「英語」2018年度東京大学個別試験分析
2018年度東京大学個別試験 分析速報
■分量と難度の変化
・分量:変化なし
・難易度:変化なし
・分量:変化なし
・難易度:変化なし
■今年度入試の特記事項
・1(B) 従来の文補充に加えて,本文の内容を15〜20語程度の英語で要約するという問題が新たに出題された。
・2(B) 自由英作文が2(A)のみでの出題となり,2(B)では1997年以来となる和文英訳が出題された。
・3(A)(B)(C) 選択肢が5個に増えた。
・4(A) 昨年度の「誤りを含む下線部を各段落から1つずつ選ぶ」という出題形式ではなく,2015年度以来出題されていなかった語句整序の問題が出題された。
・今年度も新形式の問題がいくつか出題されたが,いずれも求められる力は例年通りのものであったと言える。東大入試レベルに合わせた英語力の養成をおこなっていれば対応できたと思われるが,形式の変化に合わせてアウトプットの形を整えるのは苦労したかもしれない。
■合否の分かれ目
・例年通り,英語の発信力・受信力・批判的な思考力を試す問題がバランスよく出題された。
・大問別に見ると,第1問A,第4問あたりが比較的取り組みやすかった一方で,第1問Bや第2問Bで新形式の問題が出題されたこと,第3問で分量が増加したこと,第5問で難化したことにより,例年通りの負担感のある問題構成となった。取り組みやすい問題をできるだけスピーディーに処理し,負担感の大きい問題にかける時間を確保したい。
■大問別ポイント
1(A) 要約
・「噂が拡散する仕組みと誤った噂を防ぐ方法」についての約350語の英文の要約問題。
1(A) 要約
・「噂が拡散する仕組みと誤った噂を防ぐ方法」についての約350語の英文の要約問題。
・本文のパラグラフ数は5から3に減ったものの,語数はほぼ昨年度と同様であった。
・制限字数は昨年度と同様の70〜80字。パラグラフ構成は明解であり,第1〜2パラグラフの内容から「噂が拡散する仕組み」について,第3パラグラフの内容から「誤った噂を防ぐ方法」について,それぞれ要約文に織り込めばよいということはわかりやすいが,昨年度同様字数的余裕がないため,制限字数内でまとめるのはやや苦労するかもしれない。
・意味を把握しにくい語句も文構造もなく,内容として読みやすいが,popular confirmation や in-group momentum といった英語表現をどのような日本語に置き換えるかで迷うかもしれない。
1(B) 長文読解(文補充,英語要約)
・「言語化が記憶に与える影響」についての英文。語数は補充する選択肢を含めて約860語。
・文補充という形式は昨年度と同様だが,今年度は本文の内容を15〜20語程度の英語で要約するという形式の問題が新たに出題された。・
・文補充については,昨年度は5箇所の空所に対して6つの選択肢のみであったが,今年度は2013〜2015年度と同様に,5箇所の空所に対して選択肢が8つ与えられた。
・昨年度同様,心理学の研究結果がテーマとなっている。科学的な内容のため本文の論旨は明快であり,内容を把握しやすかったはずである。
・文補充の選択肢には指示語やディスコースマーカーなどの手がかりが多く,迷うようなダミー選択肢もほとんどなかったため,本文の論旨さえつかめていれば取り組みやすかっただろう。
・英語要約に関しては制限語数内にまとめるのに若干苦労するかもしれないが,含めるべき情報の選別自体は難しくはなかったはず。
・この問題の解答の見極めにかける時間が,全体の時間配分に大きな影響を与えやすいので,問題を解く順番や時間配分に特に気をつけておきたいところである。
・この問題の解答の見極めにかける時間が,全体の時間配分に大きな影響を与えやすいので,問題を解く順番や時間配分に特に気をつけておきたいところである。
2(A) 自由英作文
・シェイクスピアの戯曲『ジュリアス・シーザー』からの引用を読み,思ったことを40〜60語の英語で述べる問題。
・引用は和訳が与えられているものの,内容が抽象的であるため,自分の思ったことをまとめるのはやや難しい。
・引用が「自分自身を客観的に見ることは難しい」というメッセージ性を持っていることに気づき,それに沿って自分の思ったことを書きたい。
・東大の自由英作文では毎年,英語の知識や正確な文法・語法の運用力だけでなく,自由な発想力も求められるので,過去に出題された,さまざまな形式の問題に取り組むとともに,日ごろから柔軟な思考力も養っておくとよい。
2(B) 和文英訳
・下線部の日本語を英訳する問題。
・和文英訳は1997年以来の出題であった。
・1文が長いため,英文の構造を決定するのに苦労するかもしれないが,一語一語の訳出自体はそれほど難しくない。
・「よしとしている」は「満足している」と読み換えれば,be satisfiedと書ける。「いつのまにか」はbefore you know〔realize〕 itが定番表現。
3 リスニング
・昨年度同様,(A)と(B)は連続した内容で,(C)のみ独立していた。出題形式がすべて英問英答の選択式であることも昨年度同様である。
・ (A)と(B)はともに「対話形式」になっており,(A)で,ある研究者が見解を述べ,(B)で,その研究者の主張をもとにして他の研究者とディスカッションをするという形式。これは2013年の(B)と(C)の形式に近い。
