2018年度東京大学個別試験 分析速報

■分量と難度の変化
・全体の分量は、文系・理系ともに昨年度と同程度。
・全体の難度は、主に漢文の難度の揺り戻しにより文系・理系ともに昨年度よりやや難化した。極端に易しい/難しい大問はなく、国語の読解・記述の実力の有無が反映されやすい出題であった。
■今年度入試の特記事項 
・第一問(現代文)では昨年度と同様に2行解答欄の説明問題が従来より1問減り、全5問の構成となった。
・第二問(古文)では2015〜2017年度に引き続き、4年連続で和歌を含んだ物語からの出題となった。和歌に傍線部が引かれて解釈が問われたのも2015〜2017年度と同様。
・第三問(漢文)では昨年度に引き続いて(一)の口語訳の傍線部が3箇所となり、設問数は文系4問/理系3問(枝問も含めると文系6問/理系5問)であった。文系のみ(二)、文系(四)/理系(三)が1.5行の解答欄の出題となったことで、解答の分量は昨年度より増加した。
■合否の分かれ目 
・第二問の古文は、昨年度に比べて読み取りやすい文章であったが、設問要求に沿って解答を的確にまとめられるかどうかで差がつく。細部の文脈まで丁寧に読み取り、1行の解答欄の中にポイントを漏らさず解答を作成する記述演習を積んでいるかどうかで得点に差が出ただろう。
■大問別ポイント
 第1問(文理共通現代文)
  出典:野家啓一『歴史を哲学する 七日間の集中講義』
歴史学における概念・出来事や理論的「探究」手続きの意味について、自然科学・地理学など別の学問領域の事例を援用しながら説明した文章。似たテーマを扱った歴史論の文章や、「虚構」「抽象」といった評論頻出の概念の取り扱いについて、事前の問題演習で慣れていると内容を把握しやすかっただろう。
・解答欄に収まる字数で要点をまとめる点で力が問われるのは例年と同様だが、個々の設問でどこまで踏み込んで解答すべきか、答案としてのまとめ方がやや難しい。(一)は素粒子(理論的存在)、霧箱や泡箱による間接的証拠、間接的証拠を支える現代の物理学理論といった構造を的確にとらえて示したい。(二)は「虚構」の示す意味合いを、直後に示される理論的存在の「実在」「実証」と対比的にとらえることが求められる。(三)は歴史的出来事が「抽象的概念」であること、「知覚」ではなく「思考」の対象であることをそれぞれ端的にまとめる必要があり、字数が厳しい出題。
・(四)の120字記述は例年同様、「本文全体の論旨」を踏まえてまとめさせる出題。「問題文の要約」ばかりを意識すると説明に必要な字数が不足してしまうため、あくまで傍線部に即した内容説明となるよう心がけたい。
・(五)の漢字の書き取りはいずれも基本的な出題であり、満点を確保したい。
 第2問(古文)   出典:『太平記』
・軍記物語からの出題であったが、男女の和歌のやりとりという場面設定は昨年度と同様で、リード文から人物関係を押さえて読み取る必要がある。問題文の大筋をつかむことはそれほど難しくないが、設問要求に沿ってポイントを漏らさず解答を作成するには高度な記述力が要求される。
・(一)の現代語訳は、「なかなか」「たより」といった語を、文脈に即しかつ基本語義から離れない形にうまく訳出しなければならない。
・文系(三)/理系(二)は、指示語の説明であることに注意して、〈誰の何に対する心か〉まで漏らさず説明する必要がある。
・文系のみ(四)は、「掛詞に注意して女房の立場から説明せよ」という設問条件を踏まえ、古歌を引用することで女房が何を言おうとしているのかを説明する。「妻」と「褄」の掛詞を正確に解釈するのは難しかったかもしれない。
・文系(五)/理系(三)も、単なる現代語訳ではないことに注意し、傍線部後の文脈まで踏まえて解答する必要がある。
 第3問(漢文)   出典:王安石『新刻臨川王介甫先生文集』「上仁宗皇帝言事書」
・寓話が出題された2017年度に対し、官僚が皇帝に進言する「君臣論」からの出題であり、複雑な構文も多く難化した。内容としては第一段落で取り上げた言葉を第二、第三段落で説明する、という典型的な展開をとるものであったが、反語や否定形の句形が多く出てきており、論旨を把握するのに苦戦した人も多いと想定される。
・(一)の現代語訳はいずれも半行で解答する必要があるが、b「尊爵」c「已矣」は各字の語義と文脈を踏まえた意味判断が求められる出題である。
・文系のみ(二)は反語が絡む出題だが「誰がどうするはずだということか」を説明することが求められているので、主意に即して説明したい。
・文系(三)/理系(二)は「所以」「待」の多義語を適切に処理する必要があるが、前後の文脈にヒントが少なく、意味を特定するのに苦労する。
・文系(四)/理系(三)も文系のみ(二)と同様の趣旨の出題だが、やや解釈が難しい文脈もあり、「どうすべき」の内容をどこまで押さえるべきかの判断が難しい。漢文は例年に比しても難しい出題だったので、文脈を踏まえて多義語の意味を慎重に見極め、文章の大筋から踏み外した解答をしないようにしたい。
 第4問(文系現代文)   出典:串田孫一『緑の色鉛筆』
・子供と動物のあいだで沈黙のうちに交わされる〈対話〉について述べた文章。筆者の思想・心情は読み取りにくいものではなく、各傍線部の趣旨自体も一見わかりやすいものが多いが、答案としてまとめる際の記述・表現のしかたに工夫が求められる。傍線部の理由説明問題2問、内容説明問題2問の4問構成。
・(一)「お膳立て」、(二)「人間性の匂い豊かな舞台」はそれぞれ、比喩的な表現を説明できたかで差がつく。
・(三)は、どのような点をどのように「思い違い」しているのか、という解答の構造を意識して説明したい。
・(四)では、本文の「沈黙」という表現から〈子供は小動物と言葉を介せず触れ合う〉ことを説明したうえで、そこからどのようなことを子供は得ることができるのか、本文全体の内容を踏まえて解答をまとめる必要がある。

