10万人が集う渋谷のカウントダウン

*破線部は暗渠となっていて、実際には川の上に道路が走り、建物が建っている。

2017年の大みそかから2018年の元旦にかけて、東京の渋谷のスクランブル交差点で行われる新年を祝うカウントダウンには約10万人が集まった。数年前から自然発生的に始まったカウントダウンで、警察は路上でのお祭り騒ぎをやめさせるために歩行者を規制していた。しかし、渋谷区が地元商店街等とともに渋谷警察署に掛け合い、2年前から自動車の通行が規制され、道路が歩行者に開放された。こうした発想の柔軟さや多くの人々を受け入れる寛容さが、渋谷という街を理解する鍵だ。
右の地図の緑色で示した武蔵野台地を削るように、破線と実線で示した川が渋谷駅付近で合流し、そのまま南東の方へ向かい、東京湾に注ぐ。年越しカウントダウンだけでなく、サッカーワールドカップ、ハロウィンなどでも、多くの人が川の水のように谷底のスクランブル交差点に集まる。
渋谷は2027年の完了を目指して再開発が進んでいる。その一環として渋谷駅に隣接して建設された高層ビル「ヒカリエ」には、LINE、DeNA、KDDI等のバーチャルな世界を牽引する大手IT企業が居を構えている。一方、渋谷は全国で最もライブハウスの数が多く、リアルな音楽体験の場も多い。つまり、渋谷はリアルとバーチャルの両面の先端を担う人々が集まり、コミュニケーションをとっている街なのだ。渋谷駅の東南東に位置する國學院大學では、学部横断的にさまざまな角度から渋谷を研究し、発信する「渋谷学」を推進している。経済学部の田原裕子教授は、再開発を行っている渋谷区や地元企業と連携しながら、再開発を経た渋谷がどうあるべきかを研究している。また、田原教授が指導する学生が再開発によって新たに創出される渋谷川沿いの遊歩道や広場に賑わいをもたらす施策について考え、区長に提案した。
渋谷は谷間にある小さい土地なので、仕事と遊びと生活の空間が一体化しており、SNSだけでは得られない偶然の出会い(セレンディピティ)があふれていることも渋谷の魅力の一つである。カウントダウンやハロウィンが盛り上がる理由がここにもある。

田原裕子教授(國學院大學経済学部)

専門分野は地域における人口減少や少子高齢社会に関わる諸問題の研究で、最近の研究テーマは「渋谷経済」。渋谷に拠点を置くクリエイティブワーカーたちの新しいワーク・ライフスタイルに注目して研究をしている。