「違い」を体感することこそ、変化に対応する原動力(前編)_2016.3
公開日 2016.3.1
「どこでも未来を紡げる社会の創造」をビジョンに、ITの力で地域の高齢者をつなぐ活動を行うベンチャー企業「株式会社たからのやま」の代表・奥田浩美さんは、インドの大学院で社会福祉を学び、1989年に国際会議の企画運営会社に就職。2001年、長女出産を機に独立し株式会社ウィズグループを設立しました。さらに、2013年には徳島県でたからのやまを設立し、ITのスペシャリスト、高齢者のサポーター、一児の母親など、さまざまな顔を持ちながら精力的に活動しています。奥田さんから見た「未来を拓く力」とはどのようなものなのでしょうか? 前後編でお伺いします。
地域に埋もれる社会課題は“宝の山”?
――「株式会社たからのやま」とは、いったいどんな会社なのでしょうか?
「たからのやま」という社名は、「いろいろな地域に埋もれている社会課題は“宝の山”なんだよ」という意味を込めて付けました。インドの大学院を卒業した後に就職してからおよそ25年、ITの最先端技術をカンファレンス(国際会議)などを通じて日本国内に伝える仕事に携わり、IT、テクノロジーはものすごい力を持っていることを感じてきました。そして、これまで培ったITの知識や人脈を武器に、東京からは見えることのない社会課題をビジネスにつなげていきたい、ということがたからのやま設立の動機です。
「たからのやま」という社名は、「いろいろな地域に埋もれている社会課題は“宝の山”なんだよ」という意味を込めて付けました。インドの大学院を卒業した後に就職してからおよそ25年、ITの最先端技術をカンファレンス(国際会議)などを通じて日本国内に伝える仕事に携わり、IT、テクノロジーはものすごい力を持っていることを感じてきました。そして、これまで培ったITの知識や人脈を武器に、東京からは見えることのない社会課題をビジネスにつなげていきたい、ということがたからのやま設立の動機です。
たとえば、徳島県の美波町、鹿児島県の肝付町には「ITふれあいカフェ」を開設しています。このカフェは、製品開発にまつわる「共創の場」です。高齢者へタブレットやスマートフォンを提供し、無料でその使い方を教える場になっています。そこで得た高齢者の生の声を製品開発者・開発企業へフィードバックし、製品の改良につなげてもらう仕組みです。
――高齢者とロボットをつなげる活動も行っているそうですね。
2015年8月には、「暮らしのロボット共創プロジェクト」を開始しました。テーマは「生活のなかで人を幸せにするロボットのあり方」。かねてから、地域で必要とされる製品を東京にいる技術者に伝える活動をやりたいと考えており、製品・サービスが完成したときに最も形として見えやすいという観点から、ロボットをテーマにしました。
――高齢者とロボットをつなげる活動も行っているそうですね。
2015年8月には、「暮らしのロボット共創プロジェクト」を開始しました。テーマは「生活のなかで人を幸せにするロボットのあり方」。かねてから、地域で必要とされる製品を東京にいる技術者に伝える活動をやりたいと考えており、製品・サービスが完成したときに最も形として見えやすいという観点から、ロボットをテーマにしました。
立ち上げから最初の数カ月間は、東京・秋葉原にあるアルデバラン・アトリエ(編集部注:アルデバランはソフトバンクとともに、感情認識ロボット「Pepper」を共同開発する開発会社)にエンジニアなどの技術者、介護関係者、一般参加者を集め、暮らしとロボットを題材にした議論を続けました。高齢者のいる肝付町をSkype(※インターネットを介した無料通話ソフト)でつなぎ、意見を求めました。
そこで得たアイデアをもとに、約2カ月間かけて「Pepper」のロボアプリを開発。10月末には肝付町でアプリの実証実験を展開。高齢者の皆さんにアプリを搭載した「Pepper」と触れあってもらい、限界集落でどんなテクノロジーが生きるのかを現場で試しました。11月にはフランスのアルデバラン(Aldebaran Robotics)に出向き、意見を交換しました。
現在も介護領域でのロボット活用の方法を検討するため、東京、鹿児島、徳島など、さまざまな場所でさまざまな人とディスカッションしながらプロジェクトを行っています。
現在も介護領域でのロボット活用の方法を検討するため、東京、鹿児島、徳島など、さまざまな場所でさまざまな人とディスカッションしながらプロジェクトを行っています。
物理的・感覚的な遠さが課題発見力を養う
――たからのやまを設立される背景には、奥田さんご自身にどのような課題意識があったのでしょうか?
