公開日 2016.8.26

博報堂の大木さんが主宰する発想体験ワークショッププログラム「OPEN-CAMP」の制作風景

博報堂の大木さんが主宰する発想体験ワークショッププログラム「OPEN-CAMP」の制作風景


「発想体験ワーク」でアイデアを形にする−−「H-CAMP」と名付けられた中高生向けの教育プログラムを、株式会社博報堂が実施しています。企画・運営を担っているのは、広報室 CSRグループの大木浩士さん。広告会社である博報堂がなぜ「教育」に取り組むのか? 個人としても都市部と地方をつなぐ活動や、高校生や大学生、社会人の「やりたいこと」を形にする支援などに取り組まれている大木さんが考える、これからの社会を生きていくために必要な力とは? 前後編でお届けします。


広告会社の「発想力」を中高生に還元する

── H-CAMPとは、どのような取り組みなのでしょうか?

全国の中学校・高校からの企業訪問を受け入れる「企業訪問-CAMP」と、中高生が個人で参加できる発想体験ワークショッププログラム「OPEN-CAMP」の2つからなる、博報堂オリジナルの教育プログラムを総称して「H-CAMP」と呼んでいます。

いずれも、中高生が自分の個性の可能性に気づき、その個性を楽しみながら伸ばしていくきっかけをつくることを目的としています。企業訪問-CAMPでは企業説明に加えて発想体験ワークを、OPEN-CAMPでは博報堂やグループ会社のコピーライターやデザイナー、CMプランナー、Webプランナーなど、さまざまな職種で働く社員が講師となり、参加者が自分でアイデアを考え、対話し、形にする半日のワークショップを行っています。

2015年度は、企業訪問-CAMPは67校850人を受け入れ、OPEN-CAMPは16名程度の定員で8回実施しました。


── どのような経緯で、H-CAMPを企画されたのでしょうか?

博報堂には、「粒ぞろいより、粒違い」という人材育成方針のもと、ユニークな「粒違い社員」が豊富にいます。そして、それらの社員が生み出すクリエイティビティが事業のコア(核)です。博報堂のCSR(Corporate Social Responsibility:企業の社会的責任)の取り組みとして、この多様な人材と、そこから出てくるユニークな企画やアイデアを使って世の中に貢献するにはどうすればよいか。そう考えたときに、未来を担う子どもたちに向けて教育の分野で何かできるのではないかと考えたのが始まりです。

とはいえ、このアイデアが本当に世の中に意義のあるものなのかは不安でした。そこで、大学の先生や教育NPOの方などに助言を求めたところ、「一人ひとりの個性を伸ばしたいけれど、学校では十分にできていない」「自己肯定感が低く、自信を持てない子が多い」「学校の中ではほかの人に合わせようとして、自由な発想や発言ができない子が多い」などの実態を伺いました。

それなら、子どもたちがユニークな発想力を発揮したり、対話を通してアイデアを出したりする内容にしよう、と企画したのがOPEN-CAMPです。加えて、すでに実施していた企業訪問の受け入れに発想体験ワークを加えた内容に改良して、企業訪問-CAMPとしました。


── 発想を促すために、ワークショプではどのような工夫をされているのでしょうか?

重視していることは3つあります。まずは、雰囲気づくり。「講師=教える人」「中高生=教わる人」という一方通行の関係ではなく、お互いが学び合うことのできる、混沌とした場づくりをするようにしています。背景には、子どもたちが初対面の人間に自分の意見を言うことはすごく勇気のいることですから、できるだけ話しやすくしたいという考えがあります。

「OPEN-CAMP」では、講師が各テーブルをまわり子どもたちの制作活動の後押しをする

「OPEN-CAMP」では、講師が各テーブルをまわり子どもたちの制作活動の後押しをする


2つ目は、対話の時間をできるだけとること。学校の授業では、「先生が黒板に書いて、生徒がメモを取る」という関係ができ上がっていて子どもたちが話す機会がない場合が多いですし、友達同士でも当たり障りのない会話しかしない子が多い。だからこそ、OPEN-CAMPでは、自分の思っていることを口に出すことや、文字に書き出すことを重視しました。

