2018年度東京大学個別試験 分析速報

■分量と難度の変化(地歴…時間:2科目150分) 
・大問3題の構成で,論述問題が中心。
・総論述字数は1080字で,2017年度の960字から増加した。
・全体的な難易度は昨年並みであった。
■今年度入試の特記事項 
・第1問は近・現代の女性の活躍と地位向上というテーマ史的な出題であった。
・第3問では写真・史料・地図などの資料が多く用いられたほか,1行の論述問題が1問出題された。小問数は2017年度と同じく10問であったが,小問内でさらに複数の問いに分かれるものもあった。
・時代・地域ともに大きな偏りはなく出題された。学習が手薄になりやすい宗教・社会・文化の比重が大きく,正確な知識が求められた。
■合否の分かれ目 
・第1問は600字の論述問題であり,設問の要求に沿って論旨が通った解答にまとめあげる論理的思考力・文章表現力が不可欠であった。
・第2問は学習が手薄になりやすい宗教史から出題された。教科書の全範囲の磐石な知識が求められる。
・第3問は,資料が多用されて見慣れない出題形式となっていたため,とまどった受験生も多かっただろう。とはいえ問われている事項は基本的であったので,第1問・第2問の論述問題や地歴のもう1科目に時間を割くためにも,手早く処理しつつ落ち着いて取り組み,確実に得点したい。例年以上に時間配分のコントロールが必要とされた。
■大問別ポイント
 第1問 

・19〜20世紀の男性中心の社会の中で活躍した女性の活動と,女性参政権獲得の歩みや女性解放運動についての論述問題であった。制限字数は600字。
・問題の要求は読み取りやすく,一見すると問題文と指定語句を手掛かりに大まかな構成を組み立てることはさほど難しくない。しかし,設問の要求に照らし合わせて各事項の歴史的な意義を考察し,論旨が通った完成度の高い解答にまとめあげるのは難しかっただろう。
・指定語句の「人権宣言」「産業革命」の使い方にはやや悩まされたかもしれない。また,要求に沿って関連する事項を具体的に肉付けしていく必要があった。
 第2問 
・宗教の生成・伝播・変容をテーマに出題された。論述字数は合計で450字(120字×1,90字×3,60字×1)と昨年よりも増加し,単答問題も出題された。
・問(1) (a)の仏教・ジャイナ教に共通する特徴についての論述問題は,それぞれの特徴を正確に押さえていないと共通点を見出すことができない。また,(c)の大乗仏教の特徴についての論述問題も,思想の内容に踏み込んだ正確な記述が必要とされた。いずれも内容に比して制限字数が多かったこともあり,盤石な知識が求められた。(b)の単答問題は確実に正解したい。
・問(2) (a)は写真・地図を用いた出題であったが,問われているのは基本事項。(b)も頻出のテーマであるため,いずれも手堅く得点したい。
・問(3) (a)はキーワードだけでなくその内容まで正確な知識が必要とされた。(b)の経緯は基本事項であるため,必要な要素を端的にまとめたい。カルヴァン派の批判点についてはやや盲点だったかもしれない。
 第3問 
・問われている語句は決して難度の高いものではなかったが,写真・史料・地図などの資料が多用され,また,各小問の問題文が長く婉曲な問い方をしているため解きづらく感じたかもしれない。とはいえ,提示された資料は奇抜なものではないため,問題文・資料を落ち着いて読み取ることができれば,十分高得点をねらえる出題であった。
・問⑸の小論述は字数が短いため,短時間で書くべき要素を取捨選択する判断力が必要であった。

東大世界史攻略のためのアドバイス

東大世界史を攻略するには、次の3つの要素を満たす必要がある。
●要求1● 第3問は磐石な知識力が必須!9割以上をめざせ!
  ほとんどが基本的な知識に関する出題であるため,合格のためには9割以上の得点をめざしたい。但し,文化史や現代史など学習が手薄になりやすい範囲からの出題も頻出なので,注意が必要である。
●要求2● 第2問は「知識の正確さ」「設問の要求に応じた記述ができているか」に注意!
  概ね基本的な内容から問われるが,その分知識が不正確だったり設問の要求を意識できていない解答を書いたりすると,大きく減点されてしまう。日頃から,知識が正確に定着しているか,年代や“意義”・“影響”などの設問の要求に正しく応えているかを意識して,解答を作成する練習を積みたい。
●要求3● 第1問は「読解力」「論理的思考力」「文章表現力」を鍛えよ!
   東大世界史第1問は,字数が450〜600字程度と非常に長く,時代・地域を越えた広い視野で世界史を考察することが求められるので,難度は高い。知識に不足がないことはもちろんだが,問題文から要求を読み取る「読解力」,解答を組み立てるための「論理的思考力」,長い字数であっても筋の通った解答を作成する「文章表現力」が必要となる。こうした力は一朝一夕で身につくものではないので,ほかの受験生に差をつける完成度の高い答案を書くためにも,早いうちから論述対策を始めよう。第三者に添削してもらうことにより,表現力を磨き,文法的にも正しい文章を書けるようにしておきたい。
▼「東大コース」世界史担当者からのメッセージ
・第1問は近・現代史における女性をテーマとした出題でした。教科書とは異なる切り口にとまどった受験生や,知識不足により苦戦した受験生も多かったかもしれませんね。しかし,テーマ史の題材としては決して物珍しいものではなく,現在の世界が抱える差別・格差といった問題に深く関わるテーマです。入試改革や学習指導要領の改訂が間近に迫る中,東大入試に限らずこうしたテーマからの出題は増えていくことが予想されます。ぜひ,現在の世界が抱える課題について考えるための手掛かりの1つとして世界史の学習を捉えてほしいと思います。
・第2問は例年,必要とされる知識は基本的です。しかし,単答問題で問われたら答えられても,論述問題だと前後関係を誤認していたり,正確な説明ができなかったりするものです。単なる用語暗記に留まらず,その事象がどのような内容で,歴史上どのような意義を持ったのかといったことを常に意識しながら学習に取り組んでほしいところです。2018年度の第2問は宗教史からの出題でした。世界史学習では手薄になりがちな分野ですが,東大入試ではこうした学習が手薄になりやすい分野からの出題がよく見られます。早期から対策を重ねることで磐石な知識を固めましょう。
・手早く確実に処理したい第3問で資料が多用されたことに,驚き,焦った受験生は多かったことでしょう。予想外に時間を使いすぎてしまったという人もいたのではないかと思います。とはいえ,必要とされる知識は例年と変わりません。どんな形式で出題されても対応できるよう,盤石な知識を固めるとともに,たとえ時間配分が思い通りにいかなくても,他の問題でリカバリーすることができる臨機応変な実戦力を,問題演習を通じて身につけておきたいところです。