東大国語攻略のためのアドバイス

東大国語を攻略するには、次の3つの要素を満たす必要がある。
●要求1● 基本的な語彙力
   東大国語では、専門的で難解な言葉はあまり出題されない。それだけに、受験生として、そして未来の東大生として必須の基本語彙を、現・古・漢において押さえていることが前提となる。語彙の学習が不足している人は、Z会の書籍『現代文 キーワード読解』『速読古文単語』『文脈で学ぶ 漢文 句形とキーワード』などを活用し、積極的に補っておきたい。
●要求2● 文脈を理解する読解力
   東大国語でよく出題されるのは、入試頻出のジャンルで、かつ論旨やストーリー展開が明快な問題文である。書かれている内容を自分の主観で歪めずに、制限時間内に正しく読み取れるかが問われている。付け焼刃的な対策では対応できず、さまざまな文章を深く読み込んだ経験の量で差がつくようになっていると言えるだろう。
●要求3● 狭い解答欄にまとめる記述力
    東大国語の設問は、すべてが記述式問題である。その理由は東大が国語の知識だけではなく、運用能力を見ようとしているからだ。詳しくは、東京大学のWebサイトで公開されている「高等学校段階までの学習で身につけてほしいこと【国語】」をぜひ読んでもらいたい。
   受験生の夏までは、多様なジャンルの文章に触れながら、●要求1●●要求2・3●に対応できる力を同時に鍛えていこう。東大は入試頻出ジャンルからの出題が多いため、Z会の通信教育の本科「東大文系国語/東大理系国語」を通じて現・古・漢の「必修テーマ」を体系的に学習すると効果的である。まずは制限時間を考えずに、読解経験を積みつつ、解答欄を埋められるようになろう。
 夏以降は東大即応形式の問題演習を増やしていき、●要求3●に対応する力をさらに磨いていくとよい。受験生の9月からのZ会の講座では、Z会の通信教育・Z会の教室・Z会の映像、いずれも東大対応のオリジナル問題を出題していく。添削指導を受けることで、徐々に解答の質を高めることができるはずだ。最終的には過去問に加えて、東大型の予想問題にも取り組んでおきたい。問題に取り組む際には、大問ごとの時間配分(現代文:50〜60分、古文漢文:25〜30分)を意識して解くなど、より本番に近い形での演習をするとよい。
 「読めるけど書けない」状態からなるべく早期のうちに脱出することが、東大合格の鍵となる。Z会の教材を活用し、さらにZ会によるプロの添削指導を受けることで、東大合格に直結する語彙力・読解力・記述力をバランスよく養成してほしい。
▼「東大コース」国語担当者からのメッセージ
・第一問(現代文)は、過去の歴史的出来事を歴史学がいかに扱うかを述べた文章。しかしながら、【学問上の個々の概念・存在は一定の理論・コンテクスト(文脈)と不即不離の存在であり、理論に基づく一連の手続きによってはじめて保証される】という文中で述べられる「探究」のあり方は、歴史学に限らず学問に触れるすべての者に求められる姿勢であり、受験生に対する東大からのメッセージを強く感じる出題でした。
・今年度の東大国語では、いずれの大問においても出題の本質的な部分に関する変更はありませんでした。いずれの設問も解答欄が一行(または半行)と狭い第二問(古文)の出題に代表されるように、〈語彙力・記述力を活用し、読み取った内容を的確にまとめる力〉が、これまでと変わらず重視された出題であったといえます。
・東大国語対策では、東大の過去の出題傾向を十分に研究し、それに対応した問題演習を積むことが非常に重要です。Z会では長年の入試分析をもとに、本科「東大コース」、専科「東大即応演習」「過去問添削」など、東大合格までの道筋を支える講座を多数用意しています。良質な問題と添削指導を通じて盤石の実力を養成し、東大合格をつかみ取りましよう!