3つ目は、発想して、形にすること。考えを話して終わりにするのではなく、イラストやキャッチコピーなど、何かしらの作品に仕上げるということを、どの講座でもやっていますね。さらには、参加者の前で発表もします。

ほかにも、ほめることや常識にとらわれないことも大事にしています。講座の中で「一度、常識を捨てて考えよう」ということは頻繁に伝えていますし、講師が子どもたち一人ひとりに対して良いところを見つけて「いいじゃん!」と声をかけることもしょっちゅうですね。それが「自信になった」と感想をくれる参加者もいます。

「OPEN-CAMP」では、子どもたちが完成させた作品を一つずつプロの目で講評していく

「OPEN-CAMP」では、子どもたちが完成させた作品を一つずつプロの目で講評していく



CSRとは何か?未経験の状態から考えていった

── そもそも大木さんは、どのような経緯でCSRのお仕事に携わることになったのでしょうか?

会社の人事異動がきっかけです。それまでは顧客企業のマーケティングや商品企画、環境への取り組みのPRなどに携わっていたので、2012年に現在の部署(広報部CSRグループ)に来たときには、CSRといっても何をすればいいのかさっぱりわかりませんでした。

一方で、博報堂では、社会課題に対する社員一人ひとりのアクションがCSRになるとともに、CSRの部署の社員が会社としてのCSRを手がけるという考えのもと、社員一人ひとりが問題意識を持って、自分にできることで社会に貢献していくことを推奨しています。当時から、さまざまな社員が個人として、途上国支援や東日本大震災の被災地支援をはじめとしたさまざまな取り組みを行っていました。

そこで、社会課題の解決に向けて個々に行動している社員を探し、約30人に1時間ずつ時間をもらい、取り組みの詳細や感じている課題などについてヒアリングしたのです。

ヒアリングと並行して自分でも勉強したり、CSRの企画を立てたりして1年ほど試行錯誤して気づいたのは、CSRの取り組みというのは、ただ世の中に良いことをすればいいわけではないということです。会社の強みや良さを社会に還元することで、「この会社の事業って、いいことだね」「この会社の社員が持っているスキル・ノウハウって社会にも生きるし、いいね」と世の中のいろんな人たちから言ってもらえることが良いCSRなんじゃないかと。


── そうして着目されたのが、博報堂の「粒違い人材」だったのですね。

そのとおりです。約30人にヒアリングする過程で「この人に講師を頼むとこういう講座ができそうだな」とイメージできた人が5人ほどいたので、まずその5人に声をかけて、さらに彼らに協力してくれそうな社員を紹介してもらって講座のバリエーションを増やしていきました。

H-CAMPを始めて2016年で4年目ですが、社内では「いい取り組みだからどんどん進めよう」と評価を受けています。今後は、より広い範囲でグループ会社からも講師を出してもらえるよう調整して、グループ全体の取り組みにしていきたいですね。また、東京都内の本社でのみ実施している現状では参加できる生徒さんが限られているので、何か、首都圏以外の地域に住む子どもたちにできることはないか、地方での実施も含めて検討しています。

博報堂が取り組む教育プログラム「H-CAMP」のWebサイト

プロフィール

大木浩士(おおき・ひろし)
株式会社博報堂 広報室 CSRグループ CSRプロデューサー

1968年、栃木県生まれ。広告会社、シンクタンクを経て、2001年、株式会社博報堂に入社。顧客企業のマーケティング戦略立案、商品開発業務などを担当したのち、2007年より環境コミュニケーションのプランニング・コンサルティングを担当。2012年に広報室 CSRグループに移り、社員のCSR活動のアドバイザーや「H-CAMP」の企画・運営などを担当している。個人としては、「都市と地域の人をつなぐ」「やりたいことを形にする支援」という2つのテーマを掲げ、都市部と地方とをつなぐ活動「里都(さと)プロジェクト」や、出身地である栃木県の各自治体のまちづくり、移住促進のサポートなど、地域や個人が抱える課題の解決に向けた活動を積極的に行っている。