公開日 2017.5.12

Z会指導部は毎年、大学入試問題を分析しており、教材作成に生かしています。その結果、2017年度の難関大入試においても数多くの的中問題を出し、Z会員の大学合格に貢献しました。
今回は、「2021年度大学入試改革を待たずに問題内容がどのように変化しているのか」と、「今後とるべき学習法」について、Z会の通信教育 中高事業部 指導4課課長の中村一貴が解説します。

◆2017年度の大学入試の総括

2017年度入試では、東大推薦入試・京大特色入試が2年目となったことに加え、阪大の適塾入試の導入もあり、難関国公立大学での新しい入試の導入がさらに進んだ1年となりました。こうした入試は次年度以降もさらに多くの大学で導入・拡充される見込みであり、後期試験の廃止と相まって、難関国公立大学では「前期+後期」から「推薦+前期」に入試の枠組みが緩やかに変化しつつあります。

東大推薦入試・京大特色入試では、Z会員からも多数合格者を輩出しています。合格者はバランスの良い優等生タイプばかりではなく、学問への興味関心の高い「研究者タイプ」も多く、一般入試の合格者とは異なった強みをもつ受験生が目立ちます。ただし、面接試験の様子などを聞く限り、入試で問われる内容は相当にハイレベルです。問題意識や課題解決能力が強く問われている印象です。

他方、一般入試では、東大で文系・理系数学、化学が易化。この結果、例年こうした科目に苦戦しがちな受験生にとって有利な出題となりました。実際に合格最低点も上昇し、東大一般入試では例年以上に「バランス」が問われた入試結果となりました。(この点は、東大推薦入試とは好対照となりました。)

志願動向全般を見ると、ここ数年続いていた理系人気が落ち着き、文系への回帰が進みました。特に、これまで理学部や農学部に流れていた学力最上位が、文系に戻っている印象があります。こうしたことから、経済学部・商学部など社会科学系が人気となりました。

また、大学入試の変化を受けて、すでに中学入試の段階から、志望校選びの基準に変化が生じつつあるようです。新大学入試への対応を明確にし、アクティブラーニングや英語4技能の指導、ICTの導入に積極的な学校が人気を集めています。大学附属校の人気も高まりつつあります。
東大推薦入試・京大特色入試をはじめとする大学入試の変化が、これまでの「偏差値」を軸にした学校選びの基準を変えつつあり、今後もその流れはさらに進むと考えられます。

◆新大学入試改革をまたずに始まっている入試問題の変化

それでは、こうした変化をふまえて、難関国公立大学の入試問題では、どのような変化が生じつつあるのでしょうか。2017年度の大学入試問題から、まずは英作文の問題を2題ご紹介します。
2017年度 一橋大 英語 (設問はすべて英語で書かれていました。)
以下の状況から1つ選び、100〜130字の英文を書く。
  • 3年間付き合ったパートナーが、自分の誕生日を祝うそぶりをまったく見せなかった。あなたがどのくらい落胆した気持ちであるか、手紙を書きなさい。
  • 夏の間に飛行機でニューヨークへ旅行に行ったが、フライトに多くの問題があり、休みが台無しになってしまった。苦情を言うために、航空会社の社長に手紙を書きなさい。
  • いつも家にいてゲームばかりしていて、外に出ず、誰とも会おうとしない友達がおり、あなたはその友達のことを心配している。その友達がすべきと思われることについて、アドバイスする手紙を書きなさい。

2017年度 阪大 英語 
「勉強が嫌い。特に英語と数学を勉強する意味がわからない。お父さんもどうもあまり勉強していなかったようだ。なぜ私は勉強しなくてはならないのですか?」という中学2年生からの質問に対して、70語の英語で答える。
従来の入試の自由英作文では、「あるテーマを与えて、それに対して賛成か反対かを述べる」であったり、「与えられたテーマに対して、自分が思うことを述べる」という出題が一般的でした。
しかし、2017年度の一橋大と阪大では、明確なテーマが与えられない形式の自由英作文が出題されました。
与えられた状況には、問題と思われる要素がたくさん散らばっていますが、その中から解決すべきポイントを自分で見極める必要があります。
こうした出題では、唯一の明確な答えが出ない課題に対して、「客観的な根拠をもとに、説得力のある論を展開して他者に働きかけていく力」が問われているといえます。

さらにもう1つのポイントは「相手がいる」ということです。「自分の気持ち・考えを、相手の主張・状況・心情をふまえて説得力をもって伝える」という行為は、グローバル化が進み、さまざまな文化的背景を持つ人々が共存し、多用な価値観が混在する世の中において、多くの場面で求められるものです。
単に自分の主張を組み立てるだけでなく、「相手」を考慮しながら主体的にコミュニケーションを図ろうとする姿勢が問われていた問題といえるでしょう。

◆入試問題から読み取れる変化の方向性

こうした傾向の変化には、2021年以降の新大学入試と共鳴する部分が多くあります。
すでにこのWebサイトでも繰り返しご紹介しているとおり、今後の大学入試改革では、「学力の3要素」である、
  • 十分な知識・技能
  • それらを基盤に答えが一つに定まらない問題に自ら解を見出していく思考力・判断力・表現力
  • 主体性をもって多様な人々と協働して学ぶ態度    
を適切に問う観点で、さまざまな検討が進められています。

