2017年度東京大学個別試験 分析速報

■分量と難度の変化(地歴…時間:2科目150分) 
・毎年,第1問−古代,第2問−中世,第3問−近世,第4問−近・現代というのが基本構成である。
・総字数は2016年度と同じ660字で,小問数は2016年度の7問から8問に増加した。小問の最大字数は120字であった。
・全体的な難易度は例年並みである。
■今年度入試の特記事項 
・全問,A・Bの枝問であった。
■合否の分かれ目 
・何を書けばいいのかがまったくわからないといった難解な問題は出題されていない。一方で,全問がA・Bの枝問であり,指定字数も60字・90字が中心と,比較的まとめにくい字数になっているため,例年よりも,解答にやや時間がかかる可能性が高い。地歴2科目の時間配分にも注意し,すべての大問について満遍なく解答することが,合格を勝ち取るための必須条件である。
・第2問,第4問は知識を重視する問題であり,例年に比べると基本知識で解答できるので,高得点をめざしたい。この2問での失点はできる限り小さくしたい。
 
■大問別ポイント
 第1問 

A:律令国家にとって,東北地方の支配が持つ意味(2行:60字)
・提示文から読み取れる情報が少ないので,前提となる知識が必要。過去の東大の出題例を踏まえて,「律令国家の形成は,当時の東アジア情勢と関係があった」「日本を中心とした独自の国家形成,小中華帝国の形成をめざしていた」ということを思い起こせたかどうかで差がつく。
B:東北地方に関する諸政策が,国家と社会に与えた影響(4行:120字)
・提示文から読み取れる内容をまとめていけばよい。
・解答を作成する際には,「平安時代の展開に触れる」という留意点を意識したい。
 
 第2問 
A:鎌倉幕府が京都で裁判を行うようになった経緯(2行:60字)
・六波羅探題で裁判を行うようになった経緯を説明する問題である。
・承久の乱後の西国への支配拡大という基本テーマを扱った問題である。取り組みやすい問題であるが,単純に知識を羅列すると字数をオーバーしてしまうので,要素を過不足なくまとめるようにしたい。
B:九州における裁判(3行:90字)
・九州において,「博多で下された判決が最終判決」「九州の御家人が鎌倉に訴え出ることは原則禁止」という措置をとった理由を述べる問題である。
・問われているのは措置をとった「理由」であるので,鎮西探題の設置を述べただけで終わらないようにしたい。
 
 第3問 
A:近世の農村における相続(2行:60字)
・家の相続者の決定方法を述べる問題。
・提示文から読み取った情報の羅列にならないようにしたい。「相続の原則」「女性が相続する場合とその条件」の2点をうまくまとめよう。
B:近世の村と家における女性の立場(3行:90字)
・当主の名前の書かれ方が男女で違ったことを踏まえ,村と家における女性の位置づけを述べる問題。
・近世=女性の立場が低い,といったことに捉われずに,提示文の内容をしっかり把握してほしい。
・第3問は,幕藩体制と関連づけて考察させることが多い。女性の相続を認めることは,幕藩体制の維持とどうつながるのか? ということを意識できるとよいだろう。
 第4問 
A:2個師団増設をめぐる問題が政党政治に与えた影響(3行:90字)
・知識を必要とする問題であるが,述べる要素は,年表を参考に特定していきたい。
・「政党政治に与えた影響」をどうまとめるかがポイント。
B:ロンドン海軍軍縮条約の成立を推進した背景と,国内での反応(3行:90字)
・知識を必要とする問題であるが,年表も参考にしよう。問われているのはロンドン海軍軍縮条約であるが,年表にある「ワシントン会議」から,ワシントン体制下での政策であることについても触れておきたい。一方で,年表にはないが,条約成立推進の背景としては,浜口内閣の経済政策も押さえておこう。年表にある事柄と,知識をうまく活用したい。

東大日本史攻略のためのアドバイス

東大日本史を攻略するには、次の3つの要素を満たす必要がある。
 
●要求1● 全時代・全分野についての正確な知識・理解
 当然だが,日本史についての知識・理解があることが問題を解く上での前提となる。学習の際には,歴史事項の正確な意味内容や,事項の流れに加えて,律令制や幕藩体制といった,各時代を考える際の本質的な事項の理解の両方を身につけることを心掛けよう。
●要求2● 提示文・設問文の把握
東大日本史では,与えられた提示文や史・資料すべてをうまく活用すること,設問文の要求や意図を読み取ることが重要になる。東大型の問題演習を通じて,提示文を利用し,設問の趣旨にあった解答を作成する力をつけていこう。
●要求3● 要求された字数に応じて論をまとめる記述力
東大日本史で出題される字数は30字〜180字と幅広い。そのため,設問の要求だけでなく,各設問で指定された字数に合わせて,情報を取捨選択し,論旨をまとめる高度な記述力が必要である。定期的な論述演習で,設問の要求を満たした論を作成する力を養っていこう。
まずは,高3の夏休み終了までに一通りの通史学習を終わらせることを目標に,要求1を満たしていこう。また,東大で要求される高度な記述力を身につけるためには,早期から定期的に論述演習を行うことも重要である。Z会の通信教育で,東大入試で必須となる基本的な知識の定着をはかりながら,論述の書き方もマスターしてほしい。
東大日本史攻略のためには,定期的に東大型の問題演習を行い,その形式に慣れることが必須である。Z会の通信教育やZ会の映像で,東大日本史で問われる知識の確認をしながら,要求2・3を身につけていこう。
冬休み以降は,時間を意識した演習も行おう。東大の地歴は2科目で150分という試験時間のため,時間配分が鍵になる。本番同様の4題セットの問題を活用しながら,解答作成にかかる時間や論述にかかる時間,問題に取り組む順番などを考えておこう。
▼「東大コース」日本史担当者からのメッセージ
・例年に比べると,やや知識を問う問題が多い印象を受けた試験でした。問われている知識は基本事項が中心ですので,東大受験生であれば,取り組みやすい試験であったと思います。
・第1問のAは,「日本版華夷思想」「小中華」をテーマにした問題。2016年度の本科「東大日本史」実戦演習期では,「7世紀前半の東アジアと大化改新」というテーマで,「7世紀前半の東アジア情勢とその情勢が東アジア各国へ及ぼした影響」について扱っていました。この問題を解いていれば,提示文(1)の「東アジア情勢の変動の中で」が意味するところを理解し,日本を中心とした独自の国家形成をめざしていたことを想起することができたでしょう。
・第3問は,ちょっと戸惑った人も多かったかもしれません。近世の女性の地位は低い,という考えに疑問を投げかけるような問題でしたね。女性の地位とか学習してない・・・と思った方もいたのでは? でも,教科書を確認してみると,女性に相続が認められる例があったこと,女性が戸主に準ずることがあったこと,などがばっちり掲載されています。あくまでも教科書がベース,という東大日本史のこだわりを感じました。教科書学習,ちゃんとやりましょうね!
・第3問のBは,やや古いですが,1999年に出題された,江戸時代の商家の相続を扱った問題が考えるためのヒントになりました。20年近くたってから,今度は村の相続を聞いてくる東大日本史。過去問研究が大事,と言われる所以ですね。同じ相続でも,商家と農村では女性の立場が異なる,という面白い視点だったと思います。