・昨年度に引き続き,(A)5問,(B)5問,(C)5問であった。
・選択肢が(a)〜(e)まで5つあった。検討すべき要素が増え,その分負担が増えたと言える。
・(C)は,設問文に空所があり,それを埋める形で選択肢を選ぶ問題であった。
・昨年度と同様に,ほぼ設問の順序と英文での順序が一致しており,取り組みやすかっただろう。
・選択肢が(a)〜(e)まで5つあった。検討すべき要素が増え,その分負担が増えたと言える。
・(C)は,設問文に空所があり,それを埋める形で選択肢を選ぶ問題であった。
・昨年度と同様に,ほぼ設問の順序と英文での順序が一致しており,取り組みやすかっただろう。
(A)「マサイ族における,相互に助け合う社会システム」に関する約510語のインタビュー。
・正答の選択肢の表現が,音声中の言い回しから言い換えられている点に注意。例えば(6)は,音声中の under constant threat from thieves が選択肢では losing cattle に,音声中の lack of rain が選択肢では(extended periods) without rain にそれぞれ言い換えられている。
・選択肢が長く,誤りの選択肢でも,本文の内容に合っていると思われるフレーズがところどころ含まれており,判断に迷うものもあるが,誤りの選択肢には,確実に本文の内容に一致しないと判断できる要素が含まれているので,そこを見逃さないようにしたい。そのためにも,設問文に含まれているキーワード周辺の音声を注意深く聴かなくてはならない。
・(7)は,マサイ族の相互に助け合う社会システムが,「助けを求められたら,助けなくてはならない」というシステムであることを理解したうえで選択肢を吟味したい。
・(7)は,マサイ族の相互に助け合う社会システムが,「助けを求められたら,助けなくてはならない」というシステムであることを理解したうえで選択肢を吟味したい。
(B) (A)の内容に関する約700語の,3人による議論。
・設問文に含まれるキーワード周辺の情報を確実に聴き取りたい。
・(A)同様,(B)でも,正答の選択肢の表現が,スクリプト中の言い回しから言い換えられている。(11)では encourages laziness/encourages dependence → stop wanting to do things for themselvesと,(12)では everyone can easily see whether a neighbor is truly in need or not → The Maasai find it easier to know whether those around them are in trouble と言い換えている。
・(13)は,スクリプト中で, people who receive the most money from their friends なのは those who themselves have a good reputation for giving である,と述べられていることを正しく理解しなければ,c)とe)で迷ってしまうだろう。
・(14)(15)は2人の主張の違いをしっかり聞き取ることが求められる。部分的にではなく,全体を通して主張を汲み取らなければならない。
・(14)(15)は2人の主張の違いをしっかり聞き取ることが求められる。部分的にではなく,全体を通して主張を汲み取らなければならない。
(C)「巨大な波の仕組みと対策」(約430語)
・昨年度はエッセイ・物語調の英文であったが,今年度は例年通りの説明文に戻った。
・読み上げられる英語は平易で,かつ話の展開が明快であったため,内容は理解しやすかっただろう。
・設問文の空所を埋める形で選択肢を選ぶ形式だったことから,聴き取るべきキーワードが容易に判断でき,また,各選択肢も,極端に短かったり,言い換えを多用しない素直なものが多かったりしたため,解答を絞りやすかったと思われる。
・(18)は,one 〜 period の one に惑わされないようにする。
・(19)は,the standard theory と new theory の違いをしっかりと聴き取りたい。
・(19)は,the standard theory と new theory の違いをしっかりと聴き取りたい。
(全体)
・時事ネタも含め,あらゆるテーマについて日ごろからリスニングの演習を積んで,「英語耳」を作っておくことは前提である。これから受験する人は,すぐにでもリスニング対策を始めること。
4(A) 語句整序
・昨年度の「誤りを含む下線部を各段落から1つずつ選ぶ」という問題ではなく,2015年度以来出題されていなかった語句整序の問題が出題された。
・「探偵小説の変遷」に関する英文中に4箇所空所があり,それぞれ与えられた7〜8語の単語を,最も自然な英語に並べ替える。語群には不要語が1語含まれている。解答する際には,並べ替えた英文の3番目と6番目にくる単語を解答する。
・英文の語数は約170語であり,昨年度の620語から大幅に減少した。
・特に(21-22),(25-26),(27-28)は,文脈をふまえて英文を組み立てる必要がある。
