2019年度東大入試分析「英語」
2019年度東京大学個別試験 分析速報
■分量と難度の変化
・分量:変化なし
・難易度:やや易化(※3(A)(B)(C)のリスニング問題を除く)
■今年度入試の特記事項
・1(A) 問題文の中に,要約するべき内容の指示が含まれていた。
・1(B) 昨年度新形式の英語要約問題は出題されず,従来の文補充に加えて,2017年度と同形式の語補充が出題された。
・2(B) 昨年度から引き続き,和文英訳が出題された。
・4(A) 昨年度の語句整序の形式ではなく,2017年度と同様の正誤問題(「誤りを含む下線部を選ぶ」形式)が出題された。
・今年度も形式の変化がいくらか見られたが,求められる力は例年通りのものであったと言える。東大入試レベルに合わせた英語力の養成をおこなっていれば対応できたと思われるが,形式の変化に合わせてアウトプットの形を整えるのは苦労したかもしれない。
■合否の分かれ目
・例年通り,英語の発信力・受信力・批判的な思考力を試す問題がバランスよく出題された。
・大問別に見ると,2(A)の自由英作文は例年通り負担が大きく,4(A)がやや難化するなどしたものの ,特に1(A),1(B)など,例年と比較すると取り組みやすい問題が多かった。しかし,120分という限られた時間内でこれだけの問題をこなさなければいけないことを考えると,決して時間的余裕はなく,負担感の多い問題構成であることは例年と変わらない。取り組みやすい問題をできるだけスピーディーに処理し,負担感の大きい問題にかける時間を確保したい。
■大問別ポイント
1(A) 要約
1(A) 要約
・「ヨーロッパにおける児童の人権にまつわる変化」についての約320語の英文の要約問題。
・本文の語数はほぼ昨年度並み,パラグラフ数も昨年度同様の3つであった。意味を把握しにくい語句も文構造も見られず,内容として読みやすかっただろう。
・制限字数は昨年度と同様の70〜80字。問題文に,「ヨーロッパで生じたとされる変化の内容を…」と,要約すべき内容の指示が含まれたという点で変化が見られた。
・要約内容の指示があったことに加え,パラグラフ展開も明快であったため,要約に含めるべき箇所の選定は比較的容易だったと思われる。第1パラグラフから「変化前」の内容を,第2・3パラグラフからそれぞれ「変化後」の内容を読み取って含めればよく,情報量から考えても,制限字数内でまとめることは例年ほど困難ではなかっただろう。
1(B) 長文読解(文補充,語補充)
・「音楽は共通言語か」について論じた英文。語数は補充する選択肢を含めて約790語。
・パラグラフ展開はわかりやすく,比較的内容を把握しやすかったと思われる。
・文補充という形式は昨年度と同様だが,昨年度新形式であった英語要約問題は出題されず,本文中の空所に入れる英単語1語を答えるという,2017年度に近い形式のものが出題された(2017年度は単語の頭文字が与えられていたが,今年度は「同じページの本文中から抜き出し…」という指示であった)。
・文補充については,選択肢の数は昨年度同様8つであったが,空所の数が昨年度から1箇所増えて6箇所となった。
・文補充の選択肢には指示語やディスコースマーカーなどの手がかりが多いため,前後の文をしっかりと読み,つながりを意識して取り組めば,正答にたどり着くのにさほど困難はなかっただろう。
・語補充に関しても,文脈をきちんと把握してさえいれば入れるべき単語をすぐに思いつくはず。ただし,「同じページの本文中から抜き出し…」という指示があるので,その単語が同ページ内にあるかの確認が必要。
・この問題の解答の見極めにかける時間が,全体の時間配分に大きな影響を与えやすいので,問題を解く順番や時間配分に特に気をつけておきたいところである。
2(A) 自由英作文
・新たにどのような祝日を提案するかを,意義と理由とともに60〜80語の英語で述べる問題。
・語数は昨年度よりは増えたものの,標準的な範囲内。
・近年傾向として多かった英文の引用やイラストなどの資料の提示はなく,より発想力が問われた。問題指示には意義と理由も含めて記述するようにあり,指定語数をどのように使うかの指標にはなるものの,説得力のある内容を思いつくのが難しい。
