2017年度東京大学個別試験 分析速報

■分量と難度の変化
・すべて記述式。1行約14センチ(書けるのは30〜35字程度)の解答欄で1〜2行の問題が中心。第一問の現代文では100字以上120字以内という字数制限のついた記述問題が毎年出題される。
・【文科】4題、【理科】3題の出題構成に変化はない。
・問題文の分量は、文系・理系ともに昨年度より若干増加したが、昨年度よりも取り組みやすさはむしろ上がった。
・全体の難易度は、文系・理系ともに昨年度よりやや易化した。
時間にも比較的余裕があり、国語の実力の有無が結果に表れやすい出題。全体として、文系70点以上/理系50点以上も十分に狙える出題であった。
■今年度入試の特記事項 
・第一問(現代文)では、2行解答欄の説明問題が1問減り、全5問の構成となった。
・第二問(古文)では、2015・2016年度に引き続き、王朝物語からの出題となった。また、和歌に傍線部が引かれて解釈が問われたのも2015・2016年度と同様。
・第三問(漢文)は傍線部の現代語訳問題が多く、設問数は文系4問/理系3問(枝問も含めると文系6問/理系5問)であった。また、解答欄は(一)では全て半行、他は全て1行であった。
■合否の分かれ目 
・第三問の漢文をミスなく、必要以上に時間をかけずに処理し、その分の時間を第一問の現代文や第二問の古文に回せたかどうかで差がついたと思われる。漢文は15分ほどで解答し、7割以上の得点を狙いたいところ
・いずれの大問も読解と記述の力がバランスよく問われたが、特に古典は〈反語の訳出〉〈物語文の読解〉など、文法面・読解面における実力の有無で大きく差がつく出題であった
■大問別ポイント
 第1問(文理共通現代文)
  出典:伊藤徹『芸術家たちの精神史』
・現代社会における「テクノロジー」の持つ性質と、その根源的な問題点について論じる文章。2017年度のセンター試験国語と同様、科学や技術がはらむ現代的な問題について論じた文章からの出題であった。「テクノロジー」「科学の中立性」など、Z会の書籍『現代文 キーワード読解』で体系的な知識を身につけていれば読解が容易だっただろう。
・例年と同様、どの設問も解答の方向性をつかむことは難しくないが、解答欄に収まる字数で要点をまとめる点で実力が問われる。(一)は〈人間には予測不可能な形で〉〈新たな問題と技術が自己展開される〉という、科学技術の不気味さを的確に表現できたかで出来が分かれる。(二)では倫理的基準が不在のまま「行為者としての人間を放擲する」点を説明するのがやや難しい。(三)は傍線部直前だけでなく、直後の具体的事例から言えることも一般化してまとめ、答案に含めたい。
・(四)の120字記述も例年同様の出題。(一)〜(三)で読解した内容を活用しつつ、傍線部に即した内容説明を心がけるとよい。(五)の漢字の書き取りはいずれも基本的な漢字であり、満点を確保したい。
 第2問(古文)   出典:『源氏物語』「真木柱」
・2015・2016年度に比べ、言葉を補って解釈することが求められる出題で、やや難化した。リード文・注の情報を押さえ、人物関係を整理して読解する必要がある。
・(一)の現代語訳、文系のみ(二)の説明問題では、ともに反語を文脈に即して解釈できるかがカギとなった。一文一文の文脈を正確に押さえる必要のある文系(三)/理系(二)、「ゐやゐやしく」「書きなす」といった一語一語の語義理解が問われる文系のみ(四)といった設問では、基礎知識をおろそかにせず、正確な読解力を身につけているかで差がつく。文系(五)/理系(三)は、本文に即しどこまで説明内容に含めるか迷うが、「好いたる人」の語義は落とさないようにしたい。
・全体の難度は上がったが、十分な記述演習を積んでいる受験生であれば対応できる出題であった。
 第3問(漢文)   出典:劉元卿『賢奕編』
・漢詩が出題された2016年度に比べ、寓話からの出題で、易化した。基本的に同じ内容の繰り返しであり、難解な語句や句形も見られないので、漢文の対策を十分に積んできた人にとっては論旨を把握するのは容易だったと想定される。できる限り短時間で終え、他の大問に取り組む時間を確保したい。
・(一)の現代語訳はいずれも半行で解答する必要があるが、aの「於」「神」、bの「須」は語句知識と文脈を踏まえた意味判断が求められる出題であるため、基礎をおろそかにしていると思わぬ失点につながる問題。文系のみ(二)、および文系(三)/理系(二)はいずれも基本句形を踏まえた説明・現代語訳問題であり、これらの問題で躓いているようだと合格は厳しい。文系(四)/理系(三)は東大で頻出の〈文章の主題を説明する〉出題で、問題文の内容を抽象化して説明する必要がありやや難しい。
・この出題難度であれば、漢文については確実に得点できるようにしておかないと、合格点の確保は厳しい。
 第4問(文系現代文)   出典:幸田文「藤」
・筆者の幸田文の父が『五重塔』で有名な幸田露伴であることを知らなくても解答はできるが、常識として知っておきたい。
・(一)「親が世話をやいた」内容は、傍線部のすぐ後から書かれているが、それをどのように的確にまとめるかで差がつく。(二)「嫉妬」が、「出来のいい姉」に対する「出来のわるい」筆者のねたましさであり、「淋しさ」が、〈姉と父との関係に入れない〉孤独な感情であることを説明する。(三)「こういう」の指示内容や、「おもしろかった」理由は傍線部の前後に書かれているが、それらを的確な言葉に言い直すことが難しい。(四)〈飽和状態〉の辞書的な意味をまずとらえ、それを「父と並んで無言で佇んでいた」ときの筆者の状態に即して具体的に説明し直す。