・形式は変化したが,確固たる文法・語法知識を構築できていたかどうか,そしてその知識を用いて落ち着いて問題に取り組めたかがカギとなったという点は昨年と変わらない。まず,論の展開を着実に押さえて,どういった内容が入るべきなのかあたりをつけた上で,文法ルール上誤りのない形で英文を組み立てたい。
・(21-22)は,空所の後に too があるので,語群に含まれる単語をふまえて,空所の直前にある solving the puzzle が空所にも含まれることを把握したい。空所以下は結果を表す分詞構文と考えられ,接続詞を用いて書くとand they invite readers to solve the puzzle tooのようになる。
・(21-22)は,空所の後に too があるので,語群に含まれる単語をふまえて,空所の直前にある solving the puzzle が空所にも含まれることを把握したい。空所以下は結果を表す分詞構文と考えられ,接続詞を用いて書くとand they invite readers to solve the puzzle tooのようになる。
・(25-26),(27-28)については,detective story と science の対比をふまえる必要があった。中でも(25-26)はhold the answerという表現を組み立てるのが難しかったかもしれない。
4(B) 下線部和訳
・「鳥の知能」に関する約260語の英文。
・下線部は3問で昨年度から変化なし。
・語数は,昨年度は約300語だったが,今年度は約260語で微減。
・全体として,語彙や文構造は難しくないが,日本語に訳す際に工夫が必要な箇所が多い。各下線部の主なポイントは以下の通り。
・(ア):前文の200 to 400 billionという数字と,世界の人口約70億人を照らし合わせて,「人間1人あたりに対して,およそ30羽から60羽の鳥が存在する」という内容を理解したい。
・(イ):〈make+it+all the more surprising+that …〉(…をよりいっそう驚くべきことにしている)と,that節内の〈find+it+hard+to …〉(…するのが難しいとわかる)という,仮目的語を用いた2つの構文が存在することに気づきたい。また,the ideaと同格のthat節,waysを修飾する関係詞節(which) we can’t imagineなどの構造も理解した上で訳出する。
・(ウ):when節では,部分否定not quite(完全に…なわけではない)と,動詞match(〜と対等である)とmirror(〜と似ている)の訳出がポイント。主節では,insightがthe seeds of itの具体例であること,whichの先行詞がinsightであること,define A as B(AをBと定義する)が受動態で用いられていることを見抜きたい。また,the sudden emergence of a complete solutionという名詞表現は直訳するとわかりづらいので,「完璧な解決策が突然浮かぶこと」のように,動詞化して訳出したい。
5 長文読解
・耳の不自由な娘と,母の葛藤がテーマの物語文。物語文からの出題は2015年以来となる。語数は930→877語と昨年から若干減少。
・小説らしい間接的な表現や,代名詞・省略が多用された会話表現が随所に使われており,ざっと読んだだけでは全体の内容を掴みにくい。母と娘の心情を読み取るには,文脈や表現に注意しながら丁寧に読み進める必要があった。
・記述問題は下線部和訳問題1題と,内容説明問題1題。また7年ぶりに長文読解問題の中で整序英作文が出題された。選択式の問題は本文の空所補充問題と,英文中に省略されている内容を選ぶ問題。
・英文が短くなった分,設問の作業量が増加し,全体としてはほぼ昨年と同様の負担感であった。
・(A)難しい単語は含まれていないにもかかわらず,短い文中に2つitがあり,漠然とした印象の英文で非常に日本語に訳しにくかっただろうと推測される。文頭のItはnot to have mentioned it,文尾のitはshe was deafを指す。it is like+名詞+to do「…するとは〜らしい」の意味。
・(B)(B32)は直後の文のYou know (good and well) I do. が判断のポイントとなっており難易度が高かった。その他は比較的容易。
・(C)最初の2つの空所の後に続くShe hadn't heard herself …という内容,3つ目の空所の主語がa harsh whisper であることとsound〈挿入句〉like〜というつながりに気づけば「聴く」ことに関する動詞が入ると分かる。
・(D)下線部の前にあるwithdrawは,選択肢d)のretreatとほぼ同義で「(精神的に)自分の殻に閉じこもる」の意味。
・(E) cannot help…ing「…せずにはいられない」はhelp「(物・事を)避ける,防ぐ;…をこらえる」の意味から来ていると知っていれば,cannot help oneself「自分(の感情)を抑えられない」を推測できただろう。
