未来に求められる力、新しい学びを模索する(前編)_2016.1
公開日 2016.1.29
子どもの創造力を源泉に、ワークショップを通じて「新しい価値を生み出す」取り組みをしているのが、2002年11月設立のNPO法人CANVAS(キャンバス http://canvas.ws/ )。これまで教育機関・関係者、行政、民間企業、博物館・美術館、アーティストと連携を図りながら、「創造的な学びの場」となる多数のワークショップ、イベントを企画開発・運営してきました。その理事長を務めるのが石戸奈々子さんです。可能性を引き出すワークショップはどのようにつくられていったのか、お話を伺いました。
大きな影響を及ぼしたMITメディアラボでの体験
――石戸さんは、小学校と中学・高校時代をどのように過ごされたのでしょうか?
小学校は公立の学校に通い、中高一貫校に進学しました。本当に自由な校風の学校でしたね。ただ、「社会で起きている課題のなかで、気になるものを選んで自分の考えを述べる」レポート課題が頻繁にあって、レポート用紙ばかりがなくなるような学校生活を送っていました。授業でもディスカッションの時間もあり、絶対的な答えのない問いに向き合う機会が多くありましたね。
当時は「レポートを書く宿題ばかりで面倒だな」なんて思っていたものですが(笑)、今振り返れば、社会に目を向けるきっかけになったのだと思います。社会に目を向けたとき、そこには多様な視点・価値観があった。それに基づいて「自分で思考する」ということを訓練できたのかもしれません。
――現在はCANVASを運営され、「創造的な学びの場」として数々のワークショップを企画・開発されています。職業として「学び」に関するお仕事を選択されたのはなぜですか?
大学卒業後に渡米し、マサチューセッツ工科大学(MIT)メディアラボに客員研究員として参加したのですが、その体験が大きかったと思います。メディアラボは、デジタルの未来社会に対するビジョンを世界に対して打ち出し続けていて、子どもとデジタルの関係を総合的に研究しているラボでもありました。たとえば、100ドルのノートパソコンを開発し、それを世界中の子どもたちに提供する「100ドルPCプロジェクト」などが有名です。メディアラボに、常に非常識なことに挑戦し、新しい価値をつくりだすことに最大限の賞賛の言葉をおくるスピリッツを持ち、テクノロジーと社会との接点を常に模索しながら、産官学連携で新しい世界を築いていました。そしてそれを可能とする、ひらめいたらすぐにつくれる環境、多様で深い専門性のコミュニティ、学び合い教え合うフラットな関係がありました。
小学校は公立の学校に通い、中高一貫校に進学しました。本当に自由な校風の学校でしたね。ただ、「社会で起きている課題のなかで、気になるものを選んで自分の考えを述べる」レポート課題が頻繁にあって、レポート用紙ばかりがなくなるような学校生活を送っていました。授業でもディスカッションの時間もあり、絶対的な答えのない問いに向き合う機会が多くありましたね。
当時は「レポートを書く宿題ばかりで面倒だな」なんて思っていたものですが(笑)、今振り返れば、社会に目を向けるきっかけになったのだと思います。社会に目を向けたとき、そこには多様な視点・価値観があった。それに基づいて「自分で思考する」ということを訓練できたのかもしれません。
――現在はCANVASを運営され、「創造的な学びの場」として数々のワークショップを企画・開発されています。職業として「学び」に関するお仕事を選択されたのはなぜですか?
