2019年度東大入試分析「地理」
分析速報
■分量と難度の変化(地歴…時間:2科目150分)
・指定字数2行(60字)・3行(90字)の論述問題が中心だが,単答問題も多い。
・ほぼすべての大問において,資料(統計表・グラフ,地図など)を利用した問題が出題される。
・2018年度に比べ,論述問題数と論述字数が減少した(17問・36行;1080字→14問・31行;930字)。
・論述問題は題意をつかみにくい問題が少なく,資料数も2018年度と同じであった。全体としての難易度は昨年並(標準)である。
■今年度入試の特記事項
・第1問の「自然環境」,第3問の「日本に関する出題」は例年通りの出題であった。第2問は例年第1次産業・第2次産業が中心であったが,グローバル社会に関する出題として,世界の国際貿易と国際旅行者に関する出題であった。
・論述問題数は14問と2018年度の17問から減少した。30字の論述問題数も2018年度の6から1に減少している。また,指定語句を用いた論述問題は2018年度の7問から2問に減少した。
・単答問題の出題数が10から15に増加した。
・第1問で,メッシュマップに関する出題が見られた。また,地域の人口密度を算出する計算問題も出題された。
・2018年度に出題された,語群から複数の指定語句を選ぶ論述問題は見られなかった。
・今年度も地形図の読図に関する出題は見られなかった。
■合否の分かれ目
・単答問題は出題数が増加したものの,基本的な内容がほとんどであったため,ミスなく確実に解答できたかにより,得点の積み増しができたものと思われる。
・問題数が多いため,時間を意識し最後まで解答しきれたかどうかでも点差が開いたと思われる。
・東日本大震災の影響など,近年起こった災害に関する出題も見られた。時事的な出来事と地理的な視点を結びつけて考えられているか,問題文や資料,指定語句から,いかに解答のポイントを引き出せるかが合否の分かれ目となった。
■大問別ポイント
第1問
第1問
・「自然環境と人間活動の関係」をテーマとする大問。全体的に基本的な問題が多く,問題の指示に従って確実に解答したい。設問A(1)(2)の河川流域の気候区分や設問Bのメッシュマップなど,問題文の情報から頭の中に地図を構築できたかがポイントとなった。
・設問Aは,東アジアから東南アジアの海岸線と河川に関する出題。(2)は「巨大なため池」が乾季,「高床式」が雨季に対応するものと思い浮かべば容易である。(3)は河川dにおけるインド洋津波の被害について知らなくても,「河川bの河口から河川cの河口にかけての海岸地域」をヒントに解答が導き出せる。
・設問Bは,メッシュマップに関する出題。まずは図1―3の標高からおおまかな地形を確認してから問題に取り組みたい。(1)は問題にある地形をすべて用いて説明したい。(2)は単位の指定がないが,問題文や図から単位を間違えないようにしたい。(3)は(1)でおおまかな地形の認識ができていれば容易である。どのような地形において人口が多いのかを考えていくとわかりやすい。
第2問
・「世界の国際貿易と国際旅行者」をテーマとする大問。2018年度の運輸に引き続き,環境問題と観光から出題されており,グローバル社会を意識した内容となっている。時事的な内容も見られるが,各国・地域の状況などと結びつけて考えれば難しくない。
・設問Aは,窒素の排出が引き起こす環境問題に関する出題。(1)は様々な解答が予想される。(2)はまず図2―1が示している意味を理解することが肝要である。問題文の窒素の種類が,どの生産過程で多く排出されるかを確認し,各国の産業と照らし合わせて考えることや,(イ)は農産物や軽工業製品の生産過程で排出される水溶性窒素,(ウ)は化石燃料の生産過程や火力発電で排出される窒素酸化物のみ,図の「輸出品の生産過程での排出の方が多い」に見られるため,これらの産業における輸出が多い国と考えることができる。(3)はオーストラリアの貿易の特徴から考えたい。(4)は問題文に「国際貿易に関連させて」とあるため,各国の状況だけで考えないようにしたい。規制のない国から製品を輸入することは,輸入国における窒素の「輸入品の生産過程での排出」の増加につながることに気づきたい。さらに輸送機関からの排出の可能性についても触れておくとなおよい。
・設問Bは,国際旅行者に関する出題。(2)は(1)で国名がしっかり判定できていれば容易な問題である。自然的・社会的条件をバランスよく解答したい。(3)は時事的な内容であるが,ニュースなどでもよく取り上げられているため,解答はしやすかったであろう。指定語句から連想される事項をどれだけ引き出せるかどうかもポイントであった。
・設問Aは,窒素の排出が引き起こす環境問題に関する出題。(1)は様々な解答が予想される。(2)はまず図2―1が示している意味を理解することが肝要である。問題文の窒素の種類が,どの生産過程で多く排出されるかを確認し,各国の産業と照らし合わせて考えることや,(イ)は農産物や軽工業製品の生産過程で排出される水溶性窒素,(ウ)は化石燃料の生産過程や火力発電で排出される窒素酸化物のみ,図の「輸出品の生産過程での排出の方が多い」に見られるため,これらの産業における輸出が多い国と考えることができる。(3)はオーストラリアの貿易の特徴から考えたい。(4)は問題文に「国際貿易に関連させて」とあるため,各国の状況だけで考えないようにしたい。規制のない国から製品を輸入することは,輸入国における窒素の「輸入品の生産過程での排出」の増加につながることに気づきたい。さらに輸送機関からの排出の可能性についても触れておくとなおよい。
・設問Bは,国際旅行者に関する出題。(2)は(1)で国名がしっかり判定できていれば容易な問題である。自然的・社会的条件をバランスよく解答したい。(3)は時事的な内容であるが,ニュースなどでもよく取り上げられているため,解答はしやすかったであろう。指定語句から連想される事項をどれだけ引き出せるかどうかもポイントであった。