・(F)与えられた語群には関係詞がないので,設問指示の「どこか1か所にコンマを入れること」という指示は,「同格を表すコンマ」というヒントとなっていた。buildingsをonesで受けて同格で並べることと,photographを動詞として使うことがポイント。
・(G)文脈からJaneyは母親から依頼のあった掃除を断るつもりであることが分かる。It(=cleaning) will wait.で「急ぎません(後回しにできる)。」の意味。postpone「〜を延期する」は意味としては妥当だが,cleaningを指すitが目的語にならなければならないのでここでは不可。
東大英語攻略のためのアドバイス
東大英語を攻略するには、次の3つの要求を満たす必要がある。
●要求1●「基本=易しい」と甘く見てはいけない
難易度が高い語彙はあまり登場しないが,文脈や時系列の把握が難しい英文を題材にしたり,基本語の盲点となる用法を設問としたりすることがあり,基本事項の習得が疎かだと得点を伸ばすことができない。
難易度が高い語彙はあまり登場しないが,文脈や時系列の把握が難しい英文を題材にしたり,基本語の盲点となる用法を設問としたりすることがあり,基本事項の習得が疎かだと得点を伸ばすことができない。
●要求2● 高度なリスニング力を身に付けよう
東大のリスニングは,放送時間が長いのに加え,聞き取り問題として扱うには高度な英文を題材にしたり,複数の放送の内容が関連していたりして,解答には高度なリスニング力が求められる。差がつきやすい問題の1つなので,対策には十分時間をかけておく必要がある。
東大のリスニングは,放送時間が長いのに加え,聞き取り問題として扱うには高度な英文を題材にしたり,複数の放送の内容が関連していたりして,解答には高度なリスニング力が求められる。差がつきやすい問題の1つなので,対策には十分時間をかけておく必要がある。
●要求3● 時間管理力を付けよう
東大入試英語の最大の壁は,与えられた試験時間内に膨大な問題に適切に解答できるかどうかである。まずは時間を意識して問題を解くこと。読解量もさることながら,大意要約や自由英作文など記述に時間がかかる問題も含まれているので,日ごろから答案作成→第三者による添削→添削内容の習得・答案改善のサイクルを築いて,質の高い答案を迅速に作成できるようになっておかなければならない。
東大入試英語の最大の壁は,与えられた試験時間内に膨大な問題に適切に解答できるかどうかである。まずは時間を意識して問題を解くこと。読解量もさることながら,大意要約や自由英作文など記述に時間がかかる問題も含まれているので,日ごろから答案作成→第三者による添削→添削内容の習得・答案改善のサイクルを築いて,質の高い答案を迅速に作成できるようになっておかなければならない。
まずは基礎力の完成を目指すこと。文法事項を網羅的に習得した上で,さまざまな英文を正確に読めるようにしておこう。また,対策にあてた時間が得点に直結しやすい要約・自由英作文の記述対策にも早い段階から取り組んでおきたい。
基礎力が身に付いたことを実感できるようになったら,答案の精度を上げていく一方で,時間管理力をつけるために時間を計って演習し,自分の課題を確実に消化しておこう。
最後に,自分で納得できる答案を試験時間内に書けるような時間配分を感覚として身につけておいてほしい。試験本番は必要以上に時間をかけて問題に臨んでしまい,時間配分がうまくいかないこともある。ある程度余裕のある戦略を組み立てられるように,問題に十分慣れておくこと。過去問研究の差が明暗を分ける。
▼「東大コース」英語担当者からのメッセージ
・第2問Bで和文英訳が出題され,驚いた人も多かったと思います。なんと21年ぶりの出題です!「正しく英文を組み立てる」という力が求められるという点は,和文英訳も自由英作文も同じですが,和文英訳において強く求められる「意味を損ねない範囲で日本語をかみくだいて,自分の知っている英語表現に引き寄せる」という作業は,慣れていないとちょっと難しかったかもしれません。
・第1問B,第4問Aは例年,「今年は何が出るのか」が気になる問題ですが,第1問Bは昨年度と同じ文補充,第4問Aは2015年度以来の語句整序でしたね。第1問Bの文整序は,ありがたいことに手がかりが多く,難易度もそこまで高くなかったと思うので,新形式の英語要約に時間を割けるよう,うまく時間配分を考えて取り組みたいところでした。第4問Aは英文の語数が激減しましたし,内容も小難しいものではなかったので,英文を読む分にはそこまでハードルは高くなかったと思います。ただ,文脈をふまえて整序しなくてはならない空所がいくつかあったので,そこだけ慎重に検討した上で,英文を組み立てる必要がありました。
・例年,東大は何かしらの形式変更を加えてきますが,今回の和文英訳のように,過去に出題していた形式を再び登場させる,ということが珍しくありません。「過去問演習をしっかりとやる」「東大にはこの形式しか出ない,というように,取り組む問題の形式を絞り過ぎず,総合的に英語力を伸ばす勉強をおこなう」ということが非常に重要となります。
・東大英語は決して語彙・内容面で難しいものではありません。だからといって,意味を理解しただけでは得点にはつながらないことも事実。解答を作成するための日本語・英語での記述力こそが最大のポイントです。