10代後半は「インプット・アウトプットの訓練」に最適な時期

中高生の脳とはどのような状態なのでしょうか。

中学生や高校生は、まだまだ「頭がやわらかい」時期だと言われています。

まず、10歳くらいまでの子どもの脳というのは、脳の中に図書館があるとたとえると、その建物を作っている段階です。この時期は、脳に思考のベースとなる知識を入れ、建物の土台となるしっかりとしたベースを作ることが大切です。

次に、みなさんのような10代後半になると、思考系の能力が飛躍的に高まり、意志や計画性、感情のコントロールをつかさどる「前頭葉」の機能が発達しやすくなります。先ほどの例で言うと、脳内の図書館にあるあちこちの本棚から、必要な知識をすばやくかき集めたり組み合わせたりしながら、複雑な問題に対する答えを出すことができるようになるのがこのころです。

そして、この前頭葉は、20歳ごろまで発達すると考えられています。前頭葉を発達させるには、きちんと「脳をはたらかせ」なければいけません。

そして、この前頭葉は、20歳ごろまで発達すると考えられています。前頭葉を発達させるには、きちんと「脳をはたらかせ」なければいけません。

たとえば、より高度な知識を必要に応じて取り出すことができるように、たくさんの知識を脳に入れる「インプット」をし、必要なタイミングで実際に取り出す「アウトプット」をする。中高生の時期は、このように脳にさまざまな経験をさせ、それを蓄積しながらはたらかせるということが非常に重要なときなのです。

知識を「使う」とはどういうこと?

知識をインプットする経験というと、暗記などでしょうか。

「暗記」というとただ覚えればよいこと、と思う人も多そうですが、覚えたことを実際に自分で使ってみるという作業を繰り返すことが大切です。

脳はもともと「忘れるようにできている」と考えたほうがよいです。少なくとも、見ただけの情報や聞いただけの情報を、必ず後から思い出せるようにすることはできないと考えてください。教科書や参考書の中にある情報や、人が話したり教えてくれたりした情報を「自分の知識」にして、必要なタイミングで自由に引き出せるようにするには、繰り返しアウトプットをすることも必要なのです。「インプットをしたら必ずアウトプットをする」というように、インプットとアウトプットを分けて考えるのではなく、セットで行うことが大切です。

脳は、脳神経細胞が作るネットワーク回路によって、情報が伝達されます。先の例でいうと、図書館の本を取り出す際も、この回路が使われます。そして、回路は情報を通すたびに伝わりやすくなるのです。

「授業で聞いてわかった」というのは、回路を1回通しただけに過ぎないことが多いです。それを確かな道にするには、何回もその知識を入れ、回路を繰り返し使うことが大切なのです。

「回路を繰り返し使う」とは、具体的にどういうことをすればよいのでしょうか。

五感をフル活用するといいですね。

たとえば、英単語を覚えようとするときは、単語帳を見たり、単語帳に付属している音源を聞いたりと、目や耳を使って「インプットする学習」をすることが多いのではないでしょうか。ですが、そのあとには、音読したり書いたりするなど、実際に覚えた知識を使う「アウトプットする学習」をセットで行わないと、学習効果は高まりません。

いったん回路に入れた情報を、再度、反対方向から同じ回路を使うことで、脳内の正しい位置に知識が収まり、確実に取り出せるのか(=本当の意味で理解ができているのか)を確認することができるからです。

とは言っても、インプットやアウトプットの方法について、どのやり方がベストかは、人によって違います。これは、いろいろと試してみるしかないのです。

たとえばアウトプットの方法でいうと、「黙読して内容を理解したあと、音読する」「誰かに自分の言葉で説明する」「自分なりにノートにまとめる」「図に描いてみる」など、いろいろな方法があります。知識の定着には応用問題集がいいという人もいれば、基本的な問題を10回以上繰り返すことで力をつける人もいます。

いずれにしても大切なのは、学習して「理解した」と思うことではなく、実際に知識を「使える」ようになることです。そのためにも、習ったその日のうちに反復することは効果的です。

また、その際、一気に大量の知識を入れないこともポイントです。ゆっくりでもいいから、一つひとつ丁寧に、確実に「使えるようにする」ことが、脳の性質に即した勉強法と言えるのです。

学習がはかどる脳の使い方

脳にとって学習に適した時間帯はあるのでしょうか。

脳は24時間いつでも集中力を発揮できるわけではありません。1日に2回、午前11時ごろと午後4時~夕食前に、血糖値が安定することで脳が非常に冴える時間があり、この時間に合わせて勉強をするとはかどります。

