レゴって、どこの国の会社?

「レゴブロック」は知っていても、「レゴってどこの国の会社?」と言われると、知らない人も多いのではないでしょうか。アメリカ? イギリス? もしかして、日本? いえいえ、実はレゴ社はデンマークの会社です。

デンマークの首都、コペンハーゲンから飛行機で1時間ほどの「ビルン」という街に、レゴの本社はあります。このビルン、デンマーク第2位の国際空港があるため、海外からの直行便も数多くあります。……が、2017年の人口は6,000人強。1950年代には街まで続いていた鉄道が廃止されてしまうほどの、デンマーク南部の小さな小さな街です。なぜこのビルンにレゴ社があるのでしょうか。なぜこのビルンにデンマーク第2位の国際空港があるのでしょうか。

オーレ・キアク・クリスチャンセン

1932年、このビルンでオーレ・キアク・クリスチャンセンという腕のよい大工が木のおもちゃを作り始めました。当時は世界恐慌のまっただ中、オーレ・キアクも職を失ってしまい、そんな中で生活のためにおもちゃ作りを始めたのです。当初は売れ行きもよくなく、まもなくオーレ・キアクの妻が亡くなるなど、先行きはよいものではありませんでした。そして苦労の末、だんだんとおもちゃが売れるようになってきた1934年、オーレ・キアクは会社の名前を決めました。デンマーク語で「よく遊べ」を意味する “Leg Godt” から2文字取ってLEGOという社名が決まりました。ビルンで産声を上げたレゴ社は、創業から100年近くが経った今でも、本社をビルンに起き続けています。なお、オーレ・キアクが過ごした家は今でも残っており、LEGO Idea Houseというレゴ社の博物館になっています。また、その家の付近の住所には「オーレ・キアク」という名前がついています。

オーレ・キアクが過ごした家

ちなみに、Z会の創業は1931年。Z会とレゴは、どちらも同じくらいの長さの歴史を紡いできた会社なのです。

ビルン到着

今回デンマークを訪問したのは、レゴ社の教育部門「レゴ®エデュケーション」が開催した「レゴ®エデュケーション パートナーカンファレンス2018」に参加するためでした。レゴ社の製品で「教育」を行っている世界中の会社が集まり、今後の方針を聞いたり、効果的な「学び方」の事例などを共有するためのカンファレンスです。

先にも書いたとおり、ビルン国際空港はデンマーク第2位の国際空港。今年開園50周年を迎えるレゴランドのために、レゴ社が作った空港です。Z会の担当者は、フィンランドのヘルシンキ空港からの便でビルンに到着しました。当日の気温は10℃。ぐずぐずした天気の多い10月下旬のデンマークにしては珍しく、スッキリとした青空の日でした。

空港を降りてタクシーに乗ります。
「ホテルレゴランドまで!」
タクシー乗車中、周囲を見渡しますが、大きな建物は見当たりません。そういえば、上空から見た景色も緑が多かったよなあと思っているうちに、10分ほどでホテルレゴランドに到着。時期はちょうどハロウィン。ホテルレゴランドもハロウィン仕様になっていました。

ホテルに隣接する「本場の」レゴランドは、日本のレゴランドよりも敷地面積も広く、日本では見られないアトラクションも数多くあります。ホテルからは専用の連絡橋もあり、部屋によっては園内を見渡すこともできるなど、日本のレゴランドホテル以上に「パークに近いホテル」といった印象です。

カンファレンス

いよいよ始まったカンファレンス。世界中から300名ほどの参加者が集まりました。

実は今年は、WeDo誕生から10年、マインドストーム誕生から20年の節目の年なのです。そんなことも紹介しながら、レゴ社の教育部門「レゴ®エデュケーション」の代表の挨拶、レゴ社の進めている研究の発表などが行われました。

「遊び」と「学び」

レゴ社の研究テーマの1つが、「学び」と「遊び」の関係です。レゴグループの1つである「レゴ財団(LEGO Foundation)」がこのテーマについてさまざま研究しており、その成果はウェブサイト上でも発表されています。
コンセプトの中心となるのは “Learning through play”(遊びを通した学び)という考え方。とかく(これは日本人に限らないのかもしれませんが)「遊び」というと、「子どもがするもの」「学習とは対立する概念」と思われてしまいます。しかし実際には、学習の中に「遊び」の要素が入っていても全くおかしくありませんし、むしろ子どもたちは「遊び」を通して「学び」を得ているという側面も少なからずあるはずです。レゴ社はここに注目し、さまざまな研究をしています。