ここに至るまでには、いくつかの段階がありました。
2012年に、私と取締役である本田正浩の2人で「地域×IT」をテーマにしたメディア&プロジェクトサイト「finder」を立ち上げ、「伝えること」にチャレンジしました。地方にフォーカスし、地域の課題を「伝える」ことで、きっと地方が変わっていく、そう思ったのがきっかけです。しかし、「伝える」だけでは解決しなかったんです。
ここに至るまでには、いくつかの段階がありました。
2012年に、私と取締役である本田正浩の2人で「地域×IT」をテーマにしたメディア&プロジェクトサイト「finder」を立ち上げ、「伝えること」にチャレンジしました。地方にフォーカスし、地域の課題を「伝える」ことで、きっと地方が変わっていく、そう思ったのがきっかけです。しかし、「伝える」だけでは解決しなかったんです。
私は「認識する」「伝える」「行動する」の3つを循環させることが、何事においても大切だと考えています。「finder」は、「メディアを通じて実行する人たちを増やす」側面も持っていましたが、限界がありました。「伝える」の先で、自ら行動に移さなければ、世界は変わらない。それを実践するために、たからのやまを立ち上げました。
――社会が包含している課題を発見することは、これからの子どもたちにも求められる力だと言われています。奥田さんが「課題を認識する」というプロセスで気をつけていることを教えていただけますか。
重要なのは、「一定のコミュニティーに偏らないこと」だと思います。言い換えるならば、「できるだけ多様な人たちと知り合う」こと。端と端にあるような、まったく異なるものを掛け合わせることによって“違い”が見えます。その“違い”こそが“課題”が明るみになった際に“強み”になったりします。
――社会が包含している課題を発見することは、これからの子どもたちにも求められる力だと言われています。奥田さんが「課題を認識する」というプロセスで気をつけていることを教えていただけますか。
重要なのは、「一定のコミュニティーに偏らないこと」だと思います。言い換えるならば、「できるだけ多様な人たちと知り合う」こと。端と端にあるような、まったく異なるものを掛け合わせることによって“違い”が見えます。その“違い”こそが“課題”が明るみになった際に“強み”になったりします。
私も日々のビジネスでは、「東京から、海外」、「高齢者のコミュニティーから、子どもたちのコミュニティー」といったように、物理的に遠い場所・感覚的に遠い場所への移動を自らの行動に課しています。そうした行動から、課題を発見する力が養われるのではないでしょうか。
プロフィール
奥田 浩美(おくだ・ひろみ)
株式会社ウィズグループ/株式会社たからのやま 代表取締役
インド国立ボンベイ大学(現州立ムンバイ大学)大学院社会福祉課程(MSW) 修了。1991 年にIT に特化したカンファレンスサポート事業を起業し、数多くのIT プライベートショーの日本進出を支える。2001 年に株式会社ウィズグループを設立。2013 年に徳島県の過疎地に「株式会社たからのやま」を創業。IT 製品共創開発事業を開始。開発現場からもっとも見えにくい「社会課題」をIT 製品開発に繋げる仕組みづくりに取り組んでいる。
情報処理推進機構(IPA) の未踏IT 人材発掘・育成事業の審査委員、「IT 人材白書」委員。著書に「人生は見切り発車でうまくいく(総合法令出版)」「会社を辞めないという選択(日経BP)」、「ワクワクすることだけ、やればいい!(PHP 研究所)」。
奥田 浩美(おくだ・ひろみ)
株式会社ウィズグループ/株式会社たからのやま 代表取締役
インド国立ボンベイ大学(現州立ムンバイ大学)大学院社会福祉課程(MSW) 修了。1991 年にIT に特化したカンファレンスサポート事業を起業し、数多くのIT プライベートショーの日本進出を支える。2001 年に株式会社ウィズグループを設立。2013 年に徳島県の過疎地に「株式会社たからのやま」を創業。IT 製品共創開発事業を開始。開発現場からもっとも見えにくい「社会課題」をIT 製品開発に繋げる仕組みづくりに取り組んでいる。
情報処理推進機構(IPA) の未踏IT 人材発掘・育成事業の審査委員、「IT 人材白書」委員。著書に「人生は見切り発車でうまくいく(総合法令出版)」「会社を辞めないという選択(日経BP)」、「ワクワクすることだけ、やればいい!(PHP 研究所)」。