大学卒業後に渡米し、マサチューセッツ工科大学(MIT)メディアラボに客員研究員として参加したのですが、その体験が大きかったと思います。メディアラボは、デジタルの未来社会に対するビジョンを世界に対して打ち出し続けていて、子どもとデジタルの関係を総合的に研究しているラボでもありました。たとえば、100ドルのノートパソコンを開発し、それを世界中の子どもたちに提供する「100ドルPCプロジェクト」などが有名です。メディアラボに、常に非常識なことに挑戦し、新しい価値をつくりだすことに最大限の賞賛の言葉をおくるスピリッツを持ち、テクノロジーと社会との接点を常に模索しながら、産官学連携で新しい世界を築いていました。そしてそれを可能とする、ひらめいたらすぐにつくれる環境、多様で深い専門性のコミュニティ、学び合い教え合うフラットな関係がありました。
「こういう学びの場が日本にもあれば、新しい社会が生まれてくる」——。当時の私はそう感銘を受け、後のCANVAS設立にも大きな影響を受けています。
多様な価値観と協働しながら、新しい価値をつくりだす
――CANVASの立ち上げには、石戸さんご自身にどのような課題意識があったのでしょうか?
根底にあったのは「教育の現場において“これから求められる力”が何であるのか」という思いです。
根底にあったのは「教育の現場において“これから求められる力”が何であるのか」という思いです。
いわゆる “20世紀型”の教育は、記憶・暗記することに評価の力点が置かれていました。正解がある問題を与えられ「いかに速く正解までたどり着くか」を求められてきたわけです。画一的なものを大量に生産する工業社会では、そのような能力が求められてきたからです。しかし、情報が溢れる国際社会となったいま、経済がグローバル化し、国境を超えて人材が流動し、大量の情報が国境を超えて行き交います。これまで誰も経験したことがないほどめまぐるしく変化する社会で、知識はすぐに陳腐化する。学校で学んだ知識だけでは対応できず、答えも誰も知らない世界です。ならば、これからの教育とはどんなものか。その答えがCANVASでの実践です。
――具体的に、CANVASではどのようなミッションのもと、活動をされているのでしょうか?
毎年、ワークショップを一堂に会した「ワークショップコレクション」を開催しています。2015年夏には東京・渋谷で第11回目を開催しました。そこには150以上のワークショップが集まり、大盛況でした。こうした、多彩なバリエーションを持ったワークショップを通し、子どもたちを主役にした新しい“学びの場”をつくることが、私たちのミッションと言えます。
――具体的に、CANVASではどのようなミッションのもと、活動をされているのでしょうか?
毎年、ワークショップを一堂に会した「ワークショップコレクション」を開催しています。2015年夏には東京・渋谷で第11回目を開催しました。そこには150以上のワークショップが集まり、大盛況でした。こうした、多彩なバリエーションを持ったワークショップを通し、子どもたちを主役にした新しい“学びの場”をつくることが、私たちのミッションと言えます。
ワークショップ名 | 出展者・社 | ジャンル |
<自分だけの光る宝石を作ろう!> オリジナルレジンLEDづくり | 乙女電芸部 | 造形 電子工作 |
タブレットで楽しく学ぼう!ネットのルール | グリー株式会社 | ゲーム・クイズ 映像 デジタル |
大きく、大きく、とめ!はね!はらい! | 竹川 晴菜(書家) | 造形 絵画・イラスト 身体表現 |
重さ調査隊 〜どうしてアリさんは大きなものを運べる?〜 | 慶應義塾大学 今井むつみ研究室 | サイエンス 身体表現 ゲーム・クイズ |
ふしぎ! 生き物マジック | 株式会社日本入試センター (SAPIX YOZEMI GROUP) | 造形 サイエンス 環境・自然 |
だれでも作曲 〜メイク・ア・メロディ♪〜 | 音楽ワークショップ集団 ミュージクス | 音楽 |
チクタク♪チクタク♪かんたん!
はじめてのオリジナル時計づくり!
