公開日 2016.10.25

プログラミング教育必修化に向けて、その効果を考える

2016年夏に開講された、Z会×Make School社のSummer Academyの様子

2020年度の小学校でのプログラミング教育必修化を皮切りに、中学校や高等学校でも「プログラミング教育」の必修化が計画されています。その背景にはIT人材の不足が挙げられますが、「教育」という観点からはこの「プログラミング必修化」をどのように捉えるべきなのでしょうか。

◆Z会グループも始めている、プログラミング教育

「2020年度プログラミング教育必修化」との報道以降、プログラミング教育への熱がにわかに高まっています。Z会ではアメリカのプログラミングスクール Make School 社と提携し、この夏には中高生を対象に、3週間の集中講座「Summer Academy」を行いました。Z会グループの栄光ゼミナールでも小学生向けに「ロボットアカデミー」を行うなど、来るプログラミング教育の充実化を見据えた講座が開設されてきています。
しかし一方で、「プログラミングは大人になってからでも間に合う」「もっと大事なことがあるのではないか」という疑問を持つ方もいらっしゃいます。今回はそんな「プログラミング」について考えてみましょう。

◆プログラミングは「スーパーパワー」

「プログラミングは『スーパーパワー』だ!」。Make School 社の共同創業者でCEOのJeremy Rossmann 氏はこのように語っています。今から100年前 ──日本では大正5年、夏目漱石の亡くなった年── の人々がスマートフォンを見たら、おそらく「魔法だ!」と思うことでしょう。しかしそのスマートフォンも「アプリ」がなければただの箱。その「アプリ」を作る作業がプログラミングです。

Jeremy Rossmann 氏は「プログラミングの素晴らしさ」を伝えるために2016年10月末にも来日する予定

そのプログラミングも、かつては企業に属していなければ触れられないものでした。コンピュータはとても高価なもので、作ったアプリも企業内で限られた人たちが使うためのものだったのです。そしてコンピュータが手に入れやすくなってきた1980年代から個人でアプリを作ることができるようになってきましたが、「発表の場」はごくごく限られていました。雑誌に投稿したり「パソコン通信」で公開したりといった方法もやはり、限られた人の目にしか触れるものでしかありません。「1人に1台」と言われるまでにパソコンが普及してインターネットが普及しても、事情は大きく変化しませんでした。
そんな状況を大きく変えたのがiPhoneです。「App Store」で審査を受け、「商品」としてApp Storeに並べば、世界中の何万人、何十万人という人が利用してくれるようになったのです。これまで以上に手軽に、これまで以上にたくさんの人に、これまで以上にわかりやすい形で「自分の作ったアプリ」が世の中に出せるようになったのです。
Jeremy Rossmann 氏も「大学1年の時に作ったアプリが特集されて、何万人何十万人にダウンロードされた」「毎朝ダウンロード数やフィードバックを見るのが楽しかった」、そして自身の作ったプログラムが人々の役に立っているのを見て、「アプリ作成は世の中の役に立つことなんだ」「アプリで人生が変わるんだ」と実感したといいます。
こうした実感はJeremy Rossmann 氏だけのものではありません。中高生でもアプリ開発をしている人がいます。そうした経験を活かして高校生で起業する人もいます。これまでであれば考えられなかったことです。まさしくプログラミングは「スーパーパワー」、すなわち「世の中を大きく変える可能性のある力」なのです。そんな可能性のある「プログラミング」に触れる機会を得ることが、「プログラミング教育」の一つの意義といえます。

◆目的は「これからの社会を生き抜く力を身につける」

しかし実情はどうでしょう。「得意な人も不得意な人もいるから、学校に体育の授業がある必要などない」という人はほとんどいませんが、「得意な人も不得意な人もいるから、全員がプログラミングを学ぶ必要などない」と考える人がまだ多いようです。この違いは、「体育」ほど、プログラミングの効用についての理解が深まっていないことが原因と考えられます。
学校の「体育」に「健康的な生活を送るための体力づくり」といった側面があるように、「プログラミング」にもプログラミング教育を通して得られる効果があります。例えば総務省の「プログラミング人材育成の在り方に関する調査研究」という調査では、有識者の指摘するプログラミング教育の効果を次の7つにまとめています。

   ○創造力の向上
   ○課題解決力の向上
   ○表現力の向上
   ○合理性、論理的思考力の向上
   ○意欲の向上(内発的な動機づけ効果)
   ○コーディング・プログラミングスキルの向上
   ○コンピュータの原理に関する理解

いずれもこれからの社会を生き抜いていくのに大切なものですし、「プログラミング」を学ぶからこそ効率的に身につけられるものばかりでしょう。プログラミング教育の目的は「プログラマーの育成」ではなく、こうした「これからの社会を生き抜く力」を身につけるためのものなのです。

私たちはさまざまな「プログラム」に囲まれて生活しています。だからこそ「プログラミング」とはどのようなものかを少しでも知り、学び、一般教養としての「プログラミング」を身につけていく必要があるのでしょう。必修化はまだ先のことだから関係ないと思わずに、プログラミング講座を受講するなどして力をつけてほしいと思います。

<Z会×Make School>
2016年夏に続いて、2016年冬もプログラミングスクールを開講予定です。詳細は、決まり次第Webサイトにてご案内いたします。