"The Full-Time Wife Escapist"

The Full-Time Wife Escapistは、2016年に大ヒットしたテレビドラマだ。日本語では『逃げるは恥だが役に立つ』として知られている。この英語のタイトルは、日本語のタイトルよりもドラマのテーマを直接的に表現している。テレビドラマはそれが作られた時代を映す鏡のようなもので、この言葉は現在の日本社会を考えるヒントになる。法政大学の藤田真文教授の研究の素材の一つもテレビドラマだ。『逃げ恥』を例に彼の社会学的な分析を紹介する。
『逃げ恥』と呼ばれたこのドラマは海野つなみの同名のマンガが原作だ。エンディング曲の『恋』は星野源の作詞作曲で、ダンスも話題になった。大学院卒業後に就職難で無職となったみくり(女性)とシステムエンジニアである津崎(男性)の恋を軸に、ストーリーが展開する。舞台は横浜だ。新垣結衣と星野源が演じる2人の関係は、家事代行を仕事とする契約結婚に始まり、やがて本当の恋愛に発展していく。この関係はみくりに、結婚制度そのものへの様々な疑問を抱かせることになる。津崎が森山の家事に対して金を支払う話は、彼が支払う給与は彼女がやった仕事への対価であることを示す。
ここで35年前のテレビドラマ『金曜の妻たちへ』と『逃げ恥』を比較してみよう。これは1983年から3年に渡り放送された。タイトルの通り、既婚女性である「妻」たちが主人公で、東京郊外の新興住宅地に建てた家に住む主婦の姿が描かれている。最初の第一話に、嫁が姑から家事や家計の切り盛りを褒められるシーンがある。その「仕事」への金銭的対価はない。安定企業に勤める夫の経済力の下にあることが対価と考えることもできるだろう。しかし、それでは「仕事」として家事の位置付けが明確ではない。『逃げ恥』と比べると働く女性の価値観の変化が感じられる。

この2つのテレビドラマは、他にも女性のキャリア形成、生き方の多様性、LGBTへの許容度など、多くの視点から分析できる。右図は平均初婚年齢を示したグラフである。『金曜の妻たちへ』がヒットした時代は、このグラフの平成8年の曲線がさらに左に寄っていた。平均初婚年齢が若いということは、人生設計の選択肢が狭かったことも示している。このような視点から2つのドラマを見ると、結婚観の変化もわかる。

藤田真文教授(法政大学社会学部)

法政大学社会学部学部長。BPO(放送倫理・番組向上機構)放送倫理検証委員会委員。専門はマス・コミュニケーション論、メディア論。テレビドラマを分析した『ギフト、再配達』など著書多数。