これからの世の中を大きく変えていくことが予測される情報技術。その進展は、学び方にも大きな影響を与え始めています。教育現場に少しずつ取り入れられてきているタブレット端末や教育現場向けアプリ、個人向けのインターネットを用いた学習サービス…これらによって、学び方はどのように変わっていくのでしょうか? 一般社団法人iOSコンソーシアムの野本竜哉さんに伺いました。

野本竜哉さんプロフィール

iOS搭載端末による諸産業の活性化を目指す一般社団法人iOSコンソーシアムにて、教育分野でのiOS搭載端末の活用法を議論・検討する文教ワーキンググループのリーダーを務める。企業と教育者を集めての月例勉強会や、教育ICT関連の展示会への出展などを主導している。

◆ICTによって、学び方の幅が広がっている

第4回:タブレット端末が思考力を鍛える!?——ICTが生み出す学習効果

ICTの導入によって、「黒板とチョーク」あるいは「ノートと鉛筆」という組み合わせではできなかったことが簡単にできるようになった。これは、疑問を挟む余地のない事実かと思います。
 
例えば、書いたものや手元で作った作品を瞬時に共有し合う。通信環境と画面、必要なソフトウェアがあれば、どれだけ距離が離れていても可能です。教育SNS(※)を授業に導入すれば、児童・生徒一人ひとりが手元にあるタブレット端末からほかの児童・生徒の解き方を見ながら学習するといった取り組みができますし、Skypeを使って海外の学校と意見を交わしながら学習することもできます。
 
※教育SNS…授業内容や課題を児童・生徒・教員などの間で共有できるSNS。グループ内チャットやファイルの共有などの機能が備わっていることが多い。

 
音声や映像を扱うことも、ICTの導入によって容易になりました。社会や理科の授業で、図表や資料集の写真からしか知ることのできなかったものを、インターネット上の画像を検索してさまざまな角度から拡大・縮小して見る。体育の授業でお手本の動画と録画した個人の動きを並べて見て、体の動きをチェックする。英語の発音チェックのために、自分の会話を録音して担当の先生に送り、確認してもらう。こういった活用が可能になっています。
 
このような事例を始め、今後の可能性も含めて、ICTを学習に取り入れることのメリットは、大きく分けて2つあると考えます。
 

◆メリット1 :ICTによって、1人で解決できる範囲が広がる

これまでは、わからないことや自身の学力の課題について知るには、学校の先生に質問するしかありませんでした。それが、以下のようなツールやサービスを使うことで、自分自身である程度その場で解決できるようになってきています。
 
・講義動画配信サービス:個人での学習が可能に
・インターネットを用いた質問サービス:画面の向こうにいる指導者にわからないことを質問することができる
・教育SNS:授業中に、手元にある端末上で「今の説明、わかった?」「どういうことか教えて」と他の生徒に聞くことができる
 
また、現時点ではまだ部分的な実現に留まっていますが、近い将来、可能になりそうな技術として、以下のようなツールの研究が進んでいます。
 
・数学の問題演習で間違った問題からつまずきの原因を分析し、理解が不十分な単元の問題までさかのぼって出題してくれるツール
・日本語の作文の文法的な誤りを指摘してくれるツール
 
このように、先生という存在に頼らずに、自力で、あるいは先生以外の人の協力を得ながら解決できる範囲を広げることができるのが、ICTを学習に取り入れるメリットの一つです。
 

◆メリット2 :ICTを活用することで、思考力を鍛えられる

ICTの特長の一つとして、インターネットを活用することで、最新の情報や多様な意見に容易にアクセスできることが挙げられます。この特長を利用することで、「思考する習慣をつける」「思考力をさらに伸ばす」ことが可能になります。
 
例えば、社会の授業で、対立する2つの意見について考える際、最も活用されているのは新聞の切り抜きです。しかし、誌面には制約があるために得られる情報は限られていますし、発行元の意見が反映された一面的な情報しか得られない場合もあります。そこにタブレット端末があれば、誌面の制約を超えた最新の情報や多面的な意見を知り、考えることができます。
 
あるいは、「世の中の課題を見つけて、その解決策を考え、提案し、実行する」というテーマで学習を行う際、世の中について調べ、課題を見つける、あるいは、自分の考えを蓄積するための道具として、タブレット端末をはじめとしたICTを活用することも可能です。
 
実際、ICTを導入した学校の多くは、その目的に「日常的に考える習慣をつけるため」「思考を鍛えるため」などを挙げています。そして、上述したような探求型学習の場面で活用しています。
 
ただ、一つ注意していただきたいのは、ICTを用いた学習をすると、即座にテストの点数が伸びるわけではないということです。だからといって、ICTが学力の伸長に効果がないというわけではありません。ポイントは、思考を促すツールとしてICTを活用できるかどうか。学習の段階には2段階あって、まず、知識をインプットする段階、次に、知識そのもの、あるいは、知識を活用して課題に対する解決策をアウトプットするという段階があります。そのインプットとアウトプットの間をつなぐのが、思考です。ここに正しくICTを活用すれば、思考を鍛えたり伸ばしたりすることに効くのです。
 
実際、思考を促す学びのために、必要に応じてICTを活用するような取り組みをしている学校では、全国学力・学習状況調査(全国学力テスト)のB問題(思考型)の正答率が向上している、という報告が出てきています。日ごろから「考える」ことを鍛えることによって、難しい文章題が出ても諦めずに何かしら書こうとする姿勢が身に付いていることの表れではないか、という分析がされていました。このような「課題に対して諦めずに解決策を追求する姿勢」というのは、社会で生きていく上で重要な力の一つ。ICTがその力を伸ばす一つのツールになったということだと思います。
 

◆次回予告(2015年12月26日掲載予定)

  • 学校ないし個人での学習にICTを導入する場合に気をつけたいことは何か、野本さんに解説していただきます。

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