「英語」2017年度東京大学個別試験分析
2017年度東京大学個別試験 分析速報
■分量と難度の変化
・分量:変化なし
・難易度の変化:変化なし
・分量:変化なし
・難易度の変化:変化なし
■今年度入試の特記事項
・1(A) 要約問題の制限字数が一昨年の「70〜80字」に戻った。
・1(B) 昨年の段落補充から,一昨年までに出題されていた「文補充」問題に戻った。
・2(A) 過去4年連続で出題された「画像を見て答える」問題ではなくなった。
・4(A) 昨年新たに登場した「誤りを含む下線部を選ぶ」形式が今年度も引き続き出題された。
・5の記述問題では,昨年に引き続き和訳問題が出題されなかった。
・今年度も新傾向の問題がいくつか出題されたが,各々の設問の難易度は特別高いわけではなく,リスニングも取り組みやすかったため,全体の難易度は昨年度並みであった。
■合否の分かれ目
・設問レベルでの形式には毎年違いがあるものの,全体の構成としては今年も大きな変化はなく,難易度も平年並。
・大問別に見ると,1〜3が比較的取り組みやすい一方で,4・5は分量も増加し,負担感が増したように感じる。1と2を普段より短時間で処理し,4と5により多くの時間を割けた人が有利だったかもしれない。
■大問別ポイント
1(A) 要約
・「国家間のビジネスにおける国民性論の危険性」についての約360語の英文の要約問題。
1(A) 要約
・「国家間のビジネスにおける国民性論の危険性」についての約360語の英文の要約問題。
・本文のパラグラフ数は3から5に,語数は40語程度増加した。
・昨年度は約320語の英文を100〜120字でまとめる必要があり,含めるべき要素の取捨選択に時間を要したが,今年度は指定字数が一昨年の70〜80字に戻り,具体例を含める字数的余裕がないため,要点に絞ってまとめればよく,作業の負担が減った。
・昨年同様,難しい語句も構造もなく,要旨に含めるべきキーワード(国,ビジネス,価値観,職種,社会経済的地位,交渉)が見つけやすかった。
1(B) 長文読解(文補充,語補充)
・「『裕福な人々は利己的な行動をとる』という仮説に関する心理実験」についての英文。語数は補充する選択肢を含めて約760語。
・昨年度は段落補充が出題されたが,今年度は2013〜2015年度に出題されていたのと同様の文補充が出題された。
・2013〜2015年度では,5箇所の空所に対して8つの選択肢が与えられていたが,今年度は5箇所の空所に対して選択肢は6つと,ダミー選択肢が1つのみであった。
・2015年度と同様の,記述式の単語補充問題が1題出題された(今年度は頭文字が与えられていた)。
・ダミーの選択肢は,明らかに文脈に合わない部分があるため,見極めやすかった。
・科学的な内容のため本文の論旨が明快であることと,選択肢に指示語やディスコースマーカーなどの手がかりが多かったことから,取り組みやすかったはずである。ポイントは,結論部にくる選択肢を見誤らないことだろう。
・この問題の解答の見極めにかける時間が,全体の時間配分に大きな影響を与えやすいので,問題を解く順番や時間配分に特に気をつけておきたいところである。
2(A) 自由英作文
・「いま試験を受けているキャンパス」に関して気づいたことを一つ選び,60〜80語の英文で述べる問題。
・2年続いた「画像について思うこと」を述べる設問ではなくなった。
・キャンパスに関して気づいたことという題なので書く内容は比較的決めやすい。
・昨年度は「思うことを述べよ」という指定だったが,今年度は「説明しなさい」という設問なので,状況を詳しく描写する力が求められる。それについての是非などを述べることは求められていないことにも注意する。
・意表をついた出題で,気持ちに柔軟性や余裕がないと,逆に戸惑うことがあるだろう。
・東大では毎年,英語の知識や正確な文法・語法の運用力だけでなく,自由な発想力も求められるので,過去に出題された,与えられたイラストや写真を元にストーリーを考える練習を積むとともに,日ごろから柔軟な思考力も養っておくとよい。
2(B) 自由英作文
・祖父からの手紙への返信を60〜80語の英文で述べる問題。
・昨年度に引き続き,与えられたフォーマットに従って続きを作成するという出題である。
