ジャン・モリス『ヘブンズ・コマンド 大英帝国の興隆』(講談社)を読む。
 
舞台は十九世紀なのですが、その時代の、非西欧世界の人々についての記述が興味深い。さすが大英帝国、ということで、実に様々な地域の人々の姿を知ることができる。
 
フィジーでの出来事。
 
《キリスト教の伝道師がはじめてフィジーに現れたのは、一八三〇年代のことだった(ある有名な食人島民は、伝道師から地獄の業火の話を聞かされて、ひと言。「まあ、いい。薄ら寒いときは火があるのもいいもんだ」)。》(p142)
 
なんていうか、伝道師が物凄くマジメに説いている内容(つまり、キリスト教ですね)が、いとも簡単に相対化されちゃったりして、それがおもしろい。
 
「聖書に書いてあることって、ツクリゴトなんじゃねーの?」と突っ込まれて、タジタジになっちゃう伝道師もいるし。
 
アフリカの、ズールー人の話。
 
《ズールー人は、「槍で血を洗う」まで一人前の男と認められず、ズールー軍の戦士は、敵をひとり殺すか傷つけるまで妻帯を禁じられていたから、男が戦いを好み、女が殺生を好むようになるのは当然だった。(中略)ズールー人も、人の命が不可侵だなどとはほとんど思ってもいなかった。死は自然の秩序の一部であり、それを多少早めたところで責められるいわれはなかった。》(p239〜240)
 
そりゃ戦いを好むようにもなるわなあ。
 
それよりも「へえ」と思ったのが、「人の命」に対する考え方。
 
「殺すべからず」というのは、時代や民族を超えた普遍的なものだと思ってたけど、実はそうではなかったんですね。
 
「人は誰でも死ぬ、それを多少早めたところで……」かあ。
 
してみると、「殺すべからず」も、社会的なものということか。
 

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著者プロフィール

Z会川渕

川渕 健二(かわふち けんじ)

おかしいものはおかしいと口に出して言えること、他者と協同してそれを是正していける人が増えることを願う、Z会の中高一貫コース「総合」担当者。釣りをこよなく愛する。

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