|
株式会社 フォッシルジャパン | 造形 |
AR動画カードで 4コマ動画をつくろう! | NHKクリエイティブ・ライブラリー | 映像 |
羊毛で三つ編みをしてみよう! | mokomoko羊毛工房 | 造形 材料費 |
空間アートを体験しよう! 〜みんなでつくろう秘密基地!〜 | 空間演出集団ぱぱぱぱぱ | 造形 絵画・イラスト 身体表現 |
玩改(ガンカイ)ワークショップ 〜マイ・バック&かべ・バックをつくろう〜 | いながきやすこ | 造形 絵画・イラスト 環境・自然 |
iPadを活用した プログラミング教育 js.bit体験会 | IAMAS js.bit研究会 | デジタル |
「こんな妖怪いたらいいなぁ」オリジナル妖怪かるたをつくろう | 妖怪絵本作家 いちよんご | 造形 絵画・イラスト |
感じよう!南極と南極のいきものたち ─クジラ、ペンギン、アザラシ | ミサワホーム 株式会社 | 環境・自然 |
簡単!楽しい!スマホ体験! 〜正しいネット利用について学ぼう〜 | 株式会社 ディー・エヌ・エー | ゲーム・クイズ デジタル |
触って!知って!インターネット | 安心ネットづくり促進協議会 | デジタル |
国境なき医師団の予防接種チームになってみよう! | 特定非営利活動法人 国境なき医師団日本 | ゲーム・クイズ |
花と語らう池坊生け花 | 華道家元池坊教授 福地まゆみ | 造形 |
段ボールでVR(仮想現実)ゴーグル作成!
バーチャル3D世界を体験しよう!
|
IT×ものづくり教室Qremo | サイエンス 電子工作 デジタル |
ステージであそぼう! | CANVAS | サイエンス 音楽 デジタル |
今の子どもたちが大人になる2027年には「65%の職業が新しい職業になる」という調査があります(米デューク大学調査より)。これからはコンピューターに決して代替できないスキルが求められていくでしょう。そんな時流を踏まえ、私たちが考える「これから求められる力」を端的に表せば、「世界中の多様な価値観の人たちと協働しながら、新しい価値をつくりだしていく力」です。
しかしこれは学校や家庭だけに任せておけばいいようなものではなく、地域や企業、行政、そしてミュージアムのような生涯学習施設など、ありとあらゆる大人が手を取り合わなければいけません。CANVASでも、私たちの活動にさまざまな機関・団体が参加しており、皆で一緒になって“学びの場”をつくっています。
プロフィール
石戸奈々子(いしど・ななこ)
NPO法人CANVAS理事長/株式会社デジタルえほん代表取締役
慶応義塾大学准教授
東京大学工学部卒業後、マサチューセッツ工科大学メディアラボ客員研究員を経て、子ども向け創造・表現活動を推進する NPO「CANVAS」を設立。これまでに開催したワークショップは 3000回、約35万人の子どもたちが参加。実行委員長をつとめる子ども創作活動の博覧会「ワークショップコレクション」は、2日間で10万人を動員する。その後、株式会社デジタルえほんを立ち上げ、えほんアプリを制作中。総務省情報通信審議会委員、デジタル教科書教材協議会理事などを兼務。著書に『子どもの創造力スイッチ! 遊びと学びのひみつ基地CANVASの実践』(フィルムアート社、2014年)、『デジタル教育宣言 スマホで遊ぶ子ども、学ぶ子どもの未来 (角川EPUB選書)』(KADOKAWA/中経出版、2014年)がある。
石戸奈々子(いしど・ななこ)
NPO法人CANVAS理事長/株式会社デジタルえほん代表取締役
慶応義塾大学准教授
東京大学工学部卒業後、マサチューセッツ工科大学メディアラボ客員研究員を経て、子ども向け創造・表現活動を推進する NPO「CANVAS」を設立。これまでに開催したワークショップは 3000回、約35万人の子どもたちが参加。実行委員長をつとめる子ども創作活動の博覧会「ワークショップコレクション」は、2日間で10万人を動員する。その後、株式会社デジタルえほんを立ち上げ、えほんアプリを制作中。総務省情報通信審議会委員、デジタル教科書教材協議会理事などを兼務。著書に『子どもの創造力スイッチ! 遊びと学びのひみつ基地CANVASの実践』(フィルムアート社、2014年)、『デジタル教育宣言 スマホで遊ぶ子ども、学ぶ子どもの未来 (角川EPUB選書)』(KADOKAWA/中経出版、2014年)がある。