・東大の自由英作文では毎年,さまざまな題材を基に自由な発想力が求められつつも,客観的な視点を持っているか,また,根拠を提示できるかの力が試される。柔軟かつ論理的な思考を養うようにしよう。
2(B) 和文英訳
・昨年度に引き続き,下線部の日本語を英訳する問題。
・題材は,「プラスチックごみを減らすという環境運動」という昨今話題のなじみのあるものであった。そのため,日常的に話題の事象に目を向けていれば驚くことはない。
・題材は,「プラスチックごみを減らすという環境運動」という昨今話題のなじみのあるものであった。そのため,日常的に話題の事象に目を向けていれば驚くことはない。
・1文が長いのは昨年度と同様だが,昨年度と比較して訳出する英文の構造は想像しやすい。特別な構文や文法を使用する必要はなく,普段から読解を含めてさまざまな英文にふれていれば迷いも少なかったはずだ。
・訳出する際に,「かけがえのない」や「自覚する」など,日本語的な言い回しをいかに英語にするかもポイントであった。
・訳出する際に,「かけがえのない」や「自覚する」など,日本語的な言い回しをいかに英語にするかもポイントであった。
3 リスニング(※リスニングスクリプト未公表のため,設問からのみの分析となる。)
・昨年度同様,(A)と(B)は連続した内容で,(C)のみ独立していた。出題形式がすべて英問英答の選択式であることも昨年度同様である。
・(A)と(C)は「講義」形式,(B)は「対話」形式であったようだ。(A)で,ある博士が見解を述べ,(B)で司会者と別の2人の博士が(A)の内容についてディスカッションをするという形式。これは昨年度と同じだが,(A)の人物が(B)で登場しないという点で昨年度と異なる。
・昨年度に引き続き,(A)5問,(B)5問,(C)5問であった。また昨年度と同様,選択肢は各問5つあり,検討すべき内容が多いので負担が大きかっただろう。
・昨年度は(C)のすべての設問文に空所があり,それを埋める選択肢を選ぶ形式であったが,今年度は英文完成と,(A)(B)と同様の内容一致という形式だった。なお,この英文完成の形式は今年度は(B)にも出題されている。また(A)では,2つの空所に合う単語の組み合わせを選ぶ形式の問題も出題されている。
(A)ある文化人類学者による講義。
・昨年度に比べると選択肢の英文が短くなっている。
・内容一致形式の問題が5問中4問出題された。残る最後の1問で,2つの空所に入る講義において言及された内容を示す単語として正しい組み合わせを選ぶ問題が出題されている。なお,解答に関する注意点も英語で書かれている。
・講義で発言者が言及しなかった内容を選ぶ問題もあった。
(B)(A)の内容に関する3人による対話。
・昨年度は「この会話に基づくと,○○博士が最も同意しそうな意見はどれか」を選ぶ問題,つまり部分的ではなく全体を通して2人の博士の主張を汲み取る必要がある問題が出題されたが,今年度はこの文言が書かれている問題はなかった。
・2人の博士の意見の相違を汲み取ることが求められる問題が出題されていることは昨年度と同様であった。
・英文完成の形式が2問出題され,その他3問は内容一致の形式であった。
(C) 講義
(C) 講義
・今年度は空所補充ではないものの,英文完成問題が2問,その他3問は内容一致問題であった。
・ここでも(A)と同様にnotに下線が引かれている問題が出題され,講義では言及されていないものを選ぶものであった。
(全体)
・講義形式や対話形式などさまざまな形式の演習に慣れておこう。問題においては放送文の内容と合致しない選択肢を選ぶために,聞こえてくる単語などだけではなく,きちんと内容を理解する必要がある。
4(A) 正誤問題
・「ある18世紀の偉大な女性数学者」に関する英文。昨年度の語句整序問題ではなく,2017年度の正誤問題に戻った。それに伴い語数も約560語とほぼ2017年度並みとなり,昨年度から大幅に増加した。
・英文は5つの段落に分かれており,各段落それぞれ5つの下線が引かれている箇所がある。
・誤りを含まない箇所にも,見慣れない単語や表現が含まれているため「正しい」と確信を持ちにくい。確かな文法・語法、イディオムや熟語の知識の有無はもちろんだが,その知識を用いて英文を正しく理解できているかも問われている。