こうした改革の方向性をふまえて、従来のセンター試験に代わって実施される、2021年度からの「大学入学希望者学力評価テスト(仮)」では

  • 内容に関する十分な知識と本質的な理解を基に問題を主体的に発見・定義し
  • 様々な情報を統合し構造化しながら問題解決に向けて主体的に思考・判断し
  • そのプロセスや結果について主体的に表現したり実行したりする
力を問う出題が予定されています。

冒頭でご紹介した英作文の出題で問われていた、
  • 明確に答えが出ない課題に対して、客観的な根拠をもとに、説得力のある論を展開して他者に働きかけていく力
  • 自分の気持ち・考えを、相手の主張・状況・心情をふまえて説得力をもって伝える力
は、まさにこうした流れをふまえた変化と見ることができるでしょう。

このように、今後の入試改革を先取りするような特徴的な出題がすでにいくつかの大学入試問題では見られるようになっています。英語以外の科目についても、2017年度大学入試問題から特徴的な出題をご紹介します。

【地歴】では、歴史的な要素と地理的な要素が融合した新しい視点や、グラフ上の数値と歴史事象を絡めて考える出題がありました。
2017年度 阪大 地理 
[問題]エジプト・メソポタミア・インダスの古代文明地域における、気候と地勢にかかわる共通点と文明形成にかかわるそれらの影響について述べなさい。(150字程度)
世界史の出題ではありません。これは地理の出題です。
従来の地理入試では、世界史要素を含む出題であっても、単に場所をイメージする程度の取り上げられ方でしたが、上記は乾燥地域における農耕の発達を文明の形成と結びつけさせる問題であり、歴史的な要素と地理的な要素が融合した、新しい視点を必要とする出題であると考えられます。
また、2017年度 九大 世界史 では、中世のイングランドに関するグラフ資料を読み取る問題が出題されました。グラフ資料から読み取った情報を、当時の歴史状況を踏まえて記述する必要がある問題でした。ただ単にグラフを読み取る、というだけでなく、グラフ上の数値と歴史事象を絡めて考える、という点で、さまざまな事象が社会に与えうる影響を考察する力、および各事象間の関連性を見出す力を試す出題だったといえるかと思います。

また、【国語】でも2017年度千葉大(国際教養学部、文学部、法政経学部) 国語 問六では【取り上げられている事例の紹介をふまえ、その事例とは異なる別の具体的な事例を自分で考えて挙げる】、問七では【問題文から推測される内容について図を描き、そのように描いた理由をわかりやすく説明する】という出題がありました。具体的な事例を自らの知識や経験に照らして想起する力、論の展開をふまえて問題文に例示されていた図を推測して書き、その根拠を説明することが求められました。
読解した内容を自らの知識や経験と関連付けて理解する力、文字だけではない図や表も含めた資料を活用して表現する力といった、新しい学力観をふまえた出題といえます。

【生物】では、自ら仮説を立て検証する能力を問う、次のような出題がありました。

2017年度 名大 生物 
調査方法と前提条件の両方を考えさせる問題。
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(略)集団dの「くちばしの硬さ」は不明である。集団dの成鳥を絶対に捕獲できないとしたとき、この集団の「くちばしの硬さ」を推察するために行いうる調査方法とその前提条件の組み合わせを、両方とも変えて2つ提案せよ。その際、それぞれについて想定される調査結果の一例をあげ、そこから推察される集団dの「くちばしの硬さ」について、根拠をあげつつ述べよ。ただし、調査方法は自由に想定してよいが、以下にある調査道具のうち必ずいずれか1つ以上を用いた調査方法とする。(略)
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前提条件を自由に考えてよいため、論理的には「何でもあり」にみえる問題です。理屈としては(形式的に、問題文を字面どおりとるなら)、前提条件として「島にダイヤモンドがたくさんあればくちばしが硬いことがわかっている」などの突拍子もない解答もありえます。
本問では、教科書的知識だけでは当然答えに至りませんし、問題で与えられた条件から論理的に最善解を導けるわけでもありません。自ら仮説を立て検証する能力を正面から問うています。

◆基礎力・思考力・表現力重視の学習の積み重ねを

これらの出題に見られる特徴は
  • 基本的な知識とその運用能力があることを前提に
  • 与えられた複数の条件や資料をもとに柔軟に思考を展開して、自分なりに論理や仮説や主張を構築し
  • それらを読み手にわかるような論理的な表現でまとめること
といえます。

こうした出題は、従来の難関大対策では全く太刀打ちできないものでしょうか?
必ずしもそうではない、とZ会では考えています。基礎基本をおろそかにせず、思考を重視した問題演習に数多く取り組み、記述力を十分に鍛錬するという、これまでの大学入試でも重視されてきた対策を重ねてきた受験生であれば、表面的な傾向変化に惑わされず、十分対応できる出題であるといえます。

2021年度入試までの数年間、こうした新しい傾向を取り入れた出題は、今後も増えるかもしれません。しかし、こうした出題が求める学力は、これまでの難関大入試で問われてきた力と、かけ離れたものではありません。むしろ、理解と思考を重視し、記述演習を重ねてきた受験生にとっては、力を発揮しやすい出題といえるでしょう。

志望大の入試が、新入試にむけてどのように変化しているのか、常に最新の動向に目配りしつつ、さまざまなタイプの出題に取り組んでおくことで、本番での傾向変化にもあわてず対処できる、基礎力・思考力・表現力を鍛錬しておきたいものです。


2017年度のZ会の的中問題はこちらからご覧いただけます。