「化学」2018年度東京大学個別試験分析
2018年度東京大学個別試験 分析速報
■分量と難度の変化(理科…時間:2科目150分)
・2017年度に比べると,やや難化した。それでも,どの中問も東大受験生にとってはかなり標準的な問題で,それぞれ完答もめざせる内容だった。
・2016年度までは大問3問とも2つの中問があり実質6題だったが,2018年度は大問として有機,無機,理論分野が1問ずつ,そのうち理論分野のみが2つの中問に分かれており,実質4題の出題であった(2017年度は実質5題の出題であった)。小問数でみると,2015年度34問,2016年度27問,2017年度24問と減少していたが,2018年度は29問となっている。中問数こそ減ったものの,2017年度に比べると,全体の分量はやや増加したといえる。
■今年度入試の特記事項
・出題順が,2017年度に続き,第1問:有機,第2問:無機,第3問:理論 の順であった(2016年度以前は,第1問:理論,第2問:理論・無機,第3問:有機,の順)。
・第1問,第2問は中問に分かれておらず,実質4題の構成だった(2016年度以前は,大問3題がそれぞれ2つの中問に分割され,実質6題の構成)。
・論述問題はいずれも文字数指定がなかった。
・グラフ描画問題が出題された。
・煩雑な計算を必要とする問題は少なく,計算しやすい値の計算問題も多くみられた。
■合否の分かれ目
・2018年度は2017年度と同様に,各問題の難度が低かったため,合格には例年以上に高得点が必要になると考えられる。手間のかかる問題は少ないが,小問数は多いので,解ける問題を優先して解き,得点をしっかりと確保することが重要だっただろう。
・ほとんどの問題で内容が標準的だったこともあり,長い問題文の題意を読み取って解答するより,身につけた知識を使いながら時間をかけずに手際よく解き進めていく力が必要。試験時間に対して分量は多いため,処理速度の速さが高得点につながる。
・論述問題には文字数指定はないため,必要なポイントを押さえて的確に論述できたかどうかで差がついただろう。
■大問別ポイント
第1問
第1問
<有機> 環状ジペプチド
有機化合物とアミノ酸の正確な知識があれば,ほとんどの問題は悩まずに解答できる。冒頭で描かれた環状のジペプチドは見慣れない図かもしれないが,各アミノ酸に分けて考えられれば難しくはない。思考力を要するオや,やや手間のかかるク,論述問題のケを正解できたかどうかで差がついたと考えられる。
・アのようなアルコールとナトリウムの反応は,水素が発生することを覚えるとともに,化学反応式も書けるようにしておくべきである。
・イ,ウの,アミノ酸の呈色反応は基本知識であり,即答したい。
・エは,基本的な問題。実験2から,Aに硫黄Sが含まれていることがわかれば正解できただろう。
・オの,立体異性体の考え方は,やや難度が高かっただろう。深く考えすぎてメソ体を考慮しようとして,間違えてしまった受験生もいたかもしれない。A,B自身は含めないことにも注意して,正確に解答したい。
・カは,配向性に関する情報が与えられておらず,自信をもって解答することは難しいかもしれないが,教科書で扱う2,4,6-トリブロモフェノールの合成反応から類推してほしい。
・キは,元素分析の基本問題であり,即答したい。
・クは,キで得られた炭素原子と水素原子の数の比をヒントに考えれば解答は一意に決まるが,解答するのにやや時間がかかるかもしれない。
・ケは,酸性アミノ酸や塩基性アミノ酸の側鎖を選択できれば,容易に正解できる。中性条件下では双性イオンになることも難しくはない。
・コは,環状化合物をつくり,さらにアミドにした構造を描くのに時間がかかるかもしれないが,考え方は難しくなく,東大受験生であれば難なく正解したい。
第2問
<無機・理論> 金属とその化合物
金属とその化合物を題材に,金属の性質や工業的製法の基本知識,計算力,表から必要な値を選ぶ力などの総合力が問われた。ウやキで悩むかもしれないが,全体的に難度の高い問題はなく,東大受験生であれば完答をめざしたい大問である。
・アの各化学反応式は,教科書で必ず学ぶ基本的な知識で,絶対に取りこぼせない。
・イは,問題文と表をヒントに計算をすればよい。計算はきわめて容易。
・ウの論述問題はやや応用的だが,類題を見たことはあるはずだ。イは,ウでイオン半径に着目してほしいというヒントとして出題されたのかもしれない。
・エは,表の値を使って,示されたとおりに計算すればよい。計算結果も,酸化物の方が体積が大きいという順当な結果で,容易な問題といえる。
・オの論述問題は,基本的で,確実に正解したい。ウの論述問題よりも容易。
・カの化学反応式は,教科書で学ぶAl2O3とNaOHの反応式がわかっていれば,難しくない。
・キの幾何異性体は,一度この手の類題を解いたことがあれば描けたはずだが,そうでないと,描き方の例も与えられていないので厳しい。ただ,過去(2012年度,2002年度など)に,東大では八面体構造の錯体を描く問題が出題されているので,過去問の演習を十分に積んでいたかどうかで差がついたと考えられる。
・ク,ケは,いずれも容易な問題で,確実に正解しなければならない。計算もしやすい。
第3問
I <理論> 電離平衡・酸と塩基
アンモニアの電離平衡という基本的な題材の出題であり,前半は基本的な問題ばかりであった。しかし後半のエやオは,問題文の実験処理をきちんと理解できていないと誤ってしまうだろう。これらの問題も正解できたかどうかで,差がついたと考えられる。
・ア〜ウは,東大受験生であれば,時間をかけずに正解したい。ア,ウでは,各時間までに溶かしたアンモニアの量を誤るようなミスをしないように注意。
・エのグラフ選択問題は,途中からアンモニアに代わって水酸化ナトリウム水溶液を加えたことを考慮して選べたかがポイントとなる。また,ウで求めた水素イオン濃度から,t=40分の時点でpHは7を超えているとわかることも,ヒントとなっただろう。
・オは,基本的な題材でありながらも見慣れない形の出題をしており,東大らしい良問である。最終的にアンモニアとアンモニウムイオンの電離平衡を考えることになるが,「この問題文の条件だけで解けるのか?」と頭を悩ませた受験生も多いはずだ。限られた試験時間の中では後まわしになる可能性もある問題だが,過去問としてはぜひ取り組んでほしい。
II <理論> 実在気体,化学平衡,熱化学など
メタンを題材に,さまざまな理論分野の内容が問われた。カは見慣れない出題で難しく感じられるかもしれないが,それ以外はきわめて容易な問題。コでやや時間がかかってしまいそうな点には注意。
・カは,理想気体と実在気体のズレについて,見慣れない形式で問うている。本問では,状態変化も考える必要があり,どこまで丁寧に描けばよいか悩んだ受験生も多かっただろう。採点基準が気になるところである。
・キのメタンの水蒸気改質反応は,教科書ではメインで扱われることはないが,発展的な問題では比較的扱われやすい題材である。解答の化学反応式を見たことがある受験生もいただろう。見たことがなくても,リード文から簡単に化学反応式をつくることができる。
・クは,ごくふつうのルシャトリエの原理に関する問題。確実に正解したい。
・ケは,「平衡に達した」と記されてはいるものの,第3問Iのように平衡に達した後を考えるわけではなく,物質量を整理したらそのまま正解となる。東大にしてはさすがに易しすぎる問題で,もうひとひねりほしかった。
・コは,どれも見慣れた物質に関する反応熱が与えられていて,解き方の方針もすぐに決まるが,とにかく計算に手間がかかるだろう。
東大化学攻略のためのアドバイス
2018年度の東大化学は,2017年度に続き標準的な難易度の出題で,見慣れない題材について長いリード文を読んだり,高校範囲の知識を応用させて考えたりするような出題はほとんどなかったといえる。ただし,出題傾向に関わらず,必要とされる力そのものに大きな変化はないだろう。基本的な事項を,暗記するだけではなく深く理解しておくことはもちろん,例年どおりの難度の高い応用問題が出題されても対応できるだけの十分な力をつけておくべきである。
東大化学を攻略するには、次の3つの要素を満たすことをめざそう。
東大化学を攻略するには、次の3つの要素を満たすことをめざそう。
●要求1● 難問に対応する思考力と応用力
東大化学では,高校で学習する内容をそのままあてはめるだけの問題も出題されるが,合否の決め手となるのは,高校範囲の知識を応用させて考える問題である。よって,基礎力の確立と,それを柔軟に使いこなせる思考力,応用力の養成が求められる。全分野において法則を正しく使いこなせるようになるのが第一である。
東大化学では,高校で学習する内容をそのままあてはめるだけの問題も出題されるが,合否の決め手となるのは,高校範囲の知識を応用させて考える問題である。よって,基礎力の確立と,それを柔軟に使いこなせる思考力,応用力の養成が求められる。全分野において法則を正しく使いこなせるようになるのが第一である。
●要求2● 長い問題文を短時間で読み解く読解力
東大化学では,見慣れない題材についての長い問題文を読み,題意を読み取り解答する問題が出題される。限られた時間の中で問題文を読みこなし,正確に理解する力が要求される。見慣れない題材にも臆さないよう,他大学の過去問(京大・阪大といった難関大)にも目を向けて演習しておくとよい。
東大化学では,見慣れない題材についての長い問題文を読み,題意を読み取り解答する問題が出題される。限られた時間の中で問題文を読みこなし,正確に理解する力が要求される。見慣れない題材にも臆さないよう,他大学の過去問(京大・阪大といった難関大)にも目を向けて演習しておくとよい。
●要求3● 計算問題の解答時間を短縮する計算力
煩雑な計算問題がよく出題される東大化学では,計算力を身につけることが必須である。ふだんの問題演習では,電卓を使用したり,頭の中だけで考えたりするのではなく,実際に手を動かして計算し,計算自体に早いうちからしっかり慣れておこう。
煩雑な計算問題がよく出題される東大化学では,計算力を身につけることが必須である。ふだんの問題演習では,電卓を使用したり,頭の中だけで考えたりするのではなく,実際に手を動かして計算し,計算自体に早いうちからしっかり慣れておこう。
まずは,高校化学の内容を完全に理解することから始めよう。高校化学の内容で曖昧な部分があると,●要求1●を満たすことはできない。近年の東大化学では,応用問題を解くうえで前提となる標準的な内容を確実に押さえることが,よりいっそう求められている。また,有機の「高分子化合物」の単元は対策が遅れがちなので,とくに意識して取り組んでおきたい。Z会の通信教育やZ会の本『化学 解法の焦点』などを利用して,基本的な各単元の理解を確認しながら学習を進めよう。
高校化学全般の内容を理解したら,次に●要求1●を満たすために,高校範囲の内容を応用させて考える問題に取り組んでみよう。このタイプの問題は問題文が長いことが多いため,並行して●要求2●を満たしていくこともできる。Z会の通信教育でも,さまざまなタイプの添削問題を通して,演習を積んでいく。
演習を順調にこなしていけるようであれば,●要求3●もある程度は満たされていくであろう。自分の得意不得意,問題の難易度などを意識し,解答時間内で得点を最大化できるような自分の解き方を身につけてほしい。
▼「東大コース」化学担当者からのメッセージ
今年の東大化学は,昨年度に続き標準的な難易度で,これまでにきっと見たことがある題材の出題がほとんどでした。ただし,そうはいっても,論述問題や,一部の応用問題にみられるように,高校範囲で当たり前に学習する内容を,暗記ではなく「深く理解しているかどうか」を問われる出題だったといえそうです。
そして,ここ2年のような難易度であればもちろん,合格するためにはかなりの高得点が必要になります。当たり前のことではありますが,まずは標準的な問題は確実に正解したうえで,差がつく問題をできるだけ多く正解して,高得点をめざしたいところです。分量は多いので,解く問題に優先順位をつけ,試験時間内にすばやく処理する力が求められるでしょう。
また,数は減ったものの,見慣れない形式の出題もあります。日頃の演習や過去問演習をとおして,見慣れない問題に挑戦する応用力をつけていってほしいと思います。実際に今年度,過去問の類題が出題されていますし,過去問演習をきちんと積んでおくことは重要です!
ここ2年で東大化学の大問の構成や出題の傾向が大きく変わったとはいえ,標準的な内容をヌケモレなく理解することや,計算力を高めて手際よく処理することが重要であることは変わりません。傾向の変化に惑わされることなく,学習を積み重ねていきましょう。