2019年度東大入試分析「国語」
分析速報
■分量と難度の変化
・全体の分量は、文系・理系ともに2018年度と同程度。
・全体の難度は、古文は易化したものの、漢文の難度が高く、全体としては文系・理系ともに2018年度とほぼ同等である。問題文を注意深く読解し、かつ解答で求められる内容を端的に整理して表現する必要のある設問が多く、国語の読解・記述の実力の有無が反映されやすい出題であった。
■今年度入試の特記事項
・【文科】4題、【理科】3題の出題構成に変化はない。すべて記述式で、1行約14センチ(書けるのは30〜35字程度)の解答欄で1〜2行の問題が中心。第一問(現代文)では100字以上120字以内という字数制限のついた記述問題が出題されるのも例年と同様。
・第一問(現代文)では2017年度以降、2行解答欄の説明問題の出題数が3問、全5問の構成が定着してきている。
・第二問(古文)は、例年に比しても平易な難度の出題のため、ここでの不要な失点は避けたい。
・第三問(漢文)では、2017・2018年度に引き続いて(一)の口語訳の傍線部が3箇所となり、設問数は文系4問/理系3問(枝問も含めると文系6問/理系5問)であった。
■合否の分かれ目
・第一問の文理共通現代文は例年に比べて読解しやすい文章であったが、2行説明問題の(一)〜(三)、120字記述問題の(四)のどちらも答案としてまとめる上で難しさがあり、〈答案全体の構成を検討する力〉や〈必要な要素を補いつつ的確に解答をまとめる力〉の有無で差がつく。狭い解答欄の中にポイントを漏らさず解答を作成する、東大即応形式の記述演習をどれだけ積めたかで得点に差が出ただろう。
■大問別ポイント
第1問(文理共通現代文) 出典:中屋敷均「科学と非科学のはざまで」
第1問(文理共通現代文) 出典:中屋敷均「科学と非科学のはざまで」
・分子生物学者による科学論からの出題。例年より読みやすい文章であるが、いずれの設問も傍線部が比較的短いため、それらの意味する内容を文脈から十分に補足し、かつ大筋をまとめ直してわかりやすく説明する力が求められる。傍線部やその前後の表現をつぎはぎするような解答の仕方では、答案をまとめるのは難しかっただろう。
・(一)〜(四)はすべて「……とはどういうことか、説明せよ」と問う内容説明問題であった。(四)では「本文全体の趣旨を踏まえて」「100字以上120字以内で」説明するよう設問指示が付されており、これは例年同様の傾向。
・(一)では熱力学第二法則(エントロピー増大の法則)に支配される一般的な世界のありさまをまず踏まえたうえで、生物の営みのどのような点が「例外」にあたるのかを説明する、という流れを押さえることが必要。(二)は「複雑」「動的」の意味合いを、文脈に即してどこまで踏み込んでまとめるかが難しい。(三)は世界に「形」を与える科学の効用について、それを「福音(=喜ばしい知らせ、よい便り)」と見なす筆者の表現に留意して答案をまとめたい。
・(四)では問題文前半で述べられた〈生命がもつ「形」を生み出す特徴〉についても過不足なく押さえることが、設問条件にもある「本文全体の趣旨」を踏まえるためには必要となる。とはいえ、全体の要約ばかりを意識した結果、肝心となる傍線部「いろんな『形』、多様性が花開く世界」がどのように生まれるのかについて、説明が不十分に終わってしまわないよう注意が必要である。
・(五)の漢字の書き取りはいずれも基本的な出題であり、満点を確保したい。
第2問(古文) 出典:『誹諧世説』
・江戸後期の俳人の逸話を集めた出典からの出題。文中に俳諧が含まれているが設問では問われていないので、場面展開を追っていけばよい。文法的に読解が難しい箇所はほぼなく、場面の読み取りは容易。登場人物の行動・心情も明確に描写されているので、解答にまとめるべきポイントもわかりやすい。余計な記述に字数を割かないよう、簡潔にまとめることを意識する必要がある。
・(一)現代語に近い表現が含まれる箇所だけに、ア「うるさし」イ「程あるべき」カ(理系オ)「あらはれたる」など細部に注意を払い、文脈を踏まえて訳出する姿勢が問われる。
