Archaeological and chemical analysis of ancient necklaces
考古学と化学のコラボで古代のネックレスを分析
現在私たちが着ている服には、化学繊維であるポリエステルが使わることが多い。古来衣服の素材として使われてきた絹や綿は高価で、その代用品として作られた人工繊維の一つがポリエステルだ。人は昔から入手しやすい安価な素材を使い、高価な品物の代用品とした。
東海大学が所有する古代エジプトの出土品の中に、黄色いビーズが連なるネックレスが2連ある。ビーズは2種類あり、古代エジプトで国母とされた女神ハトホル(牝牛の頭)と花形の2種類のビーズでできている。花形は直径約1.2cmの円形で、濃紺(現在では変色している)の花芯が小さな丸いビーズで表現されている。現在は単連のビーズネックレスとして残されているが、出土当時にこれらのビーズがどのような形で連ねられていたのかは不明である。
このネックレスの分析が、考古学者の山花京子准教授 と化学者の秋山泰伸教授によって進められた。秋山教授は、X線を用いた分析によりビーズの成分を硫黄と特定した。古代エジプトのネックレスの素材は石、動物の骨、金属、ガラスなどが多い。カイロ近郊で採掘された硫黄は素材としては珍しい。硫黄はもろい物質で、焚火ほどの温度で溶けるため、加工はしやすい。秋山教授のコンピュータ解析により、ハトホルのビーズは全て同形の1〜3個の少数の鋳型で鋳造されたこともわかった。つまり、全て同じ場所で作られた可能性が高いということだ。花形の中央についている濃青のビーズはファイアンス製で、現代には存在しない物質である。
山花准教授は、考古学的分析と秋山教授の化学的解析結果を踏まえ、このネックレスの製作時期は紀元前3世紀から紀元後2世紀の間で、副葬品として墓に納められた可能性が高いと推測している。また、黄色の硫黄と濃青のファイアンスが使われた理由は、当時黄金の肌と青い髪を持つとされた神の色をそれが表したからではないかと考えている。ファラオの棺の写真が教科書や資料集に載っている。ファラオの棺が黄金で覆われ、青色の石材ラピスラズリで縞が描かれていて、どちらも高価だった。つまり、黄色の硫黄と濃青ファイアンスは黄金とラピスラズリの代用品だったと推測されるのだ。
*ファイアンス:焼結した石英で作られた物質である。
山花京子准教授(文化社会学部アジア学科)
専門は古代エジプト考古学。ファイアンスの研究の第一人者。著書『悠久のナイル: ファラオと民の歴史』は、東海大学の古代エジプトコレクションの図録。
秋山泰伸教授(工学部応用化学科)
専門は基礎化学、材料工学、プロセス工学。化学に関する専門書の他に、電卓登場前後の計算道具を紹介した『愛しの昭和の計算道具』等、著書多数。
東海大学古代エジプト及び中近東コレクション
古代エジプト及び中近東のコレクション約6,000点がデジタルアーカイブ化され、オンライン公開されている。材質・時代・地域・年代で検索できる。
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