・昨年は,第1パラグラフと第2パラグラフでそれぞれ実験結果が示され,それに続く「結論」を書くという設問で,英文を読む負担もあったが,今年度は短い手紙文だったので読む負担は軽かった。
・祖父からの手紙は「(あなたが)遺産を相続することになるので,何に使うか,それはなぜかを聞かせてほしい」というものである。
・祖父の遺産を相続し,上手に使うという前提で,その理由を含めて説明することが求められる。書き出しと結語は与えられているので,具体的な内容のみ記述する。
・求められている「何に使うか」「それはなぜか」をきちんと盛り込むことができれば問題ない。
・自由な発想が求められる問題なので,日ごろからさまざまな形式の自由英作文をこなしておきたい。
3 リスニング
・昨年度同様,(A)と(B)は連続した内容で,(C)のみ独立していた。出題形式がすべて英問英答の選択式であることも昨年度同様である。
・昨年は(A)4問,(B)6問,(C)5問だったが,今年は(A)5問,(B)5問,(C)5問となり,2015年度までの設問数の配分(各5問で均等)に戻った。
・ほぼ設問の順序と英文での順序が一致しているところも昨年と同様であり,取り組みやすかっただろう。
(A)「コンピュータ知能の発達」に関する約490語の講義。
・(6)〜(9)のいずれも英文中にまったく同じ(または近い)語句が読み上げられるため,but,however,in factなどのディスコースマーカーに注意して聞き取れば比較的容易に正解を絞れるだろう。
・(10)は英文のタイトルを考えさせる問題で,新傾向と言えるだろう。ただし「タイトルとして最も適さない」ものを選ぶという形式は珍しい。
(B) (A)の内容に関する約530語の,3人による議論。
・各発言者の主張をしっかり捉えていれば解答は容易だろう。
・(A)とはやや異なり,各設問の正答の選択肢は発言者の言い回しを言い換えている点に注意が必要。((12)ではmap out possibilitiesをevaluate each possible move systematicallyと,(13)ではdon't care about the results of their choicesをhave no personal interest in what they decideと言い換えている)
・(15)では,本文でtake over the worldとあるのに対し,c) take over the police forceが紛らわしいが,take overの意味が異なることに注意。
(C)「ナイジェリア出身の作家による,姉のUcheについての回想」(約540語)
・例年,モノローグは説明文の出題だったが,今年はエッセイ・物語調の出題となった。
・読み上げられる英語は平易で,各文も短いものが多かったために昨年度以上に聞き取りやすかったと思われる。
・表現の言い換えはところどころ用いられているものの,全体に素直で解答を絞りやすい選択肢が多かった。
・(19)の「姉妹の相違点として書かれていないもの」を選ぶ問題はやや判断に苦しんだかもしれない。
(全体)
・時事ネタも含め,あらゆるテーマについて日ごろからリスニングの演習を積んで,「英語耳」を作っておくことは前提である。これから受験する人は,すぐにでもリスニング対策を始めること。
4(A) 誤り指摘
・昨年度に引き続き,「誤りを含む下線部を各段落から1つずつ選ぶ」という出題形式であった。
・「ドキュメンタリー映画」に関する英文が5つの段落に分かれており,各段落それぞれに5つの下線が引かれている。
・英文の語数は約620語と,昨年の約420語から大幅に増加。文脈上の誤りが含まれている可能性も考慮しながら,限られた時間の中で(内容理解をおろそかにせずに)英文を読み進める必要があり,負担は大きかったと思われる。
・結果的には,いずれの下線も,文法上の誤りを見つけ出せばよく,問われる文法・語法知識もそこまで高度なものではなかったが,誤りを含まない箇所に,「正しい」と確信を持ちにくい見慣れない表現が含まれている点が,この問題を更に難しくさせている要因となったと思われる。確固たる文法・語法知識を構築できていたかどうか,そしてその知識を用いて落ち着いて問題に取り組めたかがカギとなった問題であった。