・(22)[a]はbe suited to〔for〕「〜に向いている〔適している〕」。suit toの間にby nature(生まれながら)が挟まれており,つながりがわかりにくくなっていた。
・(23)[d]直前にthe arts and sciencesがあるので一見それらしく見えるが,ここのeitherは不要。
・(25)[e]文脈からAgnesiの功績が,それまで数学者によってばらばらだった発見を均一の方法にまとめたことであると読み取れたかどうかがポイント。reduce almost uniform methods(ほぼ均一の方法を減らす)では意味が通らない。
4(B) 下線部和訳
・「子やペットを育てる上での筆者の両親の愛情のあり方」に関する約300語の英文。
・下線部は3問で,これは昨年度から変化なし。
・語数は,昨年度が約260語であったので,今年度は微増。
・全体として,語彙や文構造は難しくないものの,日本語に訳す際に工夫が必要な箇所が多い。各下線部の主なポイントは以下の通り。
・(ア):前文の内容も含めてthe islandsは「ハワイ諸島」であることを理解したい。また,a certain commitment of timeでのcommitmentを直訳するとわかりづらいので「ある程度(一定)の時間を割く」とのように訳出したい。
・(イ):hopeは動詞と同じような意味合いでin the hope that 〜でも「〜を期待して」とするとよいだろう。pay back the debt of their existenceでは,pay back the debtだけでは「借金を返済する」という意味だがthe debt of their existenceとなったときに適切な日本語にできるかどうかがポイント。文脈から読み取れる「今まで生み育ててくれた恩のお返し」のことを表したい。
・(ウ):philosophyは前文までの内容を指すように「人生観;考え方」とする。in many ways (多くの点で)はそれ以降の内容に関してのことと読み取り,かつ,contradictの目的語となるwhat以下では,a pet should beの補語がwhatであることを理解した上でこなれた日本語にすること。
5 長文読解
・ある人物に関する伝記的エッセイからの出題。語数は昨年とほぼ変更ないが,事実に基づいて書かれており,昨年度の小説よりも読みやすくなった。
・記述問題は,昨年度の下線部和訳がなくなり,説明問題が2題となった。昨年7年ぶりに出題された長文読解問題中の整序英作文は今年度も出題された。
・選択式の問題は本文の空所補充問題と,内容真偽問題。
・(A)下線部を,その前にある "all the jokes" の例であることがわかるように説明する問題。do nothing(何もしないこと)にburn out(燃え尽きる)という,表現の面白さを日本語でうまくまとめたい。
・(B)下線部のより詳しい内容はその後に続く文の中のan attitude like "(中略)what's going to amaze me now?"とwe can be amazed and delighted by what's around usの対比が分かれば,それほど難しくなかっただろう。
・(C)苦労した人が多かったと思われる。選択肢の語と,この問いに対する返答 "It is pleasing for whatever reason you find it to be." から,強調構文であると気づけたかどうかがポイント。
・(D)(ア)(イ)共に文章全体の流れを追っていけばそれほど迷わず正答を選べたと思われる。(ウ)本文中で根拠となる箇所を探しやすい選択肢となっていた。
攻略のためのアドバイス
東大英語を攻略するには、次の3つの要求を満たす必要がある。
●要求1●「基本=易しい」と甘く見てはいけない
難易度が高い語彙はあまり登場しないが,文脈や時系列の把握が難しい英文を題材にしたり,基本語の盲点となる用法を設問としたりすることがあり,基本事項の習得が疎かだと得点を伸ばすことができない。