第3問
・「日本の産業と国土」をテーマとする大問。時事的な内容も多く,日ごろからニュースや新聞をチェックしているかどうかで差がつく問題である。他の大問に比べて論述字数が多いが,解答の方向性はつかみやすく解答しやすい。
・設問Aは,7都道府県における産業別就業者比率の変化を問う出題。(1)は知識経済化・情報社会化という用語から専門性が高く,大都市圏への集中が考えられるが,通信技術の向上により,コールセンターなどの労働集約的業務は,人件費の安い地方での事業展開の可能性も考えられる。(2)は「医療,福祉」の割合が高い高知県,沖縄県,北海道に共通した特徴を考える。「2つの点」とあるところに注意したい。(3)は東日本大震災前後の被災地の産業構造の変化を問う問題。表3―1より大きく変化した「製造業」「建設業」を中心に,変化の理由とともに説明したい。
・設問Bは,日本の5つの半島について,それぞれの特徴を説明する出題。(1)はヒントが多いため完答したい。A半島は遠洋漁業とダイコン,B半島はリアス海岸と真珠,C半島は核燃料廃棄物関連の施設から判定したい。(2)は都心部の人口回帰の影響を受けていることから考えたい。ニュータウンのオールドタウン化と同じ構造であるとも考えられる。(3)は「ハイテク産業」の使いどころが難しいが,九州地方がシリコンアイランドと呼ばれることをヒントに考えたい。
攻略のためのアドバイス
東大地理を攻略するには、次の3つの要素を満たす必要がある。
●要求1● 使いこなせる知識力
東大地理では,全分野・地域の基本事項を覚え,使いこなせる“知識力”が求められる。なかでも,自然地理(地形・気候・植生など)に関する出題とそれに関連する農牧業・文化・環境問題の出題が多い。これらに対応するため,自然地理に関する知識をとくに確実なものにしておく必要がある。
●要求2● 多くの情報を読み取る資料読解力
東大地理では,統計資料・地図などから多くの情報を読み取る“資料読解力”を必要とする問題が多い。とくに資料から国名・品名などを判定する問題に正解することは,合格点確保には必須である。また,地形図の読図問題が出題されることもあるので,基本的な地形図の読図力も養っておきたい。
●要求3● 簡潔・確実に解答できる表現力
東大地理の出題形式の中心は,60字・90字の論述問題である。このような指定字数の少ない論述問題に対応するには,問題で要求された条件に対して,簡潔・確実に解答できる“表現力”が求められる。それには,「題意を正確に把握し,聞かれていることだけに答えること」「掲載資料・リード文の意味を読み取り,それらへの配慮がわかるような表現を織り込むこと」を意識した論述演習が必要である。
まずは,東大地理を攻略するために,基礎力を完成させよう。それには,●要求1●を満たすため,教科書学習を中心に,学習が手薄な分野・地域をつくらないように努めよう。Z会の通信教育の本科「東大コース 地理」を利用するなどして,高校3年生の夏までには教科書の全範囲の学習を終わらせておきたい。とくに,東大地理で頻出の自然地理(地形・気候)や日本地理(とくに人口・都市・工業)の苦手分野は必ずなくしておくこと。また,●要求2●を養うため,統計集や地図帳に目を通す習慣をつけ,統計の持つ意味を理解しておくことが重要である。
次に東大型の問題への取り組みを始めよう。実際の入試で総字数1,000字程度の論述問題を75分ほどで取り組むことを想定すると,基礎力の完成を待って論述対策を始めるのは得策ではない。遅くとも高校3年生の夏までに,論述力養成にも着手しておきたい。また,東大地理の攻略には,過去問などで傾向を知り,東大型の問題演習を繰り返し行うことが有効かつ効率的である。とくに高校3年生の秋以降は,Z会の通信教育の特講「過去問添削 東大地理」などを利用し,これまで身につけた●要求1●・●要求2●の力を試しながら東大型の問題に取り組み,添削指導を受けることで,●要求3●を磨いていこう。
最後は実戦演習を行おう。最終的には,「素早く」「確実に」資料判読を行うことで失点を抑え,答案の完成度を高めて得点の上積みができるようにしておきたい。●要求1●〜●要求3●をすべて身につけた上で,Z会の通信教育の特講「直前予想演習 東大即応地理」で,制限時間・時間配分や問題に取り組む順序などを意識し,より本番に近い形で得点力のある答案を作成する訓練を積もう。
▼「東大コース」地理担当者からのメッセージ
■[本科]東大コース地理の詳細はこちら
・2019年の東大地理は,近年あまり見られなかった形式の問題や時事的な問題が見られ,解答に苦心した受験生が多かったと思われます。全体的な論述字数は減少したものの,短い時間で多くの論述問題を解答することに変わりはありません。また,図表の読み取りを中心とする単答問題の出題も多く見られ,日本についてやや詳細な内容が問われました。日本地理は対策が手薄になりがちですが,中学校で使用した教科書や参考書なども活用して,しっかり対策しましょう。
・東大地理は基礎知識を土台として取り組む問題が多いため,基礎知識の定着と,論述問題への取り組みを対策の両輪として行う必要があります。Z会の通信教育の本科「東大コース 地理」では,こうした東大地理の形式を分析し,基礎知識の確認や図表の読み取りをもとにした論述問題を,幅広い範囲から多数出題していますので,多くの演習量を積むことができます。「何を,どのくらい書いたらよいのか」というのは論述対策で誰もが迷うところですが,丁寧な添削指導により,東大合格に必要な論述力を磨くことができます。東大を目指すみなさん,Z会と一緒に頑張っていきましょう! ■[本科]東大コース地理の詳細はこちら