「読解力」とは―
「読んでわかる」ってどういうこと?

昨今よく求められる「読解力」。つまるところ、「読解力」とはどのような力なのでしょうか?

「読解する」とはどういうことか、また、「読解力がある」とはどのような状態を言うのか、そして、読解力をつけるための方法について、読み書きの心理プロセスの研究と指導法の開発に取り組まれている東京学芸大学の犬塚美輪先生に解説していただきました。

文:浅田夕香

犬塚 美輪先生

(東京学芸大学 教育学部総合教育科学系教育心理学講座 准教授)

東京大学大学院教育学研究科博士課程修了。博士(教育学)。読解を中心に、学校や日常的な場面で「新たなことを学ぶ」心理プロセスと教育方法について研究している。主な著書に『14歳からの読解力教室―生きる力を身につける』(笠間書院)、『認知心理学の視点―頭の働きの科学』(サイエンス社)、『論理的読み書きの理論と実践―知識基盤社会を生きる力の育成に向けて』(北大路書房)など。

読解の4つのステップ

―私たちは、文章を読むときに「字面は読めるけれど理解できない」という状況に陥ることがあります。それはなぜ起こるのでしょうか?

要因について説明する前に、まずは読解のプロセスについて説明させてください。読解というのは、「読んでわかる」すなわち「書いてあることを理解する」ことです。そして、「読んでわかる」までには、次の4段階があります。

今1段階目は、文字を音に変えてそのまま読み上げることはできるけれど、意味としてはよくわかっていない「文字を読み上げる」だけの段階。「どんなことが書いてあった?」「自分の言葉で説明できる?」などと確認されても「よくわからなかった」となったり、再度書かれている文字を読み上げるだけだったり、多少のキーワードは挙げられるけれど要約して説明することはできないような状態です。

2段階目は、書かれている文章の世界に閉じた範囲で理解したという段階。「どんなことが書いてあった?」と尋ねられたときに、内容を整理してまとめることができる、要約して説明できる状態です。

3段階目は、自分がもっている知識やこれまでの経験を使って推論も含めて理解したという段階。たとえば、折り紙の折り方の手順が書かれた文章を読んで、要約できるだけでなく実際に折ることができたり、「内側に折ると書かれているけど外側に折ったらどうなる?」と尋ねられたときに「外側に折るとこうなるからうまくいかない」と考えられたりする状態です。

「読んでわかる」というのは、この3段階目、つまり、「こういうことが書いてあるんだ」とわかり、かつ、自分の知識も使って「じゃあこの場合はこうできるな」と応用的に考えられる状態だと私は考えています。

そして、さらに4段階目として、もっている知識やほかの情報などをふまえて「ここに書いてあることって本当だろうか?」と「疑う」ことや、場合によっては書いてあることを「却下する」というような意思決定ができる段階があります。このような、書いてあることが本当かどうか根拠に照らし合わせて考え、判断する、という読解のことを「批判的読解」と呼ぶこともあります。

―「字面は追えるけど理解できない」という場合、2段階目や3段階目に至る過程でつまずきがあるということでしょうか?

そうですね。「読んでわかる」状態に至れないのには、次のような要因があります。

まず1つ目に考えられるのが、読む人の中で「読むとはどいうことか」「読んでわかったとはどういう状態になることか」ということがイメージできていない場合。小学生にはときどき見られますが、「読む=文字を読み上げる」という第一段階にとどまっていて、その先の、「何が書いてあったかを整理してまとめる」という第二段階やその先の段階が「読んでわかる」ことだという認識がないのです。

小学校では、低学年のうちは文字から音にして流暢に処理できるようになることに注力しますが、徐々に「読んでわかるとはどういうことか」という理解につながる題材や教材に移っていきます。しかし、その過程で「読んでわかった」という状態をうまくイメージできないまま「自分は読み上げられているから読めている」という認識で高学年までやり過ごしてきてしまう場合があります。この場合、「“読んでわかった”状態でないから、自分は“読めていない”んだ」と認識することが必要です。

もう1つが、「読んでわかった」という状態になる必要があることはわかるけれど、文章を理解するための方法がわからないという場合。この場合、「読み方」を学ぶ必要があります。重要そうなところに線をひく、自分で理解チェックをする、といった色々な「読むときの工夫」を知らないという児童・生徒は少なくありません。「読み方」は何となく身につくだろう、と考えずしっかり教える必要があります。

また、文字を音にする段階で生まれつきの困難がある場合もあります。「読み書き障害」と言われていて、文字が二重にダブって見えたり、ねじ曲がったりひっくり返ったりして見えるということもあります。読み書き障害がある場合は、普通に読む練習をしても文字を文字として読み取れないために流暢に読み上げることができません。この場合は、症状に応じた支援やトレーニングが必要です。

中学・高校段階でめざしたい読解力

―中学・高校段階では、この4つの「読解のプロセス」のどの段階を高められるとよいのでしょうか?

大人でも難しい文章では、2段階目、すなわち要約することがきつい場合があるので一概には言えませんが、中高生の段階では、知らない単語がたくさん出てくるような難しい文章であっても、2段階目まではなんとかできる、やろうと思えばできる、がんばったらできるという底力をつけられるといいと思います。そうすれば、将来、何か新しい物事について理解しなければならなくなったときに、文字情報を読んで知識を獲得していくことに大きな抵抗を覚えずに取り組むことができます。

たとえば、2020年以来、私たちは新型コロナウイルスというこれまでにないウイルスの脅威に直面しています。そして、対策の1つとしてワクチンが作られましたが、「mRNAワクチン」や、「スパイクタンパク質」といった聞きなれない単語に負けないで、ワクチンについて説明された文章を読んで「なるほど、つまりこういうことを言ってるんだな」と要約できたり、自分の知識や経験とあわせて考えて「じゃあ、あのしくみに近いのかな」と推論できたりすれば、ワクチンについての理解が深まり、自分がどうするか判断しやすくなりますよね。このように、知らない言葉がたくさん入っている難しい文章であっても、必要とあらば2段階目、3段階目の読解ができる基礎体力をつけておけるとよいでしょう。