・(22)[b]は,isの主語が見当たらないことに気づきたい。
・(23)[d]は,thatがa movieを先行詞とする主格の関係代名詞であることに気がつけば,thatの直後のitは不要であると判断できる。
・(25)[e]は,each otherは代名詞であり,かつ「人と意思疎通する」という意味の時はcommunicateは自動詞となることを知っていれば,communicateの直後に前置詞withが必要であることを見抜ける。
4(B) 下線部和訳
・「ひとりでいることについての考察」に関する約300語の英文。
・下線部は3問で昨年と変化なし。
・語数は,2016年度は約230語だったが,今年は約300語で微増。
・冒頭の問いが唐突で,2文目も文の形ではないため,トピックがややつかみづらかった。3段落目のlonelinessとsolitudeの対比まで読み進めれば,論旨をとらえるのは難しくなかっただろう。
・下線部の指示語を説明するよう求められたが,上から読み進めていれば特に内容を取りづらいものはなかった。
・全体として,語彙レベルで難しいものはなかったが,文構造が取りづらい部分が散見された。また,(ア)の loneliness と(ウ)の solitude は本文中で似て非なる概念として扱われているため,訳語は違うものを当てるように工夫したい。例えば,「孤独」と「ひとりでいること」のように訳し分けるとよいだろう。この他,下線部の主なポイントは以下の通り。
・(ア):born from 〜は分詞構文で,born の前に being が省略されている。Loneliness is 〜 painful とのつながりを考えると,‘原因・理由’を表すと解釈できる。,when 以下は継続用法の関係副詞節で,先行詞は early childhood。it は warmth を指している。
・(イ):but for 〜は「〜がなければ」の意味で,仮定法を導く表現。冒頭の wouldn't have 〜が仮定法過去完了の帰結節になっている。this は下線部直前の文の we have passed through a magnificent snowy landscape。
・(ウ):because 節内の構造は,we see(V) the time(O) {(which)it requires} as a resource 〈to use more profitably〉 で,see A as B(AをBとみなす)の表現で,Aが the time,Bが a resource。it requires は the time を後置修飾する節で,この it は solitude を指している。to use 以下は a resource を修飾する形容詞用法の不定詞句。
5 長文読解
・例年通りの長文読解問題。自伝的なエッセイで,語数は昨年より60語ほど多い930語。退学処分を受け,家庭にも恵まれず,病院で世話をされていた筆者が,ふたたび学校へ通うことができるように援助してくれた Doris との関係について書かれている。
・記述問題は昨年同様,下線部説明問題が2題,空所に入る適切な1語を書く問題が1題で,和訳問題は出題されなかった。選択式の問題は空所補充と内容一致で,設問数・記述量ともに,ほぼ昨年と同じ。昨年あったような写真は含まれなかった。
・(A)の空所補充問題は,as far as it goes とあることから all を導きたいところ。
・(B)は後にある Unexpected things had happened to me so frequently 〜 that they seemed normal. I came to expect 〜 passivity. の部分をまとめる。with a detached passivity を日本語でどう表すかが難しい。
・(C)「ぎこちない,社交上の瞬間」がどのような意味を表すのか,文章全体の内容理解が問われている。第3パラグラフ最終文 It mattered how I referred to her; … the wrong impression. の部分に着目してもよいだろう。
