2017年度東京大学個別試験 分析速報

■分量と難度の変化(地歴…時間:2科目150分) 
・指定字数2行(60字)・3行(90字)の論述問題が中心だが,単答問題も多い。
・ほぼすべての大問において,資料(統計表・グラフ,地図など)を利用した問題が出題される。
・題意をつかみにくい問題は見られず,論述総字数も減少し(34行:1020字→31行:930字),資料数も少なくなったので,2016年度よりやや易化した。知識がなければ解けない問題が散見されたので,難易度は例年並み(標準)といえる。
■今年度入試の特記事項 
・第1問の「自然環境」,第3問の「日本に関する出題」は例年通りの出題であった。第2問は例年「産業」中心の出題であるが,今年度は「環境問題」を絡めた出題であった。
・島の名称や排他的経済水域・バーチャルウォーター・PM2.5など,知識重視の問題が出題された。
・地形図の読図問題,2015年度・2016年度と続けて出題された6択問題は出題されなかった。
■合否の分かれ目 
・第1問では,島嶼の位置や形などが問われ,日頃から,地図を使った学習ができているかで差がつついた。
・第3問の人口・産業に関する図表など,初見の資料も多数示され,資料問題に対する柔軟かつ迅速な判断と理解が求められる。
・単答問題も多く出題されている。単答問題の解答を前提に論述する“芋づる式”の設問も見られるため,とりこぼしなく得点できたかが合否の分かれ目となったといえる。

 
■大問別ポイント
 第1問 

・「島と海」をテーマとする大問。
・設問Aは太平洋上の島の分布と島嶼国の排他的経済水域を示した地図に関する問題。
・⑴は火山島とサンゴ礁島について合わせて考える必要があり,難しい問題。ホットスポットと太平洋プレートの動きを結びつけて解答を作成したい。
・⑸では小笠原諸島の方が降水量が少ない理由として,小笠原高気圧の存在を指摘したい。
・設問Bはカリマンタン島・マダガスカル島・バッフィン島に関する問題。
・⑵はcの島名がわからなくても,形状からフィヨルドと判定したい。
・⑶の東大頻出の比較問題。マダガスカル島の気候と農業(とくに稲作)は頻出事項といえる。
 
 第2問 
・「世界の水資源と環境問題」をテーマとする大問。
・設問Aは水資源に関する問題。
・⑴の国名判定は,アとイの判定に迷うが,水資源量に着目し,大きいイが氷河を有するカナダ,小さいアが乾燥地域が多いオーストラリアと判定する。
・⑶は,自然面として,エチオピアがナイル川の源泉を有することは指摘できるだろうが,社会面は何を書くべき迷う。
・⑷はバーチャルウォーターについての設問。教科書学習をしっかりしていれば解答できる。
・設問BはPM2.5に関する問題。
・⑵は中国とインドの経済成長と環境対策の不備を指摘すればよい。
・⑶は「人口密度が希薄な地域」を「砂漠」と気づけるかがカギ。
 
 第3問 
・「ヨーロッパと日本の産業・社会の変化」をテーマとする大問。
・設問Aはヨーロッパ4カ国の人口に関する問題。
・⑴の国名判定を誤ると⑵〜⑷に影響するので,確実に正解したい。⑵〜⑷の設問もヒントになる。
・⑶はブルガリアについて,設問文中の“1990年以降”に着目し,東欧革命後の状況を考えて解答を作成したい。
・設問Bは日本の工業に関する問題。
・⑵は輸送用機械と電気機械の立地の違い(集積指向型と交通指向型)に着目し,解答を作成する。
・⑶は,減少の大きい県と小さい県の出荷額上位業種の違いと,それらの業種の日本の国際競争力に注目する。指定語句の「アジア」と「輸出」を上手く使いたい。

東大地理攻略のためのアドバイス

東大地理を攻略するには、次の3つの要素を満たす必要がある。
●要求1● 使いこなせる知識力
東大地理では,全分野・地域の基本事項を覚え,使いこなせる“知識力”が求められる。なかでも,自然地理(地形・気候・植生など)に関する出題とそれに関連する農牧業・文化・環境問題の出題が多い。これらに対応するため,自然地理に関する知識をとくに確実なものにしておく必要がある。
●要求2● 多くの情報を読み取る資料読解力
東大地理では,統計資料・地図などから多くの情報を読み取る“資料読解力”を必要とする問題が多い。とくに資料から国名・品名などを判定する問題に正解することは,合格点確保には必須である。また,地形図の読図問題が出題されることもあるので,基本的な地形図の読図力も養っておきたい。
●要求3● 簡潔・確実に解答できる表現力
東大地理の出題形式の中心は,60字・90字の論述問題である。このような指定字数の少ない論述問題に対応するには,問題で要求された条件に対して,簡潔・確実に解答できる“表現力”が求められる。それには,「題意を正確に把握し,聞かれていることだけに答えること」「掲載資料・リード文の意味を読み取り,それらへの配慮がわかるような表現を織り込むこと」を意識した論述演習が必要である。
   まずは,東大地理を攻略するために,基礎力を完成させよう。それには,●要求1●を満たすため,教科書学習を中心に,学習が手薄な分野・地域をつくらないように努めよう。高校3年生の夏までには教科書の全範囲の学習を終わらせておきたい。とくに,東大地理で頻出の自然地理(地形・気候)や日本地理(とくに人口・都市・工業)の苦手分野は必ずなくしておくこと。また,●要求2●を養うため,統計集や地図帳に日頃から目を通す習慣をつけ,統計の持つ意味を理解しておくことが重要である。
 次に,東大型の問題への取り組みを始めよう。実際の入試で総字数1,000字程度の論述問題を75分ほどで取り組むことを想定すると,基礎力の完成を待って論述対策を始めるのは得策ではない。遅くとも高校3年生の夏までに,論述力養成にも着手しておきたい。また,東大地理の攻略には,過去問などで傾向を知り,東大型の問題演習を繰り返し行うことが有効かつ効率的である。とくに高校3年生の秋以降は,Z会の通信教育で,これまで身につけた●要求1●・●要求2●の力を試しながら「複数資料の比較」や「芋づる式」といった東大型の問題に取り組み,添削指導を受けることで,●要求3●を磨いていこう。
 最後は,実戦演習を行おう。最終的には,「素早く」「確実に」資料判読を行うことで失点を抑え,答案の完成度を高めて得点の上積みができるようにしておきたい。●要求1●〜●要求3●をすべて身につけた上で,Z会の通信教育で,制限時間・時間配分や問題に取り組む順序などを意識し,より本番に近い形で得点力のある答案を作成する訓練を積もう。
▼「東大コース」地理担当者からのメッセージ
・第1問の設問Bの3つの島の図を見て,「どこ?」と戸惑った受験生も多かったと思います。東大地理では,湖や海岸線の形や位置関係(経緯度)がよく問われるので,地図学習はとても大切です。だからといって「地図をすべて頭に入れる」などというのはナンセンス。気負わずに,気分転換のつもりで,ちょっとだけ経緯度を意識しながら,地図帳を眺める習慣をつけましょう。
・第2問の設問BはPM.2.5に関する出題でした。2016年度の特講「直前予想演習 東大即応地理」第2回の大問3で「インドにおけるPM.2.5の発生要因」について出題しており,本問を丁寧に復習していれば,確実に得点できたはずです!
・東大地理では,日本地理を完璧にしておくことをおすすめします。2017年度も,日本についてやや詳細な内容が問われました。日本地理は対策が手薄になりがちですが,中学校で使用した教科書や参考書なども活用して,しっかり対策しましょう。