難易度が高い語彙はあまり登場しないが,文脈や時系列の把握が難しい英文を題材にしたり,基本語の盲点となる用法を設問としたりすることがあり,基本事項の習得が疎かだと得点を伸ばすことができない。
●要求2● 高度なリスニング力を身に付けよう
東大のリスニングは,放送時間が長いのに加え,聞き取り問題として扱うには高度な英文を題材にしたり,複数の放送の内容が関連していたりして,解答には高度なリスニング力が求められる。差がつきやすい問題の1つなので,対策には十分時間をかけておく必要がある。
東大のリスニングは,放送時間が長いのに加え,聞き取り問題として扱うには高度な英文を題材にしたり,複数の放送の内容が関連していたりして,解答には高度なリスニング力が求められる。差がつきやすい問題の1つなので,対策には十分時間をかけておく必要がある。
●要求3● 時間管理力を付けよう
東大入試英語の最大の壁は,与えられた試験時間内に膨大な問題に適切に解答できるかどうかである。まずは時間を意識して問題を解くこと。読解量もさることながら,大意要約や自由英作文など記述に時間がかかる問題も含まれているので,日ごろから答案作成→第三者による添削→添削内容の習得・答案改善のサイクルを築いて,質の高い答案を迅速に作成できるようになっておかなければならない。
東大入試英語の最大の壁は,与えられた試験時間内に膨大な問題に適切に解答できるかどうかである。まずは時間を意識して問題を解くこと。読解量もさることながら,大意要約や自由英作文など記述に時間がかかる問題も含まれているので,日ごろから答案作成→第三者による添削→添削内容の習得・答案改善のサイクルを築いて,質の高い答案を迅速に作成できるようになっておかなければならない。
まずは基礎力の完成を目指すこと。文法事項を網羅的に習得した上で,さまざまな英文を正確に読めるようにしておこう。また,対策にあてた時間が得点に直結しやすい要約・自由英作文の記述対策にも早い段階から取り組んでおきたい。
基礎力が身に付いたことを実感できるようになったら,答案の精度を上げていく一方で,時間管理力をつけるために時間を計って演習し,自分の課題を確実に消化しておこう。
最後に,自分で納得できる答案を試験時間内に書けるような時間配分を感覚として身につけておいてほしい。試験本番は必要以上に時間をかけて問題に臨んでしまい,時間配分がうまくいかないこともある。ある程度余裕のある戦略を組み立てられるように,問題に十分慣れておくこと。過去問研究の差が明暗を分ける。
▼「東大コース」英語担当者からのメッセージ
・東大は大学のHPにて,「(高等学校段階までの学習で)その言語についての正確な知識に裏打ちされた論理的な思考力の養成に努めて」「ときにその言語の背景にある社会・文化への理解を要求する問題が出題される」と明言しています。東大英語の問題全体を見れば,このメッセージが含まれていることがわかりますね。
・1(B),4(A)は例年,「今年は何が出るのか」が気になる問題ですが,今年度,1(B)は文補充+語補充,4(A)は「誤りを含む下線部を選ぶ」問題で,ほぼ2017年度と同じ形式に戻りました。1(B)の文補充+語補充は,昨年度新たに出題された英語要約よりは取り組みやすく,ここで時短を図るのが時間配分のポイントだったと言えるでしょう。
・2(B)では昨年度,21年ぶりに和文英訳が出題されましたが,今年度も自由英作文には戻らず,引き続き出題がありました。取り組みやすい内容であるからこそ,文法面でのちょっとしたミスが得点に影響する出題かもしれません。英語の4技能化が叫ばれている昨今ですが,上でも述べた通り,正確な文法知識は最低限身につけておきたいところです。
・東大英語は決して語彙・内容面で難しいものではありませんが,意味を理解しただけでは得点につながらない問題がほとんどです。つまり,解答を作成するための日本語・英語での記述力こそが最大のポイントとなります。Z会の「東大コース」では,東大の入試を分析し尽くした上で練り上げた良質な問題を出題。プロの添削者による個別の添削指導も受けられるので,実戦力が確実に上がります。Z会で問題演習を重ねて解答の質を高め,一緒に東大合格を勝ち取りましょう!