・(D)(ア)の空所補充は文脈に忠実に取り組まなければならず,難度が高かった。(イ),(ウ)は比較的素直な問題だった。
東大英語攻略のためのアドバイス
東大英語を攻略するには、次の3つの要素を満たす必要がある。
●要求1●「基本=易しい」と甘く見てはいけない
難易度が高い語彙はあまり登場しないが,文脈や時系列の把握が難しい英文を題材にしたり,基本語の盲点となる用法を設問としたりすることがあり,基本事項の習得が疎かだと得点を伸ばすことができない。
難易度が高い語彙はあまり登場しないが,文脈や時系列の把握が難しい英文を題材にしたり,基本語の盲点となる用法を設問としたりすることがあり,基本事項の習得が疎かだと得点を伸ばすことができない。
●要求2● 高度なリスニング力を身に付けよう
東大のリスニングは,放送時間が長いのに加え,聞き取り問題として扱うには高度な英文を題材にしたり,複数の放送の内容が関連していたりして,解答には高度なリスニング力が求められる。差がつきやすい問題の1つなので,対策には十分時間をかけておく必要がある。
東大のリスニングは,放送時間が長いのに加え,聞き取り問題として扱うには高度な英文を題材にしたり,複数の放送の内容が関連していたりして,解答には高度なリスニング力が求められる。差がつきやすい問題の1つなので,対策には十分時間をかけておく必要がある。
●要求3● 時間管理力を付けよう
東大入試英語の最大の壁は,与えられた試験時間内に膨大な問題に適切に解答できるかどうかである。まずは時間を意識して問題を解くこと。読解量もさることながら,大意要約や自由英作文など記述に時間がかかる問題も含まれているので,日ごろから答案作成→第三者による添削→添削内容の習得・答案改善のサイクルを築いて,質の高い答案を迅速に作成できるようになっておかなければならない。
東大入試英語の最大の壁は,与えられた試験時間内に膨大な問題に適切に解答できるかどうかである。まずは時間を意識して問題を解くこと。読解量もさることながら,大意要約や自由英作文など記述に時間がかかる問題も含まれているので,日ごろから答案作成→第三者による添削→添削内容の習得・答案改善のサイクルを築いて,質の高い答案を迅速に作成できるようになっておかなければならない。
まずは基礎力の完成を目指すこと。文法事項を網羅的に習得した上で,さまざまな英文を正確に読めるようにしておこう。また,対策にあてた時間が得点に直結しやすい要約・自由英作文の記述対策にも早い段階から取り組んでおきたい。
基礎力が身に付いたことを実感できるようになったら,答案の精度を上げていく一方で,時間管理力をつけるために時間を計って演習し,自分の課題を確実に消化しておこう。
最後に,自分で納得できる答案を試験時間内に書けるような時間配分を感覚として身につけておいてほしい。試験本番は必要以上に時間をかけて問題に臨んでしまい,時間配分がうまくいかないこともある。ある程度余裕のある戦略を組み立てられるように,問題に十分慣れておくこと。過去問研究の差が明暗を分ける。
▼「東大コース」英語担当者からのメッセージ
・2の自由英作文では毎回意表をつく出題で驚くのですが,今年もまた珍しい形式でしたね。2(A)では試験中に辺りを見回してしまった受験生もいたかもしれません。試験会場に入るまでのキャンパス内の様子を詳細に思い浮かべながら書く必要があったでしょう。2(B)も設定が特殊でした。いずれも想像力と創造力がモノを言う問題だったと思います。
・1(B)や4(A)などの選択式問題も年によって傾向がよく変わりますね。今年は1(B)が段落補充から文補充に変わったこと以外は大きな変化はありませんでしたが,4(A)は語数が昨年より150語も増えて読むのが大変だったのではないでしょうか。
・今年度は要約,英作文ともに例年より難易度が下がったため,全体を見渡し,適切に時間配分をして「解ききる」(難問にしっかり時間をかける)ことが合否の分かれ目だったと思います。
・東大英語は決して語彙・内容面で難しいものではありません。といって,読めた〔解釈できた〕だけでは得点にはつながらないことも事実。解答を作成する日・英での記述力こそが最大のポイントです。