2017年度東京大学個別試験 分析速報

■分量と難度の変化(理科…時間:2科目150分) 
・分量:大問数は3題。大問1題当たりの分量は多い。今年度の全体の論述量は例年よりも減少した。
・難易度:標準であった。
・出題分野:各大問は,分野融合となっていることがほとんどで,1回の試験で扱う分野は幅広い。
・形式:用語,正誤判断,論述が中心である。解答用紙は,1題当たり横35文字,縦25行程度の文字が書けるように罫線が入っている。論述問題は字数ではなく,行数で指定される。
■今年度入試の特記事項 
・第1問・第2問ともに時間がかかる問題で,すべての問題をじっくり読み込んでいると全体の時間が足りなくなる。
・第3問は易しめなので,しっかり得点したい。
■合否の分かれ目 
・第1問は,セントラルドグマと具体的な遺伝情報の伝達に関する問題であった。B(b)の遺伝情報が流れる経路を選択する問題では,もっている知識から各経路の名称を特定して当てはめるとよい。
・第2問は,IB・IIBのように,与えられた条件からグラフがどのように変化するのかを考察する大問があり,やや時間がかかる問題であった。設問の要求を的確に捉えられたかどうかで,差がついただろう。
・第3問は,IA・Bの基本的な用語問題,IIA〜Dの出題意図を汲みとりやすい考察問題のように,得点源となる設問が目立った大問であった。ここで取りこぼしてしまうと,合計点を伸ばすのが難しいので,確実に正解して欲しい。
■大問別ポイント
 第1問 

〔文1〕セントラルドグマ・RNA干渉
・IAは翻訳に関する基本事項なので,確実に解答したい。Bのセントラルドグマと具体的な遺伝情報の伝達は,あまり見かけない問題であり,差がついたと思われる。
・IC・IDは,〔文1〕にあるRNA干渉の流れをしっかりおさえれば,十分解答できただろう。

〔文2〕近交系マウスの遺伝・免疫・骨髄移植
・IIAは家系図の各世代の表現型の分離比から,遺伝様式を推測しよう。生まれる確率を求めるのが雌だけであることに気をつけたい。
・IIDはタンパク質Zに変異が生じているマウスと,タンパク質Zがないノックアウトマウスを比較する点に注目しよう。
 第2問  
〔文1〕代謝・光合成・呼吸量の測定
・IAは代謝の各反応をエネルギー量で捉える目新しい問題であった。
・IBは呼吸と光合成が起こるタイミングや,各反応で吸収・放出される酸素が16O218O2のどちらであるかについて,考えよう。

〔文2〕つる植物の環境応答
・IIBの伸長を比べるグラフの選択問題では,時間がかかった受験生も多かっただろう。
・葉を大きくする戦略1には,どのような利点があるのか,〔文2〕から読み取ってほしい。
・設問間で難易度がかなり異なるので,解ける設問から解いていきたい。
 第3問 
〔文1〕生態系・種間関係
・生態系・種間関係に関する基本的な内容から出題された。
・本年度の問題の中では,最も得点しやすかった箇所であり,取りこぼしのないようにしたい。

〔文2〕進化と系統・種間関係
・魚類の採餌行動と種間関係を題材とした問題であった。
・全体を通して,理解しやすいテーマであり,論述内容も標準的であった。
・ここは得点源になる設問であるので,高得点を目指したい。

東大生物攻略のためのアドバイス

東大生物を攻略するには、次の3つの要素を満たす必要がある。

●要求1●正確な 知識力
  各大問の前半に知識問題が出題されることが多い。ハイレベルな勝負になる東大生物では,知識問題での失点は許されない。教科書と図説を参照する習慣を身につけよう。教科書で太字になっている語については単純に暗記するだけでなく,関連する生命現象とあわせて,自分の言葉で説明できるようにしておくこと。
●要求2● 素早く要点をおさえる 読解力
  問題の分量が多いので,リード文はすばやく的確に読み解く必要がある。そのためには,内容を箇条書きにして整理する訓練が有効。まずは標準レベルのリード文を読む訓練から始めて,徐々に東大レベルに近づけていこう。また,解答時間を意識しながらの演習は,スピードアップに効果的。
●要求3● 読解力と知識力に基づく 考察力+論述力
   基本となる見慣れない考察問題攻略のコツは,実戦演習を重ねる中で,仮説→実験→結果→考察→仮説という一連の流れを自分なりに整理する癖を身につけること。また,論述力は自分の手を動かして答案を書き上げることが何よりも大切。独りよがりな答案になっていないか,添削をしてもらうとよい。
   なるべく早く●要求1●の完成を目指すこと(遅くとも高3の夏を目指そう)。とくに,「生態と環境」,「生物の進化と系統」は対策が遅れがちになるので,計画的に学習を進めよう。Z会の本『生物 知識の焦点』は,高校生物の全範囲について,教科書だけでは学べない入試頻出事項を解説しているので,知識力完成のお供に最適である。
 次のステップとして,入試形式の演習問題になるべく数多くあたり,●要求2●・●要求3●のレベルUPを図ろう。典型・頻出問題は一通りこなしておくこと。Z会の通信教育でも,東大の出題レベルに合わせて典型・頻出問題を出題していく。
 最後に,問題の分量が多い東大生物では,なるべく全部の設問に手をつけられるよう,問題を解くスピードも重要になってくる。本番の入試を意識して,時間配分にも気を配った演習を積もう。
▼「東大コース」生物担当者からのメッセージ
・今年の東大生物において最も特徴的だったのは,論述量が例年と比べ,非常に少なかったことです。ただし問われている知識量や考察内容をみると,難易度が低下したという印象はあまり受けませんでした。論述形式だけでなく,正誤判断やグラフ選択などの形式で,考察力を問いたい,という作題者の意図がみえます。
・第1問は,今年の論述量の少なさを特徴づけるように,IAの翻訳の知識を問う問題以外,論述形式がありませんでした。センター試験のような正誤判断形式の方が,選択肢が与えられているから簡単なのでは?と思う方もいるかもしれませんが決してそのようなことはありません。ついダミーの選択肢に惑わされて得点を取りこぼすなんてことがないようにしましょう。
・第2問は,グラフの選択問題,図を見て判断する問題と,データの分析力が問われました。こういった問題は,図やグラフと設問文に目がいきがちですが,〔文1〕〔文2〕のようなリード文の中にも解答へのヒントがあるので,必ず読むようにしましょう。
・第3問は,第1問・第2問に比べると,比較的解きやすかったといえます。東大生物に限った話ではありませんが,第1問から順に解くのはベストとはいえません。今年の東大生物でも,第1問と第2問で時間を使いすぎてしまい,第3問に取りかかるころには残り時間があとわずかなんてことがあると,合計点を伸ばすのは難しかったかもしれません。問題の難易度や自分の得意分野を考慮して,解きやすそうな問題を見抜く力を今のうちから鍛えておきましょう。