・説明問題はいずれも文中のどの箇所を参照すればよいかわかりやすい。一行の解答欄に簡潔にまとめる記述力が重要となる。
・全体的に話が読み取りやすく、解答が作りにくい設問も見られなかったので、ここで時間を使いすぎてしまったり、大幅に失点してしまったりすることは避けたい。
・(一)現代語に近い表現が含まれる箇所だけに、ア「うるさし」イ「程あるべき」カ(理系オ)「あらはれたる」など細部に注意を払い、文脈を踏まえて訳出する姿勢が問われる。
・説明問題はいずれも文中のどの箇所を参照すればよいかわかりやすい。一行の解答欄に簡潔にまとめる記述力が重要となる。
・全体的に話が読み取りやすく、解答が作りにくい設問も見られなかったので、ここで時間を使いすぎてしまったり、大幅に失点してしまったりすることは避けたい。
第3問(漢文) 出典:黄宗羲『明夷待訪録』
・比較的易しい出題がされていた2017年度以前と比べて2018年度の漢文は難化したが、2019年度もその延長線上にある。構成としては「古之聖王」の時代の「学校」について述べた第一段落と、「三代以下」の時代の「学校」について述べた第二段落が対比的に書かれている。
・(一)の現代語訳は、毎年、各字の語義と文脈を踏まえた意味判断が求められるが、解答欄は半行しかない。aは「僅(わづかに……のみ)」の意味を押さえた上で、「此」の指示内容をどこまで含めるべきか悩む。ⅾ(理系c)「草野」は「在野」ともいい、朝廷ではない〈民間〉のこと。e(理系ⅾ)「与」は多義語だが、ここは〈関係がない〉の意。
・(二)は「不敢自……」という、〈自分から進んで行うことはしない〉意を表す構文。「為非是」は〈是非を判断する〉などとすればよい。
・文系のみの(三)は「勢利」「本領」といった表現をできるだけ自然な日本語にすることが必要。
・文系(四)/理系(三)の「なぜ『亦』と言っているのか、本文の趣旨を踏まえて」とある条件は、〈学校の本質を押さえるどころか人材の育成すらできない〉といった内容を書かせたいのだろうが、難しい。
・漢文は昨年同様難しかったので、文脈を踏まえて多義語の意味を慎重に見極め、文章の大筋を外さないようにしたい。
・漢文は昨年同様難しかったので、文脈を踏まえて多義語の意味を慎重に見極め、文章の大筋を外さないようにしたい。
第4問(文系現代文) 出典:是枝裕和「ヌガー」
・映画監督である是枝裕和の随筆からの出題。「迷い子」という経験を通して、子供がどのように世界と向き合うのかを考察している。筆者の心情や思想は読み取りやすく、解答の方向性もつかみやすいものが多いが、答案としてまとめる際の記述・表現のしかたに工夫が求められる。傍線部の理由説明問題2問、内容説明問題2問の4問構成。
・(一)(三)は、指示語や、傍線部の表現に留意して説明したい。
・(二)は、「疎外感」を感じていた「僕」が、母との日常を思い出すことによって「不安」が消えた、という文脈に注目したい。
・(四)は、傍線部直前の「そのことに気付いた」の内容を押さえる。「こっそりと泣く」理由は、本文で明確に示されているわけではないので、解答のまとめ方に戸惑ったかもしれない。
攻略のためのアドバイス
東大国語を攻略するには、次の3つの要素を満たす必要がある。
●要求1● 基本的な語彙力
東大国語では、専門的で難解な言葉はあまり出題されない。それだけに、受験生として、そして未来の東大生として必須の基本語彙を、現・古・漢において押さえていることが前提となる。語彙の学習が不足している人は、Z会の書籍『現代文 キーワード読解』『速読古文単語』『文脈で学ぶ 漢文 句形とキーワード』などを活用し、積極的に補っておきたい。
東大国語では、専門的で難解な言葉はあまり出題されない。それだけに、受験生として、そして未来の東大生として必須の基本語彙を、現・古・漢において押さえていることが前提となる。語彙の学習が不足している人は、Z会の書籍『現代文 キーワード読解』『速読古文単語』『文脈で学ぶ 漢文 句形とキーワード』などを活用し、積極的に補っておきたい。
