公開日 2016.1.28

高大接続が必要とされる背景

経済協力開発機構(OECD)が15歳の生徒を対象に3年ごとに実施している国際的調査、PISA(学習到達度調査)。この調査は主に「読解力」「数学的リテラシー」「科学的リテラシー」の3分野が測定対象とされ、2012年度は、日本の学習到達度が“V字回復”したことが話題になりました。

PISAにおけるOECD加盟国中の日本の学習到達度順位の推移
  読解力 数学的リテラシー 科学的リテラシー
2000年 522点
8位/26カ国
2003年 498点
12位/30カ国
534点
4位/30カ国
2006年 498点
12位/57カ国
523点
6位/30カ国
531点
3位/30カ国
2009年 520点
5位/34カ国
529点
4位/34カ国
539点
2位/34カ国
2012年 538点
1位/34カ国
536点
2位/34カ国
547点
1位/34カ国
(出典:国立教育政策研究所)
※数学的リテラシー、科学的リテラシーは経年比較可能な調査回以降の結果を掲載
最近では、OECDが提示した、これからの時代に求められるスキル「キー・コンピテンシー(主要能力)」などの世界的潮流もあり、PISAのフレームワーク開発に「問題解決能力」「コンピンテンシー」といった新たな項目が追加され、調査が開始されています。

日本でも、過去の学力低下問題とこれら教育の世界的潮流などから教育改革が進んでいます。2006年には教育基本法、2007年には学校教育法が大幅に改正。また、2011年には小学校・中学校・高等学校等ごとに教育課程を編成する「学習指導要領」の見直しが実施され、大幅な改訂が行われました。

最大の目的は、子どもたちの「生きる力」を育むこと

これら教育にまつわる法律・基準の“理念”として近年重きが置かれているのが「生きる力」を育む、という概念です。

「生きる力」とは何でしょうか。現行の学習指導要領によると「変化の激しい社会で生きる子どもたちに身につけさせるべき力」とされ、「確かな学力」「豊かな人間性」「健康・体力」の3要素で構成されています。

国が考える「生きる力」(編集部作成)


またこのうち「確かな学力」については、学校教育法第30条第2項において以下のように規定されています。
生涯にわたり学習する基盤が培われるよう、基礎的な知識及び技能を習得させるとともに、これらを活用して課題を解決するために必要な思考力、判断力、表現力その他の能力をはぐくみ、主体的に学習に取り組む態度を養うことに、特に意を用いなければならない
現行の学習指導要領にもその基本理念が踏襲されています。

このなかで言及されている「知識・技能」「思考力・判断力・表現力」「主体的に学習に取り組む態度」(=主体性、多様性、協働性)は「学力の3要素」と呼ばれ、高大接続改革の実現に向けた中央教育審議会の答申のなかでもそれが明記されています。

いずれにせよ、日本の教育改革の根幹には「生きる力を育む」という、最大の目的があるのです。

こうして近年、日本では「生きる力」を育むべく、学習指導要領を中心とした教育基準の見直しがたびたび図られてきましたが、本来、密接に関係し合う高等学校・大学による“一体的”な整備までは進んでいませんでした。そこで「高等学校教育」と「大学教育」、そして高等学校から大学への入口となる「大学入学者選抜」においても、一貫した取り組みが必要であることから、「高大接続改革」と名付けられ、喫緊の課題として頻出するようになったのです。

高校&大学だけでなく、社会的な議論まで拡げていく

2015年1月に文部科学省が発表した「高大接続改革実行プラン」では、その具体的な取り組みとして4つが掲げられています。


「高大接続改革実行プラン」における具体的な取り組み施策
各大学の個別選抜の改革
(1)個別選抜改革を推進するための法令改正
(2)大学入学者選抜実施要項の見直し
(3)アドミッション・ポリシーの明確化
(4)認証評価等の推進
(5)財政措置
高等学校基礎学力テスト(仮称)および
大学入学希望者学力評価テスト(仮称)の実施
高等学校教育の改革
(1)課題の発見と解決に向けた主体的・協働的な学びの推進と
高等学校教員の資質能力の向上
(2)多様な学習活動・学習成果の評価
(3)学校指導要領の見直し
大学教育の改革
(1)大学教育の質的転換
(2)学生の学修成果の把握・評価の推進
(3)大学への編入学等の推進
(出典:『高大接続改革実行プラン』(文部科学省決定、2015年1月16日))


また、これら4つの改革において、個々のポイントとしては以下の内容があがっています。
各大学の個別選抜の改革
・多様な背景を持った学生の大学への受入れが促進されるよう、大学入学希望者の 能力・意欲・適性等を多面的・総合的に評価する大学入学者選抜の改革を行う。
・特に、各大学の個別選抜において、それぞれの大学の教育カリキュラムや教育改 革と連動した入試改革を進めるため、各大学の教育理念やアドミッション・ポリシーに基づき、学力の三要素(「知識・技能」「思考力・判断力・表現力」「主体性・ 多様性・協働性」)を踏まえた多面的・総合的な選抜方法をとることを促進する。
・このため、新たな大学入学者選抜のルールを構築するとともに、各大学の入試改革 に対する評価の推進や支援の充実を図る。

高等学校基礎学力テスト(仮称)および大学入学希望者学力評価テスト(仮称)の実施
・高等学校教育・大学教育・大学入学者選抜を通じて、学力の三要素をはじめとし た、これからの時代に求められる力を育成・評価するために、学力評価のための新テスト(「高等学校基礎学力テスト(仮称)」及び「大学入学希望者学力評価テスト(仮称)」)の在り方について一体的な検討を行うとともに、新テストの一体的実施や新たな評価方法の開発等を行う組織を整備する。

高等学校教育の改革
・高等学校教育においては、義務教育までの成果を確実につなぐとともに高等学校教育の質の確保・向上を図り、生徒に、国家と社会の形成者となるための教養や行動規範、自分の夢や目標をもって主体的に学ぶ力を身につけさせる。

大学教育の改革
・大学教育においては、多面的・総合的な評価等の大学入学者選抜改革と連動して、多様な学生が切磋琢磨し相互に刺激を与えながら成長する場を創成する。
・その上で、大学教育の質的転換を断行し、学生が高等学校教育までに培った力を さらに発展・向上させ、予測困難なこれからの社会に出て自ら答えのない問題に対して解を見出していく力を身につけさせる。

ここで重要なのは、「各大学の個別選抜の改革」「新テストの実施」といった大学入試に関連する施策だけでなく、それぞれの高等学校および大学機関でも改革を行っていくという点です。これこそが「高大接続改革」の本質ともいえます。

今後、高大接続改革実現のため、国では全省的な体制を編成し、新テストに関しては専門家会議を立ち上げ、連携・協力して改革が図られていきます。

また高大接続改革フォーラムの実施や広報活動により、1点きざみで点数を評価するような「既存の公平性」から、多様な力を評価する「新たな公平性」へ変化していくことの社会的認知も進められていきます。また、就職先における人事採用・人材開発にまで、改革を接続していく動きが期待されています。

こうして社会的な議論が拡がり、教育関係者だけでなく、子どもと保護者、民間企業、地域社会、そして社会に属するすべての人で共有していくことが、高大接続改革の実現に求められていくはずです。