2018年度京都大学個別試験 分析速報

■分量と難度の変化(時間:90分) 
・例年,大問4題で構成され,例年,自然(地形図の読図を含む),産業,社会,地誌の4分野から出題されていたが,近年は,地形図の読図,自然,産業・社会分野からの出題となっている。
・論述問題を中心に単答問題(選択・空欄補充を含む)も多く出題される。
・大問1題につき,2〜3つの資料が提示されることが多い。
■今年度入試の特記事項 
・大問Iの地形図は鳥取県の弓ヶ浜(砂州)の地形図であった。
・指定字数のある問の総字数は420字(2017年度は440字),字数指定のない短文論述(20〜60字程度)が6問(2017年度は5問)で,論述総字数は昨年並である。
・2017年度に出題された作図問題は見られなかった。
・空欄補充形式の出題は見られなかった。
・地誌分野からの出題は見られなかった。
 
■合否の分かれ目 
・単答問題も基本的な用語を問うものが多く,また論述問題も難易度の高いものはあまり見られないため,十分に対策を行った受験生であれば解答できる問題が大半である。しかし,そのことはすべての京大受験生に共通して言えることであるため,1〜2点が合否を分けることがある。単答問題の失点やケアレスミスは絶対に避けたい。
・設問文が解答のヒントになっているものが多い。設問文をよく読むことで効率的に取り組むことができ,高得点を目指すことも可能となる。
・大問IVのグラフの読み取りのように,示されている国の数が多い場合でも,他の問題も参考にし,焦らずに冷静に取り組めたかどうかも合否を分けるポイントになる。
 
 
■大問別ポイント
 大問I 

鳥取県西部の弓ヶ浜半島(砂州)における地形図の読図問題である。
・(1)地形図と衛星画像から1の砂州と2の潟湖を読み取ることは容易である。
・(2)問題文に「水際線」という見慣れない用語があるが,問われていることは土地利用のみである。
・(3)針葉樹の役割は,砂州という地形と分布する位置に注目すると分かりやすい。
・(4)Aの水際線の形状から,農地確保のために埋め立てが行われたと推測できれば解答しやすい。
・(5)Aの湖沼は中海である。弓ヶ浜半島には,江戸時代に灌漑用水路が建設されていた。さらに,戦後,中海を淡水化することで農業用水を確保して農地の拡大を行い,食料増産をめざしたところまで言及したい。
・(6)A側に列状に並ぶ集落から,集落付近の標高をヒントにして解答したい。
・(7)基本用語である輸送園芸について,解答欄の大きさに合わせて過不足なく説明したい。

 
 大問II 
世界の植生に関する出題である。植生に関する7つの文から,気候・農業などが幅広く問われている。いずれも基本的な内容であるので,ミスなく得点しておきたい。
・(1)写真と文から,サバナと確実に解答したい。
・(2)問題文の条件に従って,気候の違いを降水量にしぼって比較したい。「降水量の点から」とあるので,解答しやすい。
・地中海性気候区の特徴を簡潔にまとめたい。
・(4)1と2の砂漠の名称は基本問題である。3の砂漠の成因のうち,海岸砂漠について言及する。頻出の問題なので,解答しやすかっただろう。
・(5)1のプレーリーの植生の特徴は確実に解答したい。2の土壌の特徴について,気候と農業の面から作物名も含めてバランスよくまとめたい。
・(6)初見の地名があっても焦らずに分かるところから解答し,完答をめざしたい。
 
 
 大問III 
グローバルに展開される金融活動とスラムに関する出題である。地図と問題文から金融センターの機能を持つ4つの都市を確定してから取り組みたい。
・(1)地図と問題文より,A〜Dの都市名はすぐに分かる。グラフ1のみで都市名を判断するのは難しいが,グラフ2のそれぞれの国・地域の本社数に対する都市い〜にの数の割合を手がかりに特定していくと解答しやすい。
・(2)5つの都市に共通して必要な条件としては色々なものが考えられるが,問題文に交通・人材の面からと明記されているので解答しやすい。1は時間距離,2は専門性と語学力をイメージするとまとめやすい。
・(3) 地図で*と▲の分布を確認し,それらを念頭にグラフ3から読み取った*と▲の集中している箇所の説明に地域名を付して,解答欄の大きさに合わせてまとめたい。
・(4)社会資本には何が含まれるか,具体的に示しながら解答したい。
・(5)1と2ともに,発展途上国の都市問題でキーワードとなる用語である。完答をめざしたい。
 