●要求2● 文脈を理解する読解力
東大国語でよく出題されるのは、入試頻出のジャンルで、かつ論旨やストーリー展開が明快な問題文である。書かれている内容を自分の主観で歪めずに、制限時間内に正しく読み取れるかが問われている。付け焼刃的な対策では対応できず、さまざまな文章を深く読み込んだ経験の量で差がつくようになっていると言えるだろう。
東大国語でよく出題されるのは、入試頻出のジャンルで、かつ論旨やストーリー展開が明快な問題文である。書かれている内容を自分の主観で歪めずに、制限時間内に正しく読み取れるかが問われている。付け焼刃的な対策では対応できず、さまざまな文章を深く読み込んだ経験の量で差がつくようになっていると言えるだろう。
●要求3● 狭い解答欄にまとめる記述力
東大国語の設問は、すべてが記述式問題である。その理由は東大が国語の知識だけではなく、言葉の運用能力を見ようとしているからだ。詳しくは、東京大学のWebサイトで公開されている「高等学校段階までの学習で身につけてほしいこと【国語】」をぜひ読んでもらいたい。
東大国語の設問は、すべてが記述式問題である。その理由は東大が国語の知識だけではなく、言葉の運用能力を見ようとしているからだ。詳しくは、東京大学のWebサイトで公開されている「高等学校段階までの学習で身につけてほしいこと【国語】」をぜひ読んでもらいたい。
受験生の夏までは、多様なジャンルの文章に触れながら、●要求1●と●要求2・3●に対応できる力を同時に鍛えていこう。東大は入試頻出ジャンルからの出題が多いため、Z会の通信教育の本科「東大文系国語/東大理系国語」を通じて現・古・漢の「必修テーマ」を体系的に学習すると効果的である。まずは制限時間を考えずに、読解経験を積みつつ、解答欄を埋められるようになろう。
夏以降は東大即応形式の問題演習を増やしていき、●要求3●に対応する力をさらに磨いていくとよい。受験生の9月からのZ会の講座では、Z会の通信教育・Z会の教室・Z会の映像、いずれも東大対応のオリジナル問題を出題していく。添削指導を受けることで、徐々に解答の質を高めることができるはずだ。最終的には過去問に加えて、東大型の予想問題にも取り組んでおきたい。問題に取り組む際には、大問ごとの時間配分を意識して解くなど、より本番に近い形での演習をするとよい。
「読めるけど書けない」状態からなるべく早期のうちに脱出することが、東大合格の鍵となる。Z会の教材を活用し、さらにZ会によるプロの添削指導を受けることで、東大合格に直結する語彙力・読解力・記述力をバランスよく養成してほしい。
▼「東大コース」国語担当者からのメッセージ
■[本科]東大コース文系国語の詳細はこちら
■[本科]東大コース理系国語の詳細はこちら
・2019年度の東大漢文は、「学校」について論じた文章です。難度が高く苦戦した人も多かったかもしれませんが、ここで示されている学校のあるべき姿やそこで身につけるべきこと、理想の治世が終わった後の時代の学校に対する批判は、そのまま現代の社会にもあてはまるといえるかもしれません。東京大学での学校生活の中で「是非」を判断する力を身につけ、それを社会の中でも正しく発揮してほしい、という大学のメッセージを感じる出題でした。
・2019年度の東大国語では、いずれの大問においても出題の本質的な部分に関する傾向の変更はありませんでした。むしろ、〈大問間・設問間の難度を冷静に見極めて柔軟に対応する〉力、〈語彙力・記述力を活用し、読み取った内容を的確にまとめる〉力がこれまでと同様に重視された出題であったといえます。
東大国語対策では、東大の過去の出題傾向を十分に研究し、それに対応した問題演習を積むことが非常に重要です。Z会では長年の入試分析をもとに、本科「東大コース」、専科「東大即応演習」「過去問添削」など、東大合格までの道筋を支える講座を多数用意しています。良質な問題と添削指導を通じて盤石の実力を養成し、東大合格をつかみ取りましよう!
■[本科]東大コース文系国語の詳細はこちら
■[本科]東大コース理系国語の詳細はこちら