公開日 2016.11.14

英語の「話す」「聞く」「読む」「書く」の4技能を大学入試でも評価する動きが進んでいます。4技能のうち、「話す」力は、どうすれば鍛えられるのでしょうか?「通じる英語」などを研究されている東京学芸大学の高山芳樹教授にうかがいました。

◆入試でも「話す」力を評価する動きが進んでいる

日本の中高生は、まだまだ英語で発信する力が弱い—これが、現在の文部科学省の認識であり、2020年度以降順次改訂される小・中・高の学習指導要領の検討も、「話す」力を伸ばすことにより一層力を入れる方向で進んでいます。

大学入試においても、4技能を測定するためにTOEFL®やTOEIC®、GTECなどの活用を文部科学省が進めているのはご存じのことと思います。また、私立大学においても、上智大学と日本英語検定協会が開発したTEAPを採用する大学がどんどん増えています。

こういった状況から、中高生は今後ますます「話す」力を鍛えていくことになるでしょう。

◆多量の英語に触れることで、「話す」力も伸びる

中高生の皆さんが「話す」力を伸ばすには、次の4つのことに取り組むことをおすすめします。

(1)理解可能な英語に多量に触れる
「話せるようになるにはとにかく会話しなきゃ」と考えがちですが、それは、効率的な学びではありません。まずは、たくさんの英語を聞くことと、読むこと、しかも、自分手の届くレベルにある英語に多量に触れることが大事です。そうして正しい英語の発音やさまざまな英語表現、「コロケーション(collocation)」と呼ばれる語と語の慣用的な結びつきなどをインプットすることで、伝わる英語を話せるようになるのです。

具体的にご説明しましょう。例えば、「休憩する」は、英語で “do rest” ではなく ”take a rest” や ”have a rest” と表現します。この、’rest’ には ’do’ ではなく ’take’ や ’have’ を使うといった語と語の慣用的な結びつきが「コロケーション」ですが、これは、ある程度理解できるレベルの英語をたくさん聞いたり読んだりすることで、自然と体の中にしみ込んでくるものです。そして、いざ話すときに自然と”take a rest”のようなかたまりのまま出てくるようになるのです。

発音についても同様です。正しい発音の英語をたくさん聞くことで、音声としての英語が蓄積されていき、話すときに通じる発音で話せるようになります。

理解可能な英語にたくさん触れるために最も手ごろな学習ツールとしては、教科書やNHKのテレビ・ラジオ英語番組をおすすめします。何も理解できないまま英語のニュース放送を視聴したり、洋画をただひたすら見たりするのは適切ではありません。

学校の中に絵本や小説など、幅広いレベルとジャンルの英語の書籍を集めた「ライブラリー」があれば、その環境を活用して自分のレベルに合った英語の書籍をひたすら読むのもいいと思います。おもしろくなければ途中で本を変えても構いません。訳すためではなく、ストーリーを楽しむつもりで読むと、自然と英語表現が体の中にしみこんでくるでしょう。

1日5分でもいいので、毎日触れ続けることが大事です。英語の場合、週に1回まとめてインプットするよりも、毎日少しずつインプットする方が確実に伸びます。

(2)正確性を意識した練習をする
相手に誤解を与えずに自分の意図が通じるように話せるようになるには、英語の正確さを意識したトレーニングも必要です。

具体的には、まずは、英語の語順と日本語の語順はまったく異なるということを理解すること。その上で、英語を話すときや英文を音読するときに、「誰が」「どうした」「誰と」「どこで」「いつ」という語順を意識することが大事です。

例えば、「メリーをトムは愛している」と言いたいときに、メリーで始まるからといって ”Mary loves Tom.” と言ってしまうと、まったく逆のことを伝えることになってしまいますよね。このような語順の正確さは、相手に通じる英語を話すために学び、トレーニングしていかなければならないことです。瞬時にかつ正確な語順で文の組み立てができるよう、日本語の文をわざと英語の語順で言ってみるのも有効です。

(3)流暢性を意識した練習をする
とはいえ、正確さばかりに気を取られていると流暢性が欠けてくるので、正確さは正確さでトレーニングしながら、流暢性を意識した練習も必要です。ネイティブの人と話す機会を頻繁に持つのが一番ですが、それが難しい場合におすすめの方法が2つあります。

1つめは、英語でひとりごとをつぶやくことです。例えば、 “I'm gettig up.” “ I’m eating breakfast.” “I’m studying English now.” など、自分の行動を英語で実況してみるのです。毎日の自分の行動パターンは大体決まっていて、同じことのくり返しが多いので、何度も実況しているうちに行動を表す表現が定着してきます。

2つめは、教科書の内容を誰かに口頭でレポートしてみること。教科書に出てくる会話の場面やエッセイの内容の要約を、内容を知らない人に英語で伝えてみるのです。この場合、正確さよりも「伝える」ことを意識することが大事です。

あるいは、オンライン英会話サービスを利用するのも一つの手でしょう。Z会×レアジョブのオンラインスピーキングはおすすめですね。

(4)自分の発話を定期的に聞き直す
英語での会話を録画あるいは録音して、聞き直す機会を作りましょう。伝えられたことと伝えられなかったこと、相手が斟酌(しんしゃく)して言い換えてくれた表現などを振り返ることで、自分の弱点や会話で使える表現などを把握することができます。

そして、録画・録音したものは一定期間保存しておいて、1年前の自分と半年、1年後の自分がどれだけ会話できるようになっているのかを確認してみましょう。

スピーキングをはじめ、英語学習全般に言えることですが、一生懸命やっているけれども自分で伸びを実感できず、自分の学習方法に疑問を持ったり、いろんな教材に手を出そうとしたりしてしまいがちです。でも、勉強している以上は、確実に伸びているのです。過去の自分の会話を振り返ることで、その伸びを実感することができますし、モチベーションにつながります。

◆機会があれば、数日間英語漬けになってみるのもおすすめ

また、英語キャンプのような形で、数日〜1週間程度、日本語厳禁で英語しか話すことができない機会があれば、積極的に活用しましょう。一定期間、必死になって英語を聞き、話そうとすることで、英語力がものすごく伸びます。ついた力は英語漬けの日々が終わるとすぐに落ちてしまいますが、それでも、同じ環境にいる仲間に刺激を受けてモチベーションが上がるという点で、非常に効果的な経験だと思います。

日常の学習でインプットを行いながら、アウトプットの機会を持つ。これが理想の学習の形です。できることからぜひ実践してみてください。


高山 芳樹先生

東京学芸大学教授。青森県出身。
(株)イーオン勤務後、学習院高等科教諭、立教大学専任講師などを経て、現職。専門は英語教育学。通訳案内士国家資格、TOEICテスト990点満点取得。
著書に『高校英語授業を変える!』(アルク、共著)、『英語授業ハンドブック高校編』(大修館書店、共編著)、『NHK CD BOOK Enjoy Simple English Readers』シリーズ(NHK出版、監修)など。中学校、高等学校の検定教科書編集にも携わる。2014年度NHKラジオ「エンジョイ・シンプル・イングリッシュ」を監修。2015年度よりNHK Eテレ「エイエイGO!」の講師として出演中。