公開日 2016.7.13

◆講演「イチからわかる2021年入試改革」

講演ではまず、高大接続システム改革会議最終報告(2016年3月公表)や、「国立大学の将来ビジョンに関するアクションプラン」(2015年9月公表)などの公表資料に基づき、新制度について現時点で決まっている内容と、導入スケジュール、予想される今後の影響をポイントに絞って確認しました。
*新制度のポイントについて、くわしくは「新大学入試Q&A」をご覧ください。
《予想される影響》
●「評価テスト(仮)」での記述問題(国語・数学)導入
現行の国公立大一般入試は、1月第三土日のセンター試験と2月下旬の個別試験がほぼ全国同時期。センター試験に代わる「評価テスト(仮)」がマーク式と記述式の組み合わせで行われると、採点期間の都合で、入試のスケジュールが変わる可能性も考えられる。
●スピーキングを含む英語四技能について、民間の資格・検定試験による評価の導入
現状「大学受験対策」は、一貫生なら高2の間のいずれかの時期から、高3の2月までの1年半前後が一般的。しかし、資格・検定試験が評価の対象として一般的に用いられるようになると、高2・高3になってからの対策では間に合わないおそれも出てくる。
●調査書・面接などの多角的評価の導入
現行の一般入試では、センター試験と個別試験のいずれか、または両方の得点で合否が決まる。極端な言い方をすれば、「高校で何をしてきたかはともかく、試験当日の学力(パフォーマンス)次第」。しかし、調査書など試験の得点以外の情報が評価の対象になるということは、「高校で何をしてきたか」が問われるということ。面接でも、志願理由や、入学後の学びの計画とともに、その裏付けとして「高校までの経験や実績が伴っているか」が問われると想定される。

続いて、東京大学のアドミッション・ポリシー、京都大学の学長声明などの実例を参照しながら、
  • 入試改革に臨む大学側の危機意識
  • 大学が求める学生像、高校までに身に付けてほしい能力
について、理解を深めるとともに、すでに大学入試で出題された問題例、導入予定の新制度の具体例も紹介しました。
《大学に求められる学生とは》
  • 自ら問題を発見し、高校までの十分な基礎知識を組み合わせて、一つに定まらない解に答えを導く論理力、思考力。
  • 外国語を含むコミュニケーション、言語的表現力、他者とのコラボレーション(協働)の力。コミュニケーションの基盤としての自文化、自国の歴史、思想への理解。
  • 目的意識、地域や国際社会の一員として責任を引き受け、積極的に行動する意欲・態度。
《新しい大学入試制度の事例》
  • お茶の水女子大学の新型AO入試制度:「新フンボルト入試」(平成29年度導入)
大学の図書館や研究室で、先輩や教授とともに調査・実習を行い、その結果を報告するまでのプロセスを総合的に評価。大学で学ぶにあたっての意欲や姿勢が試される。

《保護者の方に特に意識していただきたいこと》
入試改革について、ご自身で文科省のサイトを調べた、という方もいらっしゃいましたね。公表資料も、誰でも簡単にアクセスできるようになっています。もちろん、現時点では方向性しか決まっていない部分などもありますが、報道では大きな話題になったにもかかわらず、「最終報告」では見送りとなった案件がいくつもありました。最新情報の収集には、キュレーションアプリ※1の活用もおすすめです。進路選びは「判断」の連続ですが、子ども自身は、好き嫌いや得意・不得意、他人の眼などが先に立ち、つい選択肢を狭く捉えてしまう場合もあるでしょう。ご家庭では、一番身近な大人として、子どもが気づいていない選択肢を示しつつ、保護者自身の見解、判断のしかたについても、ぜひ積極的にお話しいただきたいと思います。

大学入試は「教科書の中のこと、授業での学び」にとどまらない多角的な評価へと向かい出しています。学校の勉強を最優先にしつつ、中学時代の幅広い経験を通じて、経験・体験を豊かにし、じっくりと自身の進路や目標を見つけていただきたいと思います。子どもたちは将来、「職業」になるのではなく、「社会に対してなんらかの価値をもたらす存在」になるのですね。そのための武器を手に入れるために行く場所が大学ですが、各大学のアドミッション・ポリシー※2には「何を学んできた生徒を求めるか」がわかりやすい言葉で明記され、公表されていますから、スマートフォンさえあれば誰でも読むことができます。さらにディプロマ・ポリシー※3では「どのような学部教育を行うか」も知ることができます。入試が変わる、といっても、教科書や授業で教わる知識そのものが大きく変わるわけではありません。知名度や偏差値などに捉われず、こうした情報をもとに、自分の学ぶ大学、進む道を選び、意欲を持って学んでいくことが、これから大学を志す子どもたちに求められていると言ってもいいでしょう。

※1 キュレーションアプリとは、特定の切り口でインターネット上にある情報を選定し、分かりやすく読み手に公開するアプリケーションソフトウェアのこと。
※2 アドミッション・ポリシーとは、大学の入学者受け入れ方針のこと。
※3 ディプロマ・ポリシーとは、卒業認定・学位授与に関する方針のこと。

◆参加者からのご質問

・推薦・AO入試が拡大したとしても合格するのは難しいので、教科試験型の一般入試に向けた勉強に専念させた方が有利だ、と聞いたのですが、教科試験型の入試でも出題内容は今後変わっていくということなのでしょうか。
―はい。その通りです。たしかに昨年実施された東京大学の推薦入試、京都大学の特色入試は、出願条件のレベルの高さが大きな話題になりましたし、出願準備は決して楽なものではありませんでした。一方、教科知識だけに捉われない出題も個別試験では徐々に始まっていますし、これまでの教科型の試験に加えて、志望理由書や調査書の提出も広がる可能性があります。お子様の中学・高校生活はまだこれからなのですから、一概に「難しい」と選択肢を狭めることはありません。将来どの制度を使って受験するとしても、中学生の時点でできることや大切にすべき体験は、大きくは違わないはずです。

・高校に入ると、希望制で1年間の海外留学があります。実は「留学中は予備校に行けないから入試で不利だ」と考えていたのですが、新しい入試のことを考えると、留学をさせたほうがいいのでは、と迷っています。
―ただ留学をすればよい、というわけではありませんが、多くを知り、考える経験になることは間違いありませんから、お子様が希望するならぜひ勧めてあげてください。いざ高校生になって、留学をあきらめなくてもよいように、今から学校の勉強をこつこつやっていく、という目的意識を持つのも大切なことだと思います。

・中高一貫の進学校に通っていますが、学校では研究発表やキャリア教育などの取り組みがあまり盛んではありません。子どもは生物に興味があり、小学校では「観察力がある」とほめていただいたことも。子どもの興味・関心を将来につなげるため、今からできることはあるでしょうか。
―部活やプライベートでも生物の観察などを意欲的にされているのですね。すでに興味のある分野があるなら、座して待つことはないと思います。たとえば、自主的に「調べノート」をまとめ、生物の先生に定期的に見ていただけるよう、お願いしてみてはどうでしょうか。単に自分の楽しみとするだけではなく、資料にまとめて他人に伝えること、他人からコメントをもらい、新たな疑問を見出すことにつなげてください。お子様の意欲を買って、進路選択のアドバイスなどもいただけるといいですね。