東大国語攻略のためのアドバイス

東大国語を攻略するには、次の3つの要素を満たす必要がある。
●要求1● 基本的な語彙力
   東大国語では、専門的で難解な言葉はあまり出題されない。それだけに、受験生として、そして未来の東大生として必須の基本語彙を、現・古・漢において押さえていることが前提となる。語彙の学習が不足している人は、Z会の書籍『現代文 キーワード読解』『速読古文単語』『文脈で学ぶ 漢文 句形とキーワード』などを活用し、積極的に補っておきたい。
●要求2● 文脈を理解する読解力
   東大国語でよく出題されるのは、入試頻出のジャンルで、かつ論旨やストーリー展開が明快な問題文である。書かれている内容を自分の主観で歪めずに、制限時間内に正しく読み取れるかが問われている。付け焼刃的な対策では対応できず、さまざまな文章を深く読み込んだ経験の量で差がつくようになっていると言えるだろう。
●要求3● 狭い解答欄にまとめる記述力
    東大国語の設問は、すべてが記述式問題である。その理由は東大が国語の知識だけではなく、運用能力を見ようとしているからだ。詳しくは、東京大学のWebサイトで公開されている「高等学校段階までの学習で身につけてほしいこと【国語】」をぜひ読んでもらいたい。
   受験生の夏までは、多様なジャンルの文章に触れながら、●要求1●と●要求2・3●に対応できる力を同時に鍛えていこう。東大は入試頻出ジャンルからの出題が多いため、Z会の通信教育の本科「東大文系国語/東大理系国語」を通じて現・古・漢の「必修テーマ」を体系的に学習すると効果的である。まずは制限時間を考えずに、読解経験を積みつつ、解答欄を埋められるようになろう。
 夏以降は東大即応形式の問題演習を増やしていき、●要求3●に対応する力をさらに磨いていくとよい。受験生の9月からのZ会の講座では、Z会の通信教育・Z会の教室・Z会の映像、いずれも東大対応のオリジナル問題を出題していく。添削指導を受けることで、徐々に解答の質を高めることができるはずだ。最終的には過去問に加えて、東大型の予想問題にも取り組んでおきたい。問題に取り組む際には、大問ごとの時間配分(現代文:50〜60分、古文漢文:25〜30分)を意識して解くなど、より本番に近い形での演習をするとよい。
 「読めるけど書けない」状態からなるべく早期のうちに脱出することが、東大合格の鍵となる。Z会の教材を活用し、さらにZ会によるプロの添削指導を受けることで、東大合格に直結する語彙力・読解力・記述力をバランスよく養成してほしい。
▼「東大コース」国語担当者からのメッセージ
・第二問(古文)は『源氏物語』からの出題でしたが、シンプルな場面展開で登場人物も多くないため、東大レベルに対応した古典の問題演習を重ねてきた受験生であれば十分に実力を発揮できたことでしょう。一方で、ここ1、2年の出題傾向に合わせて、易しめの問題にばかり取り組んできた受験生は苦戦したと思われます。
・第三問(漢文)は、〈猫の名付け〉を題材とした散文。来年度に東大を志望する人は、第三問はいまの実力でも十分解ける問題であるため、力試しでぜひ解いてみるとよいでしょう。なお、2016 年度の専科「東大即応演習」10月でも、同じく〈猫の本質〉を題材にした寓話的文章を出題していました。事前に取り組んでいた人は、文章の持つ滑稽さも含めて十分に内容を理解することができたのではないでしょうか。
・今年度の東大国語は第一問(現代文)における2行記述問題の減少など、形式的な変化こそあったものの、出題の本質的な部分に関する変更はありませんでした。むしろ、第二問(古文)・第三問(漢文)ではいずれの設問も解答欄が1行(または半行)と狭く、〈自らの語彙と記述力を活用し、読み取った内容を的確にまとめる表現力〉が例年以上に重視された出題であったといえます。
 東大の過去の出題傾向を十分に研究し、それに対応した問題演習を積むことが、東大国語対策においては非常に重要です。Z会では長年の入試分析をもとに、本科「東大コース」、専科「東大即応演習」、特講「過去問添削」など、東大合格までの道筋を支える講座を多数用意しています。良質な問題と添削指導を通じて盤石の実力を養成し、東大合格をつかみ取りましよう!