公開日 2018.1.29

2020年からはじまる、新大学入試。「センター試験」の後継となる「大学入学共通テスト」では、数学と国語で記述問題が導入されたり、英語4技能の総合的な評価がされたりと、大きな変更が予定されています。出題傾向や学生に求められる力は、これからどのように変化していくのでしょうか。

これまでも大学入試は、社会の変化に応じて形を変えてきました。しかし同時に、入試の変遷からは、変わらない出題――大学が一貫して学生に求めている力――も知ることができます。時代によって変わること、これからも変わらないこと。その両方が良く表れている東大入試の変遷と、そこから伺えるこれからの大学入試対策について、Z会の通信教育 英語教材責任者の麻生俊夫がお話しします。

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◆英作文に見る、東大入試の30年

この30年、東大入試はどのように変化してきたのでしょうか。英作文の出題とともに、その変遷をご紹介します。


今から30年前の、1988年。今の「センター試験」の代わりに、「共通一次試験」が実施されていた時代です。この年から東大入試にリスニングが導入されました。当時まだリスニングを課す大学は少ないなかでの実施だったように思います。この頃の英作文はどのような出題だったのでしょうか。

(1988年 東京大学 個別試験問題から引用)

1988年の出題はいわゆる「手紙文」。最近の高校入試でもよく見かける形式です。解答に盛り込むべきポイントも問題文中に指示されていて、一見簡単そうに見えるかもしれません。ただ、実際に取り組んでみると、「40語程度」でポイント2つを盛り込むのは難しく感じられます。時間制限のあるなかで、いかに素早く解答すべき内容を考え出し、簡潔に正しい英文で書けるかが重要になります。


さて、続いて1999年の英作文を見てみましょう。このころは「AO入試」など入学方法の多様化が進んだ時代でした。「小論文」や「総合問題」など、いわゆる特定の教科の知識だけでは解けない試験が増えていった時期にあたります。

(1999年 東京大学 個別試験問題から引用)

この問題も、解答に盛り込むべきポイントは2つ(「A大学でどんなボランティア活動をしたいか」と「その理由」)ですが、1988年の問題よりも解答の自由度が上がっています。特に「その理由」の部分で、採点者を納得させられるような内容が書けたかどうかが重要です。その意味では、より「自分で解答を考え出す」力が必要とされる問題と言えるでしょう。


ここまでの英作文は、ある程度問題文中に解答に含む内容が指定されていて、指定されたポイントを押さえて解答を考えるという内容でした。それでは近年の英作文はどうでしょうか。

(2017年 東京大学 個別試験問題から引用)

さらに解答の「自由度」が増していますね。2016年には、「じゅうたんの上に寝転がる猫をつまもうとしている右手」の画像を見て思ったことを書く、というユニークな問題も出題されています。これまで以上に、受験生の柔軟な発想力が求められた出題と言えるでしょう。
以上のように、30年間の出題を見比べると、徐々に変化している部分がある一方で、根本では変わらず以下の三つの力が問われてきたことがわかります。

さらに、東大入試ではこれらを「スピーディー」に処理することが求められるため、見た目より難しく感じるのです。

◆東大英作文の対策

上述の3つの力が問われる東大英作文への対策は、高1の段階から基礎的な読む力・書く力を積み上げていくことが何より大切です。小手先の受験対策では通用しません。また、英語の学習に直接関係ないと思うかもしれませんが、色々な教科を幅広く学び、知識・思考の土台を作ることも大切です。母国語で書く文章以上のことを外国語で書くのは難しいですから、国語力も必要になりますし、考えた中身も問われるため、実は他の教科の学びも活かされます。将来世界で活躍する人になるための土台として、教科を限定せずにバランスよく学ぶことを求められている、ということですね。

こういった背景があるので、Z会でも、読む力・書く力を積み上げるために、高1の頃から一問一問をじっくり考え、まとめる学習を重視しています。例えば下線部の訳出。細かなところまで注意して訳すことは、深い理解につながります。そうして書いてまとめた内容は、自己採点では相手に伝わるかどうかまで含めてチェックすることが難しいですから、第三者に添削してもらうことが大切だと考えています。東大の問題はくせがないので、土台さえしっかり築いておけば、東大の問題形式に慣れ、ペース配分の練習をするのは高3からで十分。丁寧に一問一問に取り組むことで、読む力・書く力を高めていきましょう。

◆学生に求められる力

英語全体を見ると、細かな形式の変化は毎年のようにありますが、要約・文補充〔語補充〕・自由英作文・リスニング・誤文訂正・下線部和訳・長文読解のように、多様な形式の出題を制限時間内でいかに解ききるかを問う傾向が、変わらず今日まで続いてきました。それは、今の入試問題で、「こういう学生がほしい」と望む学生の選抜ができているからだと思われます。では、どのような学生がほしいのか。これは、アドミッション・ポリシー(入学者受け入れ方針)に見ることができます。

東大のアドミッションポリシーからは、学びの本質が求められています。学びの本質は、根本の部分は変わるものではありませんから、それを問うための入試問題の形式も変化が少ないのでしょう。ご紹介した英作文の問題であれば、アドミッションポリシーで表現されている、基礎知識をしっかり活用できるまで理解し、それを相手に伝わる形で表現できるかどうかが問われています。このように、アドミッションポリシーや入試の傾向は、大学が学生に何を求めているか、という大学からのメッセージなのです。

◆大学入試のこれからと、取るべき対策

さて、2020年度からの大学入試では英語4技能が評価されることになりますが、東大の入試内容に変化はあるのでしょうか?英語の変更点としては、4技能のうち、特に「話す」技能が注目されています。その意味では、現在の東大入試は「読む」「聞く」「書く」の3技能は測定できるとして、「話す」技能は測れていないようにも思われます。しかし、「話す」ためには、相手の発言の趣旨を聴き取る「リスニング」の力と、自分の言いたいことを伝えるための英文を作る「ライティング」の力が必要です。このように考えると、今の入試である程度までは「話す」技能を測れているとも考えられます。

学びの本質を学生に求め続けている東大入試ですから、この数年で東大入試の傾向が大きく変わることはないのではないかと予想されます。しかし、2020年度より導入される民間の「英語4技能試験」の成績を東大がどのように活用するのかなどは、まだ東大から発表されていませんから、今後に予定されている東大からの発表は注目すべきでしょう。

今回お伝えしたように、2020年度から変化する部分はあっても、学びの本質は変わらないため、対策が全く変わってしまう、ということはありません。東大英作文からもわかるように、入試の内容は大学から受験生へのメッセージそのもの。東大が入試科目を多く課しているのも、幅広く学ぶことを求めているからであり、1教科を極めるのではなく、バランスよく学んでほしいということでしょう。バランスよく学べば、1教科1教科にかけられる時間は限られます。だからこそ、出題内容も“細かな知識”を問うのではなく、“いかに知識を活用して解けるか”を問うものになるのです。このように、アドミッションポリシーと出題内容は紐づいています。今回は東大を例にご紹介しましたが、東大に限らず、行きたい大学のアドミッションポリシーや入試傾向を早い段階からチェックし、これから身につけていくべきことを把握しておきましょう。



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大学入試でスピーキングが導入される?

2020年度の大学入試(2021年から実施される)からは、英語について、「読む」「書く」技能だけでなく、「聞く」「話す」を含めた4技能を総合的に評価するために、大学入試センターが実施する試験と、民間の資格・検定試験を併用することが決まっています。これは段階的な移行措置で、2024年度からは大学入試センターが実施する英語の試験はなくなり、民間の試験に完全に移行する予定です。