝わってくるのですから、内部での動きはもっとドラスティックなものなのだと考えています。
 
 そうしたこともあり、今回の実証事業のことを学校と相談し、「探究学習という手段を当たり前にできるようにしたい」というZ会からの申し出についても「それならば、これを機会に学校としても新しい探究のカリキュラムを作り出そう」とすぐにおっしゃってくれました。先生たちからも次々にアイデアを出して、今回のように「正規の授業時間(道徳・総合・家庭科)」を活用しつつ、学びを深めるために外部(Z会)の力を使う、という判断をしてくれました。なによりも、この話をしている時の先生方が「これから始まる新しいことにワクワクしている」という様子が、何より頼もしいことでもあります
 
 なお、今回は比較的ICTの活用やPBLが進んでいる高等学校ではなく、中学2年生を対象学年に選定したのですが、これは学習指導要領の改訂や入試の変化など、未来を見据えてのことです。今回の実証事業は5年計画で行うため、いまの中2と5年間にわたって併走すると、高校を卒業するまでの学びの「進化」に寄り添えるというのも大きな理由です。さらに、同学年は2018年の2月17日(先ほどの「SNS利用ルール」の改定を行った公開授業の日)に、Z会Asteriaの「総合探究講座」と道徳、総合の授業を組み合わた授業を既に経験しており、その学びをさらに深めていくという動機もありました。
 中学2年生を選定したことについて、同校の先生からは「我々にとって、2024が大きなターニングポイントとなると想定しています。そちらに向けての改革が主目的とすると、未来の学校は、手に取れる将来なんですよね。その中心になるには、中学生であって、誰もやっていない教育を先駆けることができるのは、すごく魅力です」とお話いただいています。
 
 今回の実証事業がどのような方向に進むことになるかは、日本大学三島高等学校・中学校も、Z会も、まだわかりません。ただ、確実に言えることは、「未来の教室」の一つの姿である「学校」や「教育産業」といった垣根をお互いに「越境」し、それぞれが少しずつ「50cmの改革」に挑戦し、「試行錯誤」していくということです。
 
 実証事業の経過は、この「マナビシフト」でも時々、紹介していきますので、今後もご注目いただけますと幸いです。

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公開日:2018/07/20