公開日 2018.5.9

「大学入試が生まれ変わる」という話は、このミライ研究室でもたびたび紹介してきました。期待と希望に胸を膨らませて入学した2018年5月現在の高校1年生が、まさにその「新入試1期生」ということになります。…と述べると、せっかく楽しい高校生活を思い描いて入学したのに、不安で喜びが薄れてしまいそうですね。ここではそんな「ぼんやりとした不安」から脱却し、どう学習を進めていけば、来る新入試で困らなくなるのかについて、Z会京大進学教室の遠藤正樹が具体的にご紹介します。
Z会京大進学教室(大学受験担当)
遠藤正樹

関西の教室で長年、教室長として、多くの受験生の進路指導に携わる。
新大学入試に関連した講演も多数担当し、好評を博している。

◆プレテストからわかる新しい学力

2017年11月〜2018年3月にかけて、一部の高校でセンター試験に代わる新しい入試=「大学入学共通テスト」の試行調査(以下プレテスト)が行われました。「大学入試センター」のHPにも問題や調査結果等がUPされているので、そちらも参考にしてほしいのですが、これがまず新入試を迎える皆さんが真っ先に直面する「壁」…のサンプル問題になるので、これを分析することで、皆さんの今後の学習の道しるべにしていきたいと思います。

まずは「国語」と「数学」の問題について。
この2教科はこれまで全てマーク式だったセンター試験とは異なり、「記述問題」がプラスされることになりましたね。「国語」から見ていきましょう。

国語は全部で大問が5題。そのうち第1問が記述問題となっており、内容は「部活動」の決め事に関する5人の議論を踏まえて問題を解くというもの。表や新聞記事など、さまざまな資料が登場しているのがわかります。この問題でどういった力を見ているかというと、「現実に存在しそうな場面で適切な判断が下せるか」ということ。そしてその判断のために「複数の資料を正しく読み取り、比較するなどの情報処理ができるか」ということが問われています。あとの第2〜5問は従来通り、評論・小説・古文・漢文の読解問題になっているのですが、たとえば古文は源氏物語の「底本比較」(同じ場面の文章だが、表現や内容が微妙に異なる文章の比較)をさせるなど、結局は「複数の情報を比較して判断する力」がより問われる出題になっているのがわかります。
また、目玉の「記述問題」がどのように出題されているかを見てみましょう。
問3
空欄イについて、ここで森さんは何と述べたと考えられるか。
次の(1)〜(4)を満たすように書け。

(1) 二文構成で、八十字以上、百二十字以内で書くこと(句読点を含む)。なお、会話体にしなくてよい。
(2) 一文目は「確かに」という書き出しで、具体的な根拠を二点挙げて、部活動の終了時間の延長を提案することに対する基本的な立場を示すこと。
(3) 二文目は「しかし」という書き出しで、部活動の終了時間を延長するという提案がどのように判断される可能性があるか、具体的な根拠と併せて示すこと。
(4) (2)・(3)について、それぞれの根拠はすべて【資料(1)】〜【資料(3)】によること。
見て分かるように、ただの記述問題と違って「注文が多い」です。
そしてこれは普段から学校の作文の課題や高校入試・大学入試の小論文で指導されている文章の「書き方」の型を問うていることがわかるでしょう。しかも単なる作文とは違って、「無根拠」な記述はNG。あくまでも既出の資料を根拠にせよ、という厳格な指示が出されています。

これらから次のことがわかります。

1)大学で研究をしたり、実社会で議論・判断をしていくための力を問うている
2)研究者として、社会人として、自分の意見を「然るべき」手段でアウトプットできる力を問うている

続いて数学の問題を見ていきます。こちらは数学I・Aの第2問です。

いきなり「Tシャツ」のイラストが出てきて、何かと思えば文化祭で売るTシャツの価格を決める問題です。どこの高校でもありそうな場面ですね。そしてこれを高校数学の知識と絡めて出題しているから面白い。(3)の利益が最大になるTシャツの金額を二次関数の知識を使って求めるのですが、なんと正答率は3%でした。それだけ出題に面食らった高校生が多かったということでしょう。よく「数学の勉強なんてして社会に何の意味があるの?」と親や先生に質問をして困らせる生徒がいますが、ある意味この出題は、そういった疑問への一つの反駁なのかもしれませんね。

なお、数学の記述問題は次のように出題されています。
今まで数字を穴埋めするだけだった形式から、一部の問いが「記述式」になっています。

結論に対する「理由」を数学的に説明させたり、証明問題に関する考察問題になっています。

以上から、数学でも、「知識を活かして実社会で生じる課題の解決にどのように向き合うか」が問われたり、理由説明や証明などのアウトプットの力が問われていることがわかります。