 大問IV 
観光に関する出題である。問題文で示されている国・地域の数は多いが,各問の条件やグラフから該当する国・地域の候補を絞って取り組みたい。
・(1)グラフ2より,近年,アジアからの訪日外国人旅行者数が増加していることを考えると分かりやすい。さらに各国・地域の経済発展を念頭に考えていくとよい。
・(2)E国は残りの候補国から,スペインとわかる。問題文に従って,ヨーロッパにおけるスペインの位置とバカンスの習慣を盛り込んでまとめたい。
・(3)問われているのは外国の事例であるが,日本でも同様の問題が発生していることに気づくと解答しやすい。
・(4)グラフ2より,A(中国)・D(韓国)・台湾に共通する事項をまとめたい。
・(5)やや細かい出題である。知識の有無で点差が開くと思われる。冒頭の候補にある国・地域を参考に,条件にあう湖・都市・島を特定したい。
 
 

京大地理攻略のためのアドバイス

京大地理を攻略するには,次の3つの要素を満たす必要がある。
 
●要求1●  幅広い分野についての知識力
 京大地理は,自然(地形図の読図を含む),産業,社会(都市・人口・民族など),地誌などといった幅広い分野から出題されるのが特徴である。細かい知識について問われることは少ないが,高校地理の全分野にわたって基本的な知識を押さえておく必要がある。また,基本的な用語については,40〜50字程度で簡潔に説明できるようにしておくことが望ましい。
●要求2● 正確な資料読解力
 京大地理では,多数の資料が提示される。資料の判読を行い,その判定結果をもとに論述するという出題構成が見られるので,資料判読を誤ると大量失点につながりかねない。例年,出題されている資料の中には読み取りが難しいものも珍しくないため,正確な資料読解力が求められる。
●要求3●  簡潔に論述する表現力
論述問題の1題当たりの指定字数は100字以内で,40〜60字程度のものが最も多いが,いざ書いてみると,字数の調整が難しい。また,2015年度から出題されている字数指定なしの論述問題に取り組む場合にも,解答欄に合わせて適切な分量を見極める必要がある(解答欄の大きさから20〜60字程度と判断する)。様々な角度から解答できるよう,基礎的な知識と簡潔にまとめる表現力が必要である。
 
 攻略法として,まずは要求1を満たすことを目指そう。授業での教科書学習を中心にして幅広い知識を正確に獲得することに努めよう。Z会の通信教育の講座を利用するなどして,高校3年生の夏までに,各分野の基本事項を理解しながら学習を進めていこう。2018年度の試験のように,基礎的な知識で対応できる出題もあるので,基礎固めを疎かにせず,知識を確実に自分のものにしておきたい。
 
次の段階としては,基礎知識を使いこなしながら,京大型の論述問題に対応できるようになろう。Z会の通信教育の講座では,高校1・2年生や受験生の夏までの間にも取り組めるよう,論述問題を段階的に出題している。また,Z会の通信教育の講座では資料問題も数多く出題しているため,京大地理攻略の大きなポイントでもある資料読解力も磨くことができる。

最後は実戦演習を行おう。制限時間を意識して,素早く正確に資料判読を行うとともに,短い指定字数の中で,的確に論述をまとめられるようになろう。Z会の通信教育の講座では京大に対応した,資料の判読を行い,その判定結果をもとに論述するという構成の問題も出題しているので,自分の得意不得意,問題の難易度を意識し,時間内で得点を最大化できるよう取り組み方を身につけてほしい。
▼「難関国公立コース」地理担当者からのメッセージ
・大問Iは,地形図からだけでは読み取りが難しい問題もありましたが,衛星画像などから「弓ヶ浜半島」「中海」が思い浮かんだ人は取り組みやすかったと思います。2017年度の本科「難関国公立コース地理」1-1の大問1では,同じ弓ヶ浜半島のつけ根あたりの地形図を取り上げていましたので,とくに問(5)は参考になったと思います。
・大問IIは,植生帯の写真が取り上げられていました。お馴染みの写真でしたので拍子抜けしたかもしれませんが,こうした問題で確実に得点を積み重ねていくことが合格への第一歩となります。
・大問IIIは,初見の資料という人が多かったでしょう。持っている知識を総動員して分かるところから取り組みましょう。
・大問IVは,観光に関する問題でした。2020年に東京五輪が開催されることもあり,日本は観光に力を入れています。近年,アジアからの観光客が増加していることと中国人観光客の「爆買い」といった時事的なニュースを,地理的な要素(位置や経済状況)と結びつけて考えられるとよいでしょう。