その成果は、実はレゴスクールやZ会が提供する講座にも生かされています。

デュプロブロックでの「学び」から始まり、WeDo、マインドストームでの学びがそれぞれどう結びついているのか。どのような「学び」があるのか。全体の講座体系はこのようなことを考えられて作られています。参加している人たちには当然のことなのですが、改めての確認の場となりました。

hands-on & minds-on

そして参加者お楽しみのワークショップ。「学びにはhands-on(聞くだけでなく実際に手を動かして体験すること)とminds-on(造語;聞くだけ、手を動かすだけでなく、心も動かされるような体験をすること)が必要」との考え方から、ワークショップにも細かな工夫がちりばめられていました。

写真はワークショップの一場面です。講師が海賊の格好をしています! ……なぜ海賊だったのかよくわかりませんが、インパクトは絶大です。それだけではなく、「海賊風」のしゃべり方。恥ずかしがったり照れたりする様子はまったく見られず、完全に役になりきっていました。そして与えられたミッションも、「プログラムを作って宝箱を開けにいく」というもの。成功者への賞品は、コインを模したチョコレート。「海賊船に乗って修行をしているんだ!」といった世界観を作り上げていたのです。こうした演出は、まさに「minds-on」といえるでしょう。
ちなみにこのワークショップは、マインドストーム® EV3を Mircosoft MakeCode というプラットフォームで動かすというもの。

Microsoft MakeCode はマイクロソフトが作ったプログラミング環境で、スクラッチのような「ビジュアルコーディング」と、JavaScriptを使ったテキストコーディングの両方を切り替えて使うことができるものです。途中でそれぞれを切り替えられるため、「いまビジュアルで作っているものをコードで表現したらどうなるのだろう」「細かな修正はキーボードを使ってコードで行いたい」ということができるものです。

Microsoft MakeCodeはPCからしか利用できない(正確には、タブレットでもプログラムを作ることはできますが、マインドストームにデータを転送できない)ため、Z会の講座受講者に積極的におすすめできないのが残念です。

スクラッチも!

来年1月に正式版が登場する予定の Scratch 3.0 では、WeDo 2.0とマインドストーム® EV3に対応することが発表されています。今回のカンファレンスでも、Scratch 3.0 を使ってみようというワークショップが開かれました。

マインドストーム® EV3では、例えばジャイロセンサーが使用できないなど、「できないこと」もあるようです(Scrach3.0がベータ版だからなのか、最低限の機能だけを持たせる方針だからなのかはわかりません)。しかし WeDo2.0 はアプリにある機能は基本的に使えますし、スプライトと連動した動きをさせるなど「アプリだけでは実現できないプログラム」を作ることができます。可能性を感じます。

ただ、現時点では WIndows または Mac からでないと、マインドストーム® EV3やWeDo2.0を使うことはできません。正式版公開の折にはタブレットからも使えるようになってほしいものです。

表現すること

レゴ社の方々が行うワークショップやプレゼンテーションを見て改めて感じたのは、「表現すること」の大切さ。レゴ社の商材は見てわかりやすいものが多いのは確かなのですが、だからこそ、このような場では背景にある思想や発展のさせ方などをきちんと「表現」しています。Z会でも、「表現する」ことを大事にしてきましたし、プログラミング講座でも意識して取り入れています。Twitterでの「毎月のミッション」などもそうしたことを意識した企画の1つです。

そして単に「表現する」だけではなく、「人をひきつける」ことも大事であり、受け手側のプラスになることも再認識しました。

例えば全体の司会者。昨年(このカンファレンスにZ会が参加させていただいたのは、昨年に続いて2回目です)と同じ方が担当されていましたが、大変面白い方。ときにはジョークを飛ばし、ちょっとしたワーク(一緒に拍手をしてみよう、など)を通して一体感を高めてくれます。

例えばワークショップ。先にも紹介したとおり、世界観を作り、参加者をひき込みます。今回は「海賊」のほかにも、幼稚園向けの教材「デュプロ トレイン」のブースでは、担当される方々が皆、駅員さんの格好をしていました。ワークショップに参加するには初日に配布された「切符」を渡さなければならないなど、やはり世界観を作るための「こだわり」がありました。参加者もそうしたこだわりを受け入れ、皆が一体となってワークショップを「作り上げて」いきました。

人をひきつけて、一体感を持たせる。これまでにもそのようなことを意識してきましたが、これからの教材でも大切にしていきたいと感じたことでした。

そうそう、一体感といえば、先にも書いたとおり今年はWeDo10歳の、マインドストーム20歳の年です。そういうわけで、全体の場で「ハッピーバースデー、WeDo!」「ハッピーバースデー、マインドストーム!」と、Happy Birthdayを参加者全員で歌いました。これも、同じ世界観を皆が共有し、一体感があってこそできたことでしょう。

「レゴ」のすごさ

3日間のカンファレンスを通して改めて感じたのは、「レゴ」のすごさ。「レゴ」と言えば誰もが同じようなものを想像するという「ブランドのすごさ」、「子どもには最高のものを」という理念を実現するためのこだわり、そして、レゴ社は「教育」というものについても何十年も前から考えているという事実です。

「ブランドのすごさ」については言うまでもありません。自国のみならず、世界中で何億人という人が「レゴブロック」の存在を知っており、かなりの確率で使ったこともあります。それも、大人から子どもまで。身の回りにそのような製品がどれだけあるでしょうか。

理念を実現するためのこだわりこそが、「レゴ」を「レゴ」たらしめているものなのでしょう。この姿勢はZ会の「最高の教育で、未来をひらく」ために徹底的にこだわり抜くという姿勢とも共通しているものと考えています。

そして、レゴ社の「教育」の観点にははっとさせられます。例えば、先にも触れた “Learning Through Play” という考え方。レゴ社はそこを見逃さず、自社のプロダクトを通して、子どもたちに「最高の経験」をしてもらいたい、と考えているのです。

やっぱりレゴ社すごいなあ。
そんなことを思いながら、帰路についたデンマーク出張でした。

番外編:いざレゴ社へ!

今回のカンファレンス会場は「ホテルレゴランド」ですので、厳密な意味では「レゴ本社」にお邪魔をしてはいません。しかし、さすがレゴ社。レゴファン垂涎の的「工場見学」に招待してくれました!

……とその前に、先述の LEGO Idea House の見学。

オーレ・キアクが創業してから現在までの歴史を知ることができます。例えばこの写真は、オーレ・キアクが使ったものと同じ糸鋸。ほか、レゴ社のモットーである “DET BEDSTE ER IKKE FOR GODT”(英語では "Only the best is good enough"と訳されます。日本では『子どもには最高のものを』と紹介されています)と彫られた看板があったり、オーレ・キアクが作っていたアヒルのおもちゃなどが展示されていました。

「レゴブロック」も初代のものから、デュプロ、そしてマインドストームまでが。まさにレゴ社の歴史を学ぶための博物館。大変充実した時間を過ごしました。

そしていよいよ、工場見学。

受付のある建物は工場のようは見えません。しかしふと横を見ると……。

いかにも工場といった風景です。車の向こう側にみえるのは、ブロックの原料プラスチックを入れているサイロ。いよいよレゴブロックの工場に入れるかと思うと胸が高鳴ります。

……が、ここから先は撮影禁止。さまざまな書籍やサイトで紹介されている写真をご参照ください。(例えば日経ビジネスオンラインに『レゴ工場に潜入! ROE58%、超効率経営の心臓部』という記事があります。ここでは工場見学の様子が写真入りでレポートされています。ほか、レゴ社はファン向けの『インサイドツアー』を毎年企画しています)。

レゴブロックは24時間稼働の巨大工場で作られています。工場はハンガリー、チェコ、メキシコ、中国にもありますが、このビルンで作られる量は他の工場よりも圧倒的に多いそうです。

レゴブロックは、専用の機械で「プレス」されて作られます。鯛焼きをイメージするとわかりやすいでしょうか。プラスチック原料が型に流し込まれ、高圧の力を加えられて、よく知っているあの形のブロックができあがります。この工程で重要な役割を担うのが、レゴブロックの「型」。この作成とメンテナンスには時間や費用を惜しまず、中には作るのに数百万円もかかる「型」もあるのだとか。

ここで作られたブロックは、専用の保管倉庫に運ばれます。高さが30mもあるこの倉庫、ロボットによってところ狭しと部品の入った箱が詰め込まれていきます。そして注文に応じてこの倉庫から箱が取り出され(取り出すのはロボットです!)、梱包の工程に送られます。梱包は、例えばチェコにある工場で行われ、そこから世界中に発送されていくのです。

感想は、「すごいなぁ…!」。ただただ、この一言に尽きます。

おまけ

「あー、やっと日本についた。遠かったなあ。さて、預けた荷物はそろそろ出てくるのかな」。

預け荷物のターンテーブルで、自分のスーツケースを発見。
「これだな。……あれ、うまく立たないぞ?」
どうしたんだろう。
「ん〜? ……!!!!」

買ったばかりのスーツケースがこんな無残な姿に。
しょんぼりしながら帰宅したのは、ここだけの秘密です。

Z会のプログラミング講座ラインナップ

公開日:2018/12/06