さて、ここまでご覧いただいていかがだったでしょうか。プレテストは国語・数学以外英語・理科・地歴の実施もなされ、記述問題は含まれませんが、その形式は大きく変わっています。そのどれもが、多種多様な具体的場面の設定と、豊富な資料の読み取りをベースとしており、国語・数学で求められている力と通じる部分が多くあります。

その中でも特筆すべき2点をあげておきます。

□英語のプレテストは読解のみ
英語はリーディングとリスニングの2種類の試験があるのですが、プレテストは読解「中心」ではなく「のみ」の出題になりました。それもかなりバラエティに富んだ種類の文章・資料の読み取り問題です。以下が具体的な出題内容になります。

▽英語(リーディング)の出題内容一覧
第1問:遊園地の混雑情報の読み取り
      大学で掲示されているポスターの読み取り
第2問:飲食店に関するネットの評価情報の読み取り
      学生アルバイトの是非に関する記事の読み取り
第3問:イラスト付き旅行記のブログの読み取り
      セールスマンの新聞コラムの読み取り
第4問:ボランティアに関する調査結果の読み取り
第5問:学校新聞の記事の読み取りと論理展開の考察
      スパイスに関する記事の読み取りとノートの作成
第6問:サマーキャンプに参加した少年の物語の読み取り

この試験を乗り切るには、「速読力」と「情報処理能力」の2つの力が必要です。前者は英語の文章に沢山触れてとにかく慣れること。後者は多くの文章・資料を読み取り、必要な情報を取捨選択することを繰り返していくことでしか身につきません。

□鬼門=「全て選べ」式問題
記述問題以外で厄介なのがこの「全て選べ」式問題です。この形式の出題は従来のセンター試験には存在せず、プレテストになって初めて登場しました(それも全科目で、です)。選択肢が5〜6個並んでいるのですが、「いくつ正解なのか」がわからないところがこの問題の最大の特徴です。物理の出題には「正解がない場合は0を選べ」などというものもありました。今回のサンプリングでは、これらの問題の正答率が軒並み低く、10%を切る問題も散見されるぐらいです。
この種の設問に対抗する手段はズバリ一つ。「選択肢に惑わされない圧倒的二次力をつけること」です。確かな知識と確かな記述力があれば、間違えている選択肢などには目もくれず、自信をもって答えを選べるはず。だからこの設問は、二次試験(個別試験)に強いZ会員にとっては、私は「鬼門」でも「奇問」でもなく、「差のつく問題」だと捉えてほしいと思います。

◆新入試で求められる力とその対策

プレテストからわかる新入試で求められる力は次の「5つ」です。

  • 多様な資料の読解力(情報処理能力)
  • 実生活に即した教科学力(応用力)
  • 複数の手法・答えを考え抜く力(発想力)
  • 「なぜ」を突き詰める力(論理力)
  • 「根拠」とともに考えを述べる力(表現力)

3つめの「発想力」は「全て選べ」式に強くなるために必要な力ですね。
そしてこれらの力を身につけるために、身につけておくべき「5つ」の習慣をお伝えし、この記事を締めくくりたいと思います。

1.学校の学習で手を抜かない
   →調べもの学習・実験・フィールドワーク・グループワーク・プレゼン(発表)などの「実体験」を大切にする
2.勉強以外にも真剣に取り組む
   →部活や文化祭など、勉強以外でも身体と「頭」を使う習慣を身につけておく
3.丸暗記はやめて「理由」を考える
   →鵜呑みにせず、自分を「納得」させて覚える
4.資料集を大切にする
   →国語便覧や理科・地歴の資料集などから「図表」で理解を深めるクセをつける
5.「選択型」の勉強から脱却する
   →いきなり選択肢を見ず、「自力」で答えを導き出す訓練を重ねる

1・2はこれからますます盛んになると言われている人物評価型入試(推薦・AO入試)でも活きてきますし、3〜5はそもそも従来の「国公立大学」の二次試験対策で必要な考え方・姿勢です。「新入試だ」「時代が変わる」などと言われていますが、こうやって言語化してみると、何一つ突飛なことは言っていないし、特殊な対策がいらないこともわかるはずです。

この記事を読み終えた皆さんが、新入試に向けた「ぼんやりとした不安」が少しでも晴れ、迷いなく、勉学(勿論それ以外のことにも)に励まれることを期待しています。

なお、「Z会の教室」では資料読解や意見論述など、新入試や推薦・AO入試対策などで必要とされる学力を身につけるための「総合」講座を開講しています。「議論」や「プレゼン」の訓練にもなりますので、首都圏・関西圏にお住まいの方はご受講をご検討ください。
また、遠方にお住まいの方は「Z会の通信教育」において、中学生向けに思考力・判断力・表現力を育む「[専科]総合」をご用意していますし、高1生向けの「[専科]小論文」は、新大学入試に対応したカリキュラムとなっていますので、おすすめです。

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