これからの社会を生きるために、中高生が身につけたい力とは_2016.1
公開日 2016.1.29
第2回で、予測不可能で誰も避けることのできない変化が絶え間なく起こるこれからの社会では、問題や課題を自分ごととして考え、他者と協力して解決策を見出していく必要があることを紹介しました。そのために、子どもたちはどのような資質・能力を培っておくとよいのでしょうか。第2回、第3回に続き、これからの社会で求められる資質・能力などについて調査・研究している基盤学力総合研究所・ジェネラルマネージャーの上之門宏美さんにお話を伺いました。
◆備えておきたい4つの資質・能力
世の中や身の回りの問題・課題を自分ごととして考え、自分とは価値観や考え方が異なる「異質な他者」と言える人々と協働して新しい解決策を見出していくには、以下に挙げる4つの資質・能力を備えておくことが必要だと考えます。
1. 思考・行動・コミュニケーションのための基礎ツール
具体的には、言語運用能力、数理能力、ICT能力だと基盤学力総合研究所では規定しています。
言語運用能力は、文字通り、言語を運用する力。数理能力は、言葉で説明すると冗長になってしまう概念を数で抽象化して伝えたり、統計などの数値データから事象のメカニズムを読み取ったりする力。ICT能力は、情報やその扱い方に関するモラル、リテラシーも含めて、適切にICTを使いこなせる力です。
中でも重要なのが、言語運用能力です。というのは、言語は、異質な他者と自分という存在をつなげる唯一のツールだからです。言語を介して「相手の考えを受信する」「自分の考えを適切に発信する」「受信した相手の考えをふまえて『じゃあこうしよう』と解決策を見出していく」という、受信、発信、対話の力が必要でしょう。
2. 問題解決力
答えがない・見えない問題に対して、自分の力で解決策を導き出す力です。より細分化すると、問題・課題を見つける、解決のために欲しいと思った情報を探す、得た情報のうち解決に役立つエッセンスを抽出し、組み合わせて解決に向けての道筋を作り上げる、立てた道筋が本当に適切かを振り返り、さらに高く広い視野で考察する、解決に向けての具体的な行動を提案・実行する、これら一連の流れを改めて振り返り、次の行動をどうすべきか省察する。これらすべてをまとめて「問題解決力」と規定しています。
3. 組織的行動能力
グループの中で当事者意識を持ち、行動する力です。「問題解決力」が自分という個人に重点が置かれているのに対し、「組織的行動能力」は、自分が考えたことを組織の中でいかに効果的に展開してチームのパフォーマンスにつなげるかに重点が置かれます。自分とは異なる主張・価値観を否定せず、かつ鵜呑みにせずに適切に受容すること、「誰かに言われたから」ではなく、当事者としてグループ内の自分の立ち位置や役割を認識して行動することや、組織・共同体が抱える課題の解決に向けて、自分の意志・判断で責任をもって行動することなど、チームワークを意識しつつ、自分の舵を自分でとることのできる力として規定しています。
問題解決力と組織的行動能力は、どちらかがより重要というわけではなく、他者と協働して問題・課題を解決するための車の両輪だと考えていただければと思います。
4.自己実現力
「自分はこういうことに興味がある」「これをやってみたい」「(目標を設定して)こういうふうにやっていこう」といった探究心や達成志向、そして、実現のための自己管理やストレスコントロールなどを含めた力です。優れた基礎ツールと問題解決力、組織的行動能力を持っていても、「どう生きていくか」「どのような人間でありたいか」という志がなければ、それらの力を適切に発揮することはできません。自己実現力は、問題解決力や組織的行動能力を喚起・規定する人間性や社会的信用と言ってもよいでしょう。
問題解決力と組織的行動能力が車でいうエンジンと車輪だとすると、自己実現力は、進みたい方向を決めるハンドルです。そして、これらの力は個人の内側にあるものなので、問題や課題に対して、あるいは異質な他者に向けて正しく発揮するために基礎ツールを磨く必要がある、ということです。
◆大人の常識の枠に子どもを閉じ込めないことが、子どもを伸ばす秘訣
子どもたちがこれらの資質・能力を身につけるために、大人はどうあるべきか。まずは、子どもたちが「自分で勉強する人」になるように後押しすることが大事だと考えます。というのは、子ども自身の内発的な動機から学ばなければ、これら4つの資質・能力は身に付かないからです。例えば、「論理的思考力が大事だから、論説文を毎日1文ずつ読みなさい」などと行動を規定しても、主体的に学び、行動する力は磨かれません。「楽しいから勉強する」「社会のためにやりたいことがあるから勉強する」と子どもたちが思えるような働きかけが大事です。
そのために重要なのは、大人の常識の枠に子どもを閉じ込めないことです。アクティブ・ラーニングをはじめとした講義中心ではない授業を見て、「こんなにわいわい話していて勉強になるのだろうか?」「私のときはもっといっぱい単語を覚えたのに…」などと不安に感じている保護者の方もいらっしゃると思います。でも、これまでお話ししたように、今、教育がやろうとしているのは、大人が知っていることを教えて子どもが再生できるようになるというものではなく、子どもたちが仲間たちと一緒に対話したり考えたり、実行しては失敗して試行錯誤しながら、今の大人では考え付かないような新しい価値を生み出せるように、学びの形を変えていくことなのです。「大人ができないことは子どももできるはずがない」「大人がやってきたように子どももやるべき」などと思わず、私たち大人も、子どもの勉強の仕方から学び、一緒に成長していくつもりで臨んでいただきたいと思います。