2017年度東京大学個別試験 分析速報

■分量と難度の変化(理科…時間:2 科目150 分) 
・毎年,力学,電磁気(電気)分野から各1題,その他の分野から1題の,計3題の出題。
・解答用紙は,1題当たり横35文字,縦25行程度の文字が書けるように罫線が入っている。
・全体として,分量は(体感として)昨年並み,難易度はやや易化。
■今年度入試の特記事項 
・ページ数が物理全体で15ページ(第1問:6ページ,第2問:5ページ,第3問:4ページ)と,例年の2倍弱である。ただし,計算量は例年並み。
・第1問で空欄補充形式の出題があった。空欄補充形式は,2013年度,2014年度と続けて出題されていたが,2015年度,2016年度は出題がなかった。
■合否の分かれ目 
・2017年度は計算の負担は軽いが,計算するまでの過程,すなわち,状況を把握し,正確な図を描き,立式するところで差がつく問題が多かったといえる。そのため,物理が得意な人と苦手な人の間で,大きな点差がついた可能性が高い。
・第1問のIII(2)や第2問のIII(3)は,難度が高く試験時間内に解けた人は少数だろう。実際に合否を分けた問題は,第1問では,II(2),(3),III(1),第2問では,I(3),II(2),(3),III(1),(2),第3問では,II,IIIだろう。
・2017年度は例年より高めの7割5分程度の得点を目指したい試験であった。典型的な内容が多かった第3問は9割を目指したい。第1問,第2問は,7割以上が目標になるだろう。
■大問別ポイント
 第1問 

・力学分野から直方体の積木の運動に関する問題。
・中問ごとに設定が異なる。Iでは鉛直方向の単振動,IIではひもで連結された積木が摩擦を受けながらする運動,IIIでは積木どうしあるいは積木と床の間の摩擦について考察する。
・I,IIの両方で同じような空欄補充形式の設問が出題され,一見IIで考える状況とはまったく異なるIの物理で,IIの状況を解析できることが示唆されている(ヒントになっている)。IIは,動摩擦力の大きさが積木の座標(位置)によって異なる,という見慣れない設定ではあるが,出題者の意図どおりIをIIのヒントと解釈できればすぐに解ける。
・IIIは,着目する積木が受ける摩擦力を正確に把握することが難しい。くわえて,(2)では“求める条件を満たさない場合に何が起こるか”が瞬時にはわからないため,かなり難しい。「床との摩擦が極端に小さい場合どうなるか」など,柔軟な発想ができた人は解法が浮かび得点できたであろう。
 第2問 
・電磁気分野から導体棒でできたブランコの運動に関する問題。
・第2問では,2016年度に続いて交流を扱っているが,2016年度は計算主体の内容だったのに比べ,2017年度は振動の様子に関する選択問題があったり,設問文に「解答に際して起電力の向きは問わない」といったただし書きがあったりするなど,定性的な理解を試している印象を受ける。
・定量的な(物理量を数式で答える)設問については,2016年度と比べると計算がかなり易しくなっている。
 第3問 
・熱力学分野より,弁つきのピストンによって2室に分かれたシリンダー内の単原子分子理想気体に関する問題。
・弁がついている装置を扱う問題は,状況を読み解くのに時間がかかることが多いが,本問は操作数が少なく状況理解が楽である。
・計算も易しく,3題中最も解きやすい。2017年度の東大物理は,本問で点数を稼いでおきたい。

東大物理攻略のためのアドバイス

東大物理を攻略するには、次の3つの要素を満たす必要がある。
●要求1● 読解力
  丁寧な説明や誘導が東大物理の特徴の一つ。2017年度は顕著であったが,現象や原理の説明が長い文章で示されることがある。長い文章の中には,解答のヒントが含まれているものである。したがって,東大物理の攻略には,限られた時間で文章から現象を正確に読み取る力が不可欠である。
●要求2● 現象を説明する力
  答案を作成するためには,問題文から読み取った現象を教科書レベルの原理,法則を用いて説明する力が必要である。まずは,基本事項の理解を深めることを目指そう。
●要求3● 適切に記述する力
   東大物理では解答の自由度が高い解答用紙に,設問ごとに適切な解答を記述する必要がある。適切に解答する力は,答案を書く訓練を繰り返しながら身につけるしかない。

 まずは,●要求2●を満たすことを目指そう。独学が困難な物理は,授業を大事にしたい。高校3年の夏までには,基礎事項を完成させたい。Z会の本『物理 解法の焦点』は,高校物理の全範囲について,教科書だけでは学べない実戦的な解法を身につけることができるので,早い時期から取り組むことをおすすめする。

 次の段階として,基本事項を東大レベルの問題に応用できる力を高めよう。そのためには,問題の意図を的確につかむこと,つまり,●要求1●を満たす必要がある。このためには,良質な問題を数多く解いておきたい。Z会の通信教育では,読解力を養うのに最適な良問を提供している。

 ここまでの学習が順調であれば,●要求3●もある程度は満たされているはずである。最後は,東大型の問題演習に取り組もう。即応した問題を解くことで,さらに数点の上乗せを期待できる。
▼「東大コース」物理担当者からのメッセージ
 第1問は,物理担当者どうしで「これってどうなるんだろうね? こんな感じのモデルで計算してみるか。」と議論のネタになるような内容です。東大の出題担当のどなたかが積木のおもちゃで遊んでいるときに疑問をもち,モデル化され,めでたく東大入試として出題されたのだろうなと想像しています。

 実際,物理の問題はこんなふうに作(創)られることが多いように思います。たいていの場合,原案は正しく解けるようにこねくり回され,元ネタの痕跡が消えてしまうのですが,第1問は,元ネタ(出題者の疑問)がそのまま残っているようです。

 想像(妄想?)するに,出題担当者が積木を押したり引いたりして全体を崩してしまったときに,「摩擦係数の大小関係によっては,全体を崩さずに特定の積木を引き抜くことが無理な場合があるんじゃないか?」と自分の負けを宇宙の法則のせいにしたのではないでしょうか。
※これって,ある程度物理を勉強した人達にとっては"あるある"です。私もよく隣の席の物理担当者とそんな話をしています。

 変な思考(行動)パターンに思えるかもしれませんが,これが物理を勉強する意義のひとつだと思います。自分の周りで起こる事柄を,「物理」という視点/言語でとらえ,理解し,表現し,議論できるようになる。もちろんあらゆる学問で同じようなことはいえますが,物理は汎用性(応用可能性)が高いように思います。

 「受験では,物理『を』考えるになりがちだが,物理『で』考えるようになってほしい」
という東大のメッセージではないでしょうか。

という私の想像でした。