この時間帯は多くの人にとって、脳が最も冴えていて、最も高回転している状態になります。そして、個人差はあるものの、このピークの状態は1~2時間続けばよい方だと考えられています。

そうはいっても、「1回1~2時間しか勉強できない」という意味ではありませんよ。大切なのは、そのピークの状態に合わせるように自分でコントロールをすることです。

つまり、脳が最も冴えている時間帯にどのような勉強をするか、あらかじめ計画を立てておくことが重要なのですね。

脳にとって負担が大きい勉強というのは、「新しく取り組む勉強」です。インプットによって新しく回路を構築していく勉強は、すでに構築された回路を使う勉強や、計算や単語の暗記のような簡単な作業系の勉強よりも、脳にとって負担が大きいのです。その負担が大きい勉強を「脳が最も冴えている時間帯」を生かして乗り越えるという発想が、とても有効だと思います。

それには、やるべきことを書き出して、「作業系の学習」と、インプットによって新しく回路を構築するような「集中してやるべき学習」に分けてみるとよいでしょう。脳の性質をふまえると、作業系の学習から勉強を始めるのが効果的です。「できた」という達成感は、脳の「側坐核(そくざかく)」という部分を刺激し、脳の回転数を上げます。これを「作業興奮」というのですが、小さな「できた」の連続があると、脳をフル稼働する状態にもっていけるのです。

その後は、前に説明したように、インプット系の学習とアウトプット系の学習をセットにして勉強を進めていくわけですが、50分勉強したら10分休むというように、リズムをつくると継続しやすくなります。また、「今日はここまで終える」「何時までにこれをする」というように、量や時間のゴールを決めると、緊張感で脳の「作業興奮」が起こりやすくなります。

急に用事が入ったり、体調が悪かったりと、予定はどんどん変わっていくこともありますから、臨機応変に計画を立て直す姿勢も大切ですね。やろうと思っていた勉強が思うように進められないときは、それを「明日の自分」に託して、「今日の自分」は別の勉強をした方が、効率的という場合もあるでしょう。

そのほかに、脳を効率よく使って学習するために気をつけたいことはありますか。

脳は、「生命維持に関する部分」「感情に関する部分」「思考や運動に関する部分」の三層構造になっています。生命の維持に大切な部分から優先的にはたらきますので、それらの階層が満たされないと、思考に関する部分にいつまでも血液が届きません。つまり「眠い」「空腹」という気持ちが解消されないと、考える頭がはたらかないというわけです。脳に本来の能力を発揮させるためにも、栄養バランス、十分な睡眠、生活のリズムという点には注意をしてもらえるとよいと思います。

もし、脳が最も冴えているピークの時間帯を過ぎても、その日にやるべき課題が終了していない場合は、少しリフレッシュの時間をはさんでから再開しましょう。違う教科に取り組んだり、「集中してやるべき学習」から「作業系の学習」に切り替えるといった方法も有効です。その日の課題が終了しているなら、教科書やノートにゆっくりと目を通しておさらいをすると、再度、知識のインプットができ、頭の中が整理されます。

勉強が終わったあとも、使い終わった教科書やノートを片付けるなど、身の回りの整理整頓をすることは、脳の中を整頓することにつながります。前日のうちに翌日の持ち物の用意やスケジュール確認など身の回りの整理をしておくと、ミスが減りますし、スムーズに一日を始めることができます。

何度も使った回路は、近道ができて、意識をしなくても使えるようになります。知識のインプット・アウトプットと同様に、勉強のスタイルも、繰り返しているうちに自分に合ったやり方が身につき、脳を効率的に使えるようになるはずですよ。

ありがとうございました。

築山 節先生

築山 節先生

1950年愛知県生まれ。日本大学大学院医学研究科終了後、埼玉県立小児医療センター脳神経外科医長、河野臨床医学研究所附属北品川病院長等を経て現職。1992年、脳疾患後の脳機能回復を図る「高次脳機能外来」を設立。リハビリやトレーニングを通し脳機能の回復を図るなか、脳の「覚醒度」と生活習慣の関連に着目。著書に「脳を上手く使うコツ」をまとめた『脳が冴える15の習慣ー記憶・集中・思考力を高める』『脳が冴える勉強法ー覚醒を高め、思考を整える』(ともにNHK出版)などがある。

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