2017年度東京大学個別試験 分析速報

■分量と難度の変化(地歴…時間:2科目150分) 
・すべて記述式。大問3題の構成で,論述問題が中心。
・総論述字数は2016年度と同じく960字であった。
・全体的な難易度は標準的であった。
■今年度入試の特記事項 
・第1問が古代史の範囲のみからの出題であった。
・第3問は2016年度と同様小問数10問であったが,複数の用語を解答する小問があった。
・2016年度は戦後史からの出題が目立ったが,2017年度は多くなかった。時代・地域とも概ねバランスよく出題された。
■合否の分かれ目 
・第1問は600字の論述問題であり,趣旨の明確な解答に仕上げるには,論理的思考力・文章表現力が不可欠であった。
・第2問は学習が手薄になりがちな時代・地域からも出題された。教科書の全範囲の磐石な知識が求められる。
・第3問は基本的。第1問・第2問の論述問題や地歴のもう1科目に時間を割くためにも,手早く処理したい問題である。
■大問別ポイント
 第1問 

・前2世紀以後のローマと春秋時代以後の黄河・長江流域で「古代帝国」が成立するまでの社会変化について論じる論述問題であった。制限字数は20行(=600字)。
・近年見られない古代史単独での出題で,面食らった受験生は多かっただろう。焦らず問題文・指定語句を確認して解答の構成を検討したい。
・単に,「帝国」成立までの経緯を説明するのではなく,その過程における「二地域の社会変化」を比較して論じることが求められていることを意識して,盛り込むべき事項の取捨選択をしたい。
・中国史の指定語句が比較的使いづらい。論述の趣旨や問題で指定された時代から外れないように工夫して用いることができたかで,解答の完成度に差がついたであろう。
 第2問 
・世界史における「少数者」に関する歴史をテーマに出題された。論述字数は合計で360字(90字×1,60字×4,30字×1)で,単答問題も出題された。
・問(1) (a)のポーランド史は学習の盲点となる範囲であり,磐石な知識力が不可欠である。(b)は,キーワードは思いつきやすく,標準的な問題といえるが,「政策」の内容をどこまで説明するかとまどった受験生もいただろう。
・問(2) (a)は頻出のテーマであり,的確に解答したい問題である。(b)は学習が手薄になりがちな戦後史からの出題であった。
・問(3) (a)は基本的な問題であり,手堅く得点したい。関係した国,戦争,条約名の明記が必須である。(b)は1行(=30字)の論述問題と単答問題2問の構成。単答問題は基本的。論述問題は要点を絞って制限字数内に収めたい。
 第3問 
・問われている語句は決して難度の高いものではなく,問題文も読み取りやすいものが多かった。やや混同しやすい用語の多いテーマからの出題もあり,紛らわしかったかもしれないが,十分満点をねらえる出題であった。

東大世界史攻略のためのアドバイス

東大世界史を攻略するには、次の3つの要素を満たす必要がある。
●要求1● 第3問は磐石な知識力が必須!9割以上をめざせ!
  ほとんどが基本的な知識に関する出題であるため,合格のためには9割以上の得点をめざしたい。但し,文化史や現代史など学習が手薄になりやすい範囲からの出題も頻出なので,注意が必要である。
●要求2● 第2問は「知識の正確さ」「設問の要求に応じた記述ができているか」に注意!
  概ね基本的な内容から問われるが,その分知識が不正確だったり設問の要求を意識できていない解答を書いたりすると,大きく減点されてしまう。日頃から,知識が正確に定着しているか,年代や“意義”・“影響”などの設問の要求に正しく応えているかを意識して,解答を作成する練習を積みたい。
●要求3● 第1問は「読解力」「論理的思考力」「文章表現力」を鍛えよ!
   東大世界史第1問は,字数が450〜600字程度と非常に長く,時代・地域を越えた広い視野で世界史を考察することが求められるので,難度は高い。知識に不足がないことはもちろんだが,問題文から要求を読み取る「読解力」,解答を組み立てるための「論理的思考力」,長い字数であっても筋の通った解答を作成する「文章表現力」が必要となる。こうした力は一朝一夕で身につくものではないので,ほかの受験生に差をつける完成度の高い答案を書くためにも,早いうちから論述対策を始めよう。第三者に添削してもらうことにより,表現力を磨き,文法的にも正しい文章を書けるようにしておきたい。
▼「東大コース」世界史担当者からのメッセージ
・第1問は古代史からの出題で,驚いた方もいたでしょう。また,2つの「古代帝国」の社会変化について説明する(=比較する)というのも,思考力の必要とされるテーマです。2016年度の本科「東大世界史」実戦トレーニング期の3月号は,「帝国」という視点から古代ヨーロッパ・アジアの歴史を考察してまとめた内容でした。ここで古代史の知識と考え方を身につけたZ会員は,取り掛かりやすく感じたかもしれませんね。
・第2問は,必要とされる知識は基本的です。ですが,単答問題で問われたら答えられるが,論述問題だと前後関係を誤認していたり,正確な説明ができなかったりするものです。単なる用語暗記に留まらず,その事象がどのような内容で,歴史上どのような意義を持ったのかといったことを常に意識しながら学習に取り組んでほしいところです。問(1)-(a)のポーランド史は,学習の盲点になりやすい範囲です。2016年度の本科「東大世界史」実戦演習期では,ポーランドの通史を第1問の形式で扱っており,ここでポーランド史の理解を深めていた受験生はかなり有利だったでしょう。
・2017年度は戦後史からの出題が少なめでしたが,近年の東大入試やセンター試験では,戦後史の出題が目立ってきています。なかなか学習が及びにくい範囲ですが,決して対策を怠ることのないようにしてほしいと思います。刻一刻と変化する今日の世界情勢を理解する上でも,とくに関心を深めてほしいところです。