基礎学力を身につけるのは大前提。 残りの時間で地頭力を鍛えよう
コンテンツ学力の身につけ方としては、知識をインプットし、それをアウトプットすることによって学力がついていくと思います。インプットとアウトプットはどのくらいの比率ですればよいというのはありますか?
入試問題に限らず、社会の諸問題を解決するには、教科の基礎知識に加えて地頭を鍛えることが重要だという話をさせてください。
ここで、勘違いしていただきたくないのは、単元ごとの内容や知識が入っていて、その教科の問題に取り組むうえで必要な基本が身についているというのは大前提です。そのうえで、いわゆる融合問題や総合問題を解くときに必要になるのが、地頭だということです。
地頭とは何かというと、世の中の情勢や構造、歴史や文化などについて知り、考えていること、いわば教養です。今この世界はどのような歴史を経て成り立っているのか、コロナの流行、経済の動き、戦争などに対して各国はどう対処・解決しようとしているのかといったことについて、読書やドキュメンタリー番組の視聴などを通してふれて、考える。そうやって地頭を鍛えていけば、融合問題や総合問題にも対処できる力につながっていきます。
私は、勉強は教科書と問題集を使った単元学習だけで十分だと思っています。中高生なら、スポーツや恋愛、友達づきあい、遊び、ゲーム、おいしいものを食べるといったこともしたいでしょう? 勉強時間ばかりを増やして、この時期にしかできないことをおろそかにするのはもったいない。
時間や労力の6割を勉強に割くとしたら、残りの4割は、楽しみながら、遊びながら、読書などを通して知的な世界にもふれてほしい。その4割の時間に経験したことの積み重ねが、融合問題や総合問題、あるいは、社会に起こる正解のないまったく新しい問題に対して立ち向かい、解決法を思いつくような頭の回転に結びつくのです。
そのために必要なのは「活きた勉強」をすることです。今は大学の講義もインターネット上に公開されているので、それらも活用してほしいと思います。私の「京都大学最終講義」もこちら(https://ocw.kyoto-u.ac.jp/course/971/)で見られます。
ちなみに、正解がわからない問題に直面したとき、先生はどのようなお気持ちでその問題に対峙されますか?
「ラッキー!」と思うでしょうね。だって、正解がない問題って、周りも同時にスタートラインに立っているわけなので、自分にも勝つチャンスがあるんですよ。研究課題だってそうで、まったく新しい研究課題に対しては、教授も学生も、みんな同じスタートラインから始める。すると、往々にして若い人が勝つんですよね。
「わからない」ということは恐怖でも困ったことでもなくて、「ここから自分は何ができるか?」という未知の世界が広がっていると考えるんです。入試でも、まったく新しい傾向の問題や、想定外の問題が出たら「ここで自分が挑戦してがんばれば絶対に合格できる」「この問題でこそ実力を発揮できる」と思ったら楽しく答案が書けますよ。僕らもそれを期待して作問しています。

「おもしろい」「わかる」が学ぶ原動力になる
「活きた勉強」について、もう少し詳しく教えていただけますか?
勉強には、活きた勉強と死んだ勉強があります。活きた勉強というのは、自分にとって「おもしろい」「納得する」が積み重なる勉強。一方、死んだ勉強というのは、先生や先輩、同級生に言われるままに、納得感や達成感がなくやって全然できなくて劣等感だけが生まれるなど、基準が外にある勉強です。基準が自分にないと、勉強はおもしろくありません。
だから最初は、自分が理解し、納得しながら進められていれば、勉強量は少なくてもいいのです。周りから見ると全然勉強していないように見えるかもしれませんが、一つひとつしっかり理解していくと、必ず勉強がおもしろくなりますから。そのおもしろさを知ることがまずポイントです。
そのためには、教科書や参考書の納得できた箇所に線を引いたり、わかったことを書き込んだり、理解したことをノートに要約したりして、「この内容は理解した」「おもしろかった」ということを目に見えるかたちで残しましょう。
ただ、そうすると、科目によって好き嫌いや得意不得意ができてしまいませんか?
それでいいんです。最終的に大学入試は総合点で判断されることがほとんどです。英語が得意で数学が苦手なら、数学はギリギリでも、得意な英語ではどんな問題が出ても得点できるくらい力をつけておけば、数学の分はカバーできますよね。要は入試を突破するためにできることを考えればいいのです。
それに、社会に出れば自分の得意なことを生かして仕事をするでしょう? 仕事を選ぶときには、自分が好きで知識を蓄積していて、これで勝負できると思う分野を探すでしょうし、皆、自分の得意なことで力を発揮して、世の中に貢献するべきです。
そのためにも、「おもしろい」と思える科目は、どんどん勉強してその力を伸ばしましょう。
僕自身、高校時代にZ会を受講していたのですが、取り上げる素材は非常によいものでした。たとえば、英語の課題文で哲学者のバートランド・ラッセルに関する論考や第二次世界大戦期のイギリス首相、ウィンストン・チャーチルの演説などはいまだに記憶に残っていますね。世界の本質をついていて、未来に向けた非常に格調高い文章に感動し、当時はラッセルの翻訳全集を買い込んだりしました。その後、米国の留学中には古本屋で英語の初版本を見つけて小躍りしたのです。
国語で出てきた評論家・亀井勝一郎の『青春論』や作家・谷崎潤一郎の『陰翳礼賛』もそうです。どれも僕の教養を高めてくれたし、人生の方向を決めてくれました。
勉強で出合う何気ない問題の中にも、自分の一生を決める、道を拓くコンテンツがある。世の中にはこんな文章や事象がある、人がいる、ということに気づくと、勉強もおもしろくなりますよ。
―ありがとうございました。
「ノウハウ学力」をつける鎌田先生の本
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100年無敵の勉強法 ―何のために学ぶのか?
鎌田 浩毅 著 筑摩書房
「死んだ勉強」を「活きた勉強」に変えていくための戦略と戦術を伝授。
中高生のうちに身に着けておきたいさまざまな「ノウハウ」が惜しみなく公開されています。 -

新版 一生モノの勉強法 ―理系的「知的生産戦略」のすべて
鎌田 浩毅 著 ちくま文庫
もう一度学びなおしたいと考える大人に向けた「勉強法」。2009年に出版された書籍が、20年経ってアップデートされました。とはいえ、身につけるべき力は普遍のもの。大人になる前に、大人になっても必要な勉強の力をチェックしておきましょう。
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京大・鎌田流 一生モノの時間術
鎌田 浩毅 著 東洋経済新報社
限られた時間のなかで、よりよい成果を出すにはどうすればよいのか―。学習と切っても切れない「時間」の問題をどう解決すればよいのか、先生の時間の使い方をもとに解説してくれます。
鎌田 浩毅先生
(京都大学 レジリエンス実践ユニット 特任教授、京都大学 名誉教授)
1955年生まれ。筑波大学附属駒場高等学校、東京大学理学部地学科卒業。通商産業省(現・経済産業省)主任研究官、米国内務省カスケード火山観測所上級研究員を経て、1997年より京都大学大学院人間・環境学研究科教授。2020年度で退官し、2021年4月より現職。理学博士。専門は地球科学・火山学・科学コミュニケーション。近著に『100年無敵の勉強法』(筑摩書房)、『富士山噴火と南海トラフ』(講談社ブルーバックス)、『地球の歴史』(上・中・下、中公新書)など。
第2回【2022年春・特集】
「医師に聞く!脳のしくみを効果的に使うインプット・